ラグビー

近畿大学エースの植田和磨、オリンピック代表入り目指し「シビアな世界を戦い抜く」

男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表候補に選ばれている近畿大の植田和磨(すべて撮影・斉藤健仁)

7月にフランス・パリで開催されるパリオリンピックに向け、合宿と遠征を繰り返して強化を進めてきた男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表。現在、日本代表候補に14人、育成選手に3人が選ばれており、候補外にけが人がいるものの、現在選出されている17人から12人(予定)のオリンピック代表が選ばれる方向だ。セブンズ日本代表候補に21歳の最年少、そして大学生で唯一選ばれているのが近畿大学のエースWTBで副キャプテンの植田和磨(4年、報徳学園)だ。

代表候補に格上げ HC「潜在能力ある」

4月末の合宿から、植田は育成選手から日本代表候補に格上げされた。その直前の4月上旬に香港で開催された大会では育成枠として出場し、主力の一人として躍動した。「思いっきり行けました! ディフェンスは(15人制と違って)難しいですが、ステップワークとフィジカルは世界に通用していると手応えを感じています」と胸を張った。

チームを率いるサイモン・エイモーHC(ヘッドコーチ)も「(植田)カズマは昨季2大会に出て、今年またセブンズに戻ってきた。潜在能力があり、7人制でも、将来的には15人制でも活躍できる、才能ある選手だ」と高く評価した。

サイモン・エイモーHCは植田の才能を高く評価している

植田本人は「セブンズを続けてきたから(育成選手から)代表候補になったのかな。メンバー選考するにあたってフラットな状況なので、そのことに関してはなんとも思っていません。ただ大学生としてここに呼ばれているのはありがたいです」と笑顔を見せた。

近大で福山竜斗と運命の出会い

5歳のとき、友人の母親に誘われて地元の兵庫・明石ジュニアラグビークラブで競技を始めた。クボタスピアーズ船橋・東京ベイでプレーするFB山田響(慶應義塾大学出身)はスクールの先輩にあたり、京都産業大PR西崎海人はスクールと高校の同期にあたる。学生時代にサッカーをしていたという父ゆずりのスピードが武器で、電車で1時間半かけて、2学年上に山田がいた報徳学園に進学した。

1年時から報徳学園のレギュラーWTBとして試合に出場を重ねた。「花園」こと全国高校ラグビー大会は3年連続出場したが2回戦負け、初戦敗退、3回戦負けとベスト8に進出できなかった。また植田自身も高校日本代表やセブンズユースアカデミーなどに選出されることはかなわなかった。

誘われたこともあり、植田は高校3年時には関西リーグ最下位だった近畿大に進学する。そこでラグビー人生を大きく変える出会いがあった。寮生活を始めた植田の3学年上に、CTB/WTB福山竜斗(現・三菱重工相模原ダイナボアーズ)がいたのだ。

「(福山先輩は)人間力もあって、先輩として尊敬できる選手で、大きく感化されました。小さい頃からプロ選手になりたい、日本代表になりたいと言ってきて、中高時代は現実的ではありませんでしたが、近大に来て、人よりいかに練習・トレーニングをすることが大事なのかと意識が変わりました」

福山竜斗(中央)との出会いは植田(右)のラグビー人生を大きく変えた

1年からトライ王、チームも2位躍進

福山らの代の4年生は、ラグビー、トレーニングにも精を出しつつ、チームも引っ張っていた。植田も先輩たちの姿を追いかけるように放課後の全体練習後、ウェートトレーニングしてご飯を食べて、再びウェートトレーニングをする日々を送った。「僕はフィジカルが圧倒的に課題だったので、密に取り組んだのが良かったのかな。高校時代、ベンチプレスは70kgくらいでしたが、今は130kgほど上がるようになりました」。身長175cm、体重70kgだった体格も、現在は87kgまで増えて「相手にかける圧も違うし、ずらしたら抜けるようにもなった」と実感している。

スピードだけでなく決定力が増した植田は大学でも1年からレギュラーの座を得て、福山らとともに関西大学Aリーグで2位となり、9年ぶりの大学選手権出場に貢献。さらに植田個人は11トライを挙げてトライ王となり、関西の「ベスト15」にも選出された。「チームが強かったし、先輩たちがボールを回してくれた」と謙遜するが、大きなインパクトを残した。

植田は1年生ながら関西大学Aリーグの「ベスト15」に選ばれた

「伝統的にFWに定評のある近大に入ったら、BKの選手はそこまで伸びないと思うかもしれませんが、今の近大は弱くないし、(BKからも)リーグワンの選手も輩出している。他の大学なら試合に出られていないかもしれないし、出会うべくして出会った先輩もいたので、近大に入って大正解でした! かけがえのない選択肢になりました」

夏までセブンズに専念し、オリンピックに挑戦

大学2年時も関西リーグで8トライを挙げてトライランキング3位となり、再び、「ベスト15」に選ばれた。そして2023年1月、植田に吉報が届く。セブンズ日本代表への初招集だった。初めて桜のジャージーを着て、世界中を回るサーキット大会である「ワールドシリーズ」で2大会に出場を果たした。

「高校時代は実力がともなっておらずセブンズアカデミーに呼ばれなかったので、大学2年時に初めてセブンズ日本代表に呼ばれてうれしかった! 他の選手よりもオリンピックに近い位置にいるかなという意識もありました」

東京オリンピックに出場した石田吉平(横浜キヤノンイーグルス)とトレーニングする植田(右)

大学3年時はオリンピック予選もあったが、植田は春からは近畿大のエースWTBとしてのプレーを選択し、関西リーグでトライランキング2位、「ベスト15」選出と三度、結果を残した。

そしてオリンピックイヤーの今年、チームでは副キャプテンに就いたが、大学3年時までに卒業単位もしっかりと得た上で、夏までセブンズに専念することを決めた。「大学の監督、選手に許可をもらって、夏までセブンズをプレーする機会をいただいたので、オリンピックにチャレンジしたい」

オリンピックではメダルを、大学では関西制覇を

趣味はサウナ、そして最近は控えているが、大学の周りにあるラーメン屋に行くことも好きだという植田。自身の武器は「ボールキャリーです。セブンズは相手のディフェンスの幅は広く見えますが、相手もうまいので触られることも多く、いかに前に出られるか、そこが(チームから)自分が求められていることだし、持ち味だと思います」と話す。

オリンピックのメンバー発表は6月末の予定だ。あらためて、目標を聞くと「現在、メンバー選考中で、代表メンバーに選ばれると確定してないので、シビアな世界を戦い抜いて、オリンピックでメダルを獲得したい」とまっすぐに前を向いた。

自身の武器は「ボールキャリー」だと語る

「近大に入ったことは間違いなかった」という植田は「オリンピックに出場して、最終学年で関西制覇して大学選手権に出場し、大学生活を完全燃焼し次の(リーグワンの)ステージに行きたい」。近大魂を胸にパリに挑む。

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