11年ぶり国立回帰の第75回早慶クラシコ 早稲田が4-0快勝で創部100年を飾る
早稲田大学ア式蹴球部と慶應義塾大学ソッカー部の定期戦「第75回早慶クラシコ- presented by アミノバイタル®︎」(東京都サッカー協会主催、朝日新聞社、シーソーゲーム後援、味の素、レバレジーズ協賛)が8月25日、11年ぶりに国立競技場で開催された。試合は前半3分に幸先よく先制点を挙げた早稲田大が、後半にも大量3点を入れ、終わってみれば4-0と快勝。対戦成績を41勝15敗19分けとした。聖地・国立への帰還を盛り上げようと運営にあたった両校関係者も、万感の思いで試合を見つめた。
関係者が奔走 観衆は1万人超え
「ア式蹴球部」「ソッカー部」という創部当初の名称を守り続ける両校の定期戦は1950年に始まり、今年は75回目で、早稲田大の創部100周年とも重なる節目の1戦だった。定期戦は長年、国立競技場での開催が続いてきたが、東京オリンピックで建て替えに入ったため、2014年からは等々力陸上競技場(川崎市)や西が丘サッカー場(東京都北区)などを使用していた。節目を迎える2024年は国立競技場に帰還しようと、両校の学生や大学関係者が奔走し、クラウドファンディングで資金を集めるなどして、この日の開催にこぎ着けた。
今季は両校とも関東大学サッカーリーグの2部に所属。4月の第1戦では慶應義塾大が4-1で勝利していた。10月にもリーグの対戦が控えているが、この定期戦はリーグ戦とは独立した試合で、過去には両校が関東リーグの1部と2部など異なる部にいる場合でも、定期戦は関係なく開催されてきた。それだけに、両校のプライドをかけた恒例の1戦となっている。
開会式では、早稲田大の石井昌幸部長(兼早稲田大学競技スポーツセンター所長)が、「両校とも残念ながら2部に甘んじておりますが、秋に躍進して、両校そろって昇格できることを願っております」とあいさつ。両校関係者からは拍手が送られた。観衆は1万140人と、両校関係者の努力が実った。
開始3分早稲田が先制 慶應も攻勢
試合は開始早々に動いた。前半3分、ワントップで起用された松尾倫太郎(4年、八千代)が右足で慶應ゴールへ流し込み、先制。普段は両サイドハーフが主だが、2週間前からFWでの起用が増えていたという。早慶定期戦にFWでの先発を言い渡され、「できれば点決めよう。スキあらば」と思っていた。早慶定期戦には3年生まで出場できておらず、最初で最後の早慶定期戦が国立の大舞台となった。「自分は割とこういう舞台でしれっと決めることが結構ある。メンタルが上がっていたし、体の切れもよかった」と、自分でも認める「お祭り男」の本領を発揮した1発だった。
慶應も、すでに卒業後の横浜F・マリノス入りが内定しているFW塩貝健人(2年、國學院久我山、この試合3日後にオランダ・NECへの移籍発表。マリノスとの内定は解除)に球を集め、反撃を試みた。30分すぎには塩貝がGKと1対1の場面を作るが、キーパーをかわしたシュートは惜しくも枠を外れるなど、点には結びつかなかった。
チアリーダーは肩組み演技 偶然の祝砲300発
ハーフタイムには両校のチアリーダーが肩を組むなど協力して演技を披露した。演技が終了するタイミングで、突如として場外で花火が打ち上がり、観衆を喜ばせた。実はこの花火、早慶定期戦の企画ではなく、隣接する神宮球場のプロ野球・ヤクルト球団が打ち上げた300発だった。野球の五回終了時の打ち上げタイミングが早慶定期戦のハーフタイムと絶妙に重なり、早慶クラシコの国立競技場開催を後押しするかのような雰囲気を作り上げた。
そして始まった後半も、開始早々に早稲田大が得点を挙げた。後半開始から投入されたFW駒沢直哉(4年、金沢桜丘、来季から横浜FC入団内定)が、右からのグラウンダーを左足で決め、2点差に広げた。慶應もその後、MF香山達明(4年、慶應志木)が右サイドから再三クロスを入れるなど塩貝にボールを集めるが、ゴールネットを揺らすことができない。逆に前掛かりになったところで早稲田のカウンターを許す形となり、MF本保奏希(3年、ふたば未来学園)、DF林奏太朗(1年、龍谷)に追加点を許し、力尽きた。
慶應のDF山口紘生主将(4年、國學院久我山)は、「サッカーの内容的に大差があったわけではなく、自分たちの攻撃的なサッカーが故の弱点や甘さをうまく突かれました。ただ、自分は守備の選手なんで、守備がこれ(4失点)だと大きな責任を感じます」と振り返った。後半の展開も「こういう天然芝のぬれた環境でやったとき、少しの技術のクオリティーの低さとか、1個合わないだけでカウンターになってしまうところも、チームの甘さが露呈しました」と話し、秋シーズンに向け修正を誓った。
「資金が」「規模が大きすぎて」裏方奮闘
11年ぶりの国立競技場開催は、選手だけでなく、部の主務やマネージャー陣、両大学の関係者など、多くの人々が努力してこぎ着けた。
受け付け業務などを担当した慶應の水無瀬源(4年、東京学芸大付)は、「去年までの西が丘なら7000人で満員なので、規模感が違いすぎて、誰をどこに案内するとかが(複雑すぎて)……。国立開催は入学以来初めてで、いざ運営するとなると大変です。(運営側ではなく)試合に出る選手がうらやましい」と話した。早稲田のマネージャー髙見真史(3年、栄東)は「国立競技場の日程調整も大変でしたが、とにかく開催費用を集めるのが大変でした。クラウドファンディングで多くの方に助けていただきました」と苦労を振り返った。来年についても「国立競技場で大規模工事があるらしく、日程がわからない。資金面の難しさもあるので」と、まずは両大学で今年を総括してから、改めて検討していくという。
両部や応援団以外に、両大学のスポーツ新聞部も盛り上げに一役買った。協力し合って両校の監督対談を組んだり、SNSで集客したり、チケット販売先のリンクをはったりと、少しでも観客を集めようとがんばったという。
集客・大声援に、選手から感謝
先制点を決めた早稲田の松尾は、「自分は結構ああいう応援でテンションが上がるので、全て皆さんの応援のおかげなんです」と大声援に感謝した。慶應の山口主将は「これだけの観客が集まったのは、プレーヤーではなくて、運営に回ってくれた選手やスタッフなど裏でいろんな人が動いてくださったから。この舞台には本当に感謝しています。早慶の両校じゃないとできないような舞台なんじゃないかと、中で試合をやりながら感じていました」。
ピッチの上では全力を出して熱く戦った両校だが、それを支える側は、開催の成功に向け、肩を組んで協力し合いながら走り回っていた。ワイシャツと黒のスラックス姿のスタッフたちが、小さな校章を確認しないとどちらの大学かわからないほど交じり合って運営している姿に、早慶戦の真の姿を見た気がした。