ラグビー

特集:パリオリンピック・パラリンピック

立教大・西亜利沙 最年少20歳、パリ五輪で旋風を起こしてラグビーの価値を高めたい

西は現役立教大生としては26年ぶりのオリンピアンだ。夏季五輪に限れば60年ぶり(すべて撮影・斉藤健仁)

3大会連続で夏季オリンピックに挑む「サクラセブンズ」こと7人制ラグビー女子日本代表は、昨季の国際大会で5位、今季も5月に6位になるなど結果を残し、選手たちも「過去3大会で最もメダルに近い位置にいる」と自信を深めている。パリ五輪に出場する12名の中で、大学生で唯一選出されたのがチーム最年少20歳の西亜利沙(立教大学2年/東京山九フェニックス、関東学院六浦)だ。

現役立教大生26年ぶり五輪、夏季は60年ぶり

立教大学生のオリンピック出場は、1998年の長野五輪で女子アイスホッケー日本代表に選出された佐藤あゆみさん以来26年ぶりで、夏季大会では1964年の東京五輪以来となる快挙だという。「立教大学のチームメートに報告したら、みんな喜んでくれました!」(西)

「立・動・戦」をキーワードに強化してきた鈴木HC

東京五輪で12位と惨敗してしまったサクラセブンズ。大会後に鈴木貴士ヘッドコーチ(HC)が就任し、「立・動・戦」(常にフィールドに7人が立ち、動き続け、一瞬一瞬の勝負に勝ち続けるラグビーをする)をキーワードに強化してきた。世界を転戦するサーキット大会「ワールドシリーズ(WS)」では、昨季、初めて5位に入り、今季も総合では9位だったが、4月の香港大会7位、5月のシンガポール大会は6位と尻上がりで、好調をキープしている。

最終のオーストラリア合宿まで選手たちを競わせながら、最後に12名を発表した。大会後に退任する鈴木HCは「着任してから『立・動・戦』という三つの言葉をキーワードに、自分たちのこだわりとしてやってきて、それをしっかりと体現できる、世界と戦えるメンバーを選んだ」と選考理由を発表した。

西は昨年12月のドバイ大会で初めてWSに出場。さらに4月、5月の香港大会、シンガポール大会でのプレーぶりなどが評価されて、同じポジションの先輩選手のコンディション不良もあったが、大学2年生ながらパリ五輪に選出された。「コンタクト、フィジカルの部分で通用する部分が大きくて、鈴木HCにWSで成長できたという言葉をいただきました。キックオフの精度の部分も評価されたと思います。(オリンピックメンバー選出は)うれしさが上回っているのでまだ緊張していません(笑)」

五輪代表選出のうれしさが大きく、緊張はこれからという西(後列中央)

男子に交じり練習 高3で代表デビュー

西は大阪府出身。父が高校、大学で部活、社会人になっても草ラグビーを続けていた影響で、5歳の頃から家の近くに練習場があった八尾ラグビースクールで競技を始めた。小学校時代は、スクールに女子選手が5~6人いたが、中学時代は2人となってしまったという。ただ男子と一緒に練習しながらもラグビーへの情熱は冷めることはなかった。「小学校時代から精度の高い練習をしていたので今につながっている」。東京サントリーサンゴリアスのSO高本幹也はスクールの先輩で、弟の悠介(中学3年)は同スクールに在籍中だ。

「高校ではもっとラグビーに専念したい」と思っていた西。女子ラグビー部のある大阪の高校へは、実家から通学する場合は、往復で3時間かかる。この通学時間を「もったいない」と考えた西は、親元を離れ、女子ラグビー部のある神奈川・関東学院六浦高校で寮生活を送ること決める。

「関六(関東学院六浦高校)の先輩には、(日本ラグビー協会のユース年代の育成プロジェクトである)ユースアカデミーに選ばれている選手が多く、選ばれれば私も日本代表に近づくかな……」。高校に入った頃には、サクラセブンズ、そしてオリンピック出場を強く意識するようになった。

コンタクトやフィジカルの面で評価されての代表入りという

高校2年時には、高校日本一(U18女子セブンズの初優勝)に貢献し、目標としていたユースアカデミーの一員にも選出された。さらに高校3年の夏には初めてサクラセブンズに選ばれ、タイで行われたアジアシリーズに初めて出場して日本代表デビューを飾った。

また高校時代、東京五輪を目の当たりにして、「サクラセブンズを目指しているからこそ(最下位の12位に)悔しい思いをした。ただ日本も(世界の舞台で)トライを取れると確信を持ったし、オリンピックの舞台で活躍したい」と強く思った。

大学進学の際は、「高校の梅原洸監督が文武両道を掲げていたし、コーチングの勉強をしたかった」と考え、女子部員を受け入れてくれる立教大学のスポーツウエルネス学部に自己推薦で見事合格。大学に入ると同時に、7人制ラグビーの強豪・東京山九フェニックスにも所属している。大学の授業の関係でフェニックスの練習に行けない日には、立教大学の富士見総合グラウンドで週2~3回、15人制である男子とともにスキル練習を行い、空いた時間にはセブンズの個人トレーニングをするという日々を送っている。

レジェンドを追いかけ、先輩の思いを背負い

最年少でパリの切符を得た西は、ゲームコントローラーであるSOやCTBとしてプレーする。自らの強みを「ランでスペースに仕掛けて味方を生かすプレーと、キックの正確性です。キックオフボールの再獲得はサクラセブンズの一つの課題なので、成功率を上げたい。またディフェンスで前に出て、タックルで肩を当てたい」と語気を強めた。

矢崎桜子(右)と。2人は関東学院六浦の先輩、後輩で、初の高校日本一に貢献した

実は関東学院六浦高校の一つ先輩である矢崎桜子(青山学院大学3年/横河武蔵野アルテミスターズ)も、最後まで候補メンバーに残っていたが、残念ながら落選してしまった。西は「一緒にオリンピックに出たかったです。五輪のメンバー発表の後も会ったのですが、『頑張れ!』と言ってくれました。他の(落選してしまった)メンバーの思いも背負ってオリンピックに臨みたい」と前を向いた。

趣味は温泉に入ることで、自転車で大学の近隣にあるスーパー銭湯に行くこともあるという。好きな選手はニュージーランドの女子セブンズ代表のケリー・ブレイジャー、尊敬している選手は、現在サクラセブンズのメンバーで一緒にパリ五輪に臨むレジェンド・中村知春(36歳、ナナイロプリズム福岡)だ。「知春さんはレジェンドで、ずっと尊敬しています! 普段からの言動があるからこそ、一つの言葉でチームをガラッと変えるので影響されます」

予選リーグ2勝なら決勝T進出確実

女子ラグビーは7月28日から30日、パリ郊外のサンドニにあるスタッド・ドゥ・フランスで行われる。予選リーグで開催国フランス、アメリカ、ブラジルと同組となった。予選リーグで2勝すれば間違いなく決勝トーナメントに進出することができる。

西は「緊張してしまうともったいない。最大限楽しむことと挑戦することを大事に、明るくチームを引っ張ってほしいと言われているので、最年少らしくチームに勢いを与えたい。オリンピックはラグビーファン以外の人も見てくれる機会なので、結果を残してラグビーの価値を高めたい」と意気込んでいる。

若さとランの鋭さを武器に、チーム唯一の大学生・西亜利沙がパリ五輪で旋風を巻き起こすサクラセブンズの一人となる。

合宿での1枚。西は前列右から2番目。予選リーグで2勝すれば決勝トーナメントが確実という

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