アメフト

慶應義塾大WR黒澤世吾 全3TD獲得の爆発、大学入学後の努力でつかんだ信頼が結実

第1Q5分57秒、パスキャッチから38ydの独走TDを挙げ叫ぶ黒澤(全て撮影・北川直樹)

2024関東学生アメリカンフットボールリーグTOP8

9月14日@アミノバイタルフィールド(東京)
慶應義塾大学 27-14 明治大学

アメリカンフットボールの関東学生TOP8は9月14日に第2節があり、明治大学(昨年3位)と慶應義塾大学(同5位)が対戦した。明治は前節で中央大学との接戦に勝った一方、慶應は早稲田大学に負けていて、全国選手権を見据えると後がない状況。前半はほぼ互角、点の取り合いだったが、後半の失点を抑えて抜け出した慶應が27-14で勝った。慶應は2019年以来5年ぶりの明治戦勝利で、TOP8で今シーズン初めてのアップセットとなった。この試合で全てのTDを挙げたWR黒澤世吾(4年、慶應志木)の活躍が際立った。

全TD獲得で5年ぶりの明治戦勝利に貢献

近年低迷していた慶應が、復活ののろしを上げた。開幕戦で負けているため後がない状況の中、明治相手にほぼダブルスコアで完勝したことの意味は大きい。守備は、明治の強力なRB二枚看板の廣長晃太郎(4年、箕面自由学園)と高橋周平(3年、足立学園)に200yds以上走られたが、失点は前半の14点に抑えた。後半は明治が勝負どころで反則を重ねたことにも助けられたが、攻め込まれても得点を許さなかったのは、全員の集中力が高く保たれていたからだ。

この日の慶應は攻撃も良かった。QBにはメインでシチュエーションごとに松本和樹(4年、慶應)と水嶋魁(4年、海陽学園)を併用、ポイントに山岡葵竜(3年、佼成学園)を起用してランとパスのバランスアタックを展開した。中でも、5回109yds獲得のWR水野覚太(4年、慶應義塾湘南藤沢)と、4回96yds獲得の黒澤は象徴的な存在だった。

慶應義塾大QB水嶋魁 初勝利も「うれしさ2、悔しさ8」、逆境を力に変えるチームに

黒澤は第1クオーター(Q)に先制のTDパスを捕ると、第2Qにも2本のTDレシーブを記録した。誰の目にも、この日は“クロサワデー”に映ったに違いない。

二つ目のTD。明治守備陣のかたまりを抜き去り、エンドゾーンに走り込んだ

スカウティングがハマり攻撃がブレーク

この試合に向けて、慶應のオフェンスは戦術面でどんな取り組みをしたのか。QBの水嶋、黒澤によると、スカウティングから明治はベーシックなアラインとディフェンススキームで守ってくることがわかっていたので、ゾーンの切れ目を意識したという。LBとDBのおのおのが守る範囲の境界線を突くパスルートを活用し、それがビッグゲインにつながった。

「リアクトが早い選手をキーにして、その裏をかくようなプレーがうまく決まりました。結果としてすれ違いのような形になって、1本目のTDは独走することができました」と黒澤。

写真を撮っていると、フィールドの中央付近でパスをキャッチした黒澤が、別のWRをリードにするような形で走り込んできた。彼らが喜ぶ姿から、6年ぶり(19年以降は不祥事の影響が重なってきたため)に本来の慶應の姿を目にした気がした。この先制点が、慶應にとって大きなモメンタムとなることは、明白だった。

明治のシンプルな守備スキームを、裏手に取るプレーで崩しに行った。ブロッカーの粘り強いリードも目立った

前節の早稲田戦で負けてから、戦術以外にファンダメンタルを見直してきた。「“ビッグブレーク”という目標をチームで決めて、一個一個のキャッチであったり、スローであったり、そういったことにこだわってやろうと改めて取り組んできました」。初戦の負けで折れずに、しっかりチームを立て直して結果につなげた。

大学から競技開始「積み重ねた練習には自信」

黒澤がアメフトを始めたのは、大学入学後。高校3年の冬に、同級生の誘いで慶應と北海学園大学との試合「ホワイトボウル2020」を見にきたことがきっかけだ。その試合では志木高の先輩でもある同級生の兄、千葉優介さん(22年卒)が活躍していて、慶應が大勝した。「カッコいいな」。自分も大学でアメフトをする気持ちが固まったという。

慶應は、塾高上がりのアメフト経験者が部員の多くを占める。部員の数も多く競争は激しいが、黒澤は「努力をして、練習を重ねた時間や回数には自信を持っています」と話す。レギュラーの座を2年時につかみとると、日々の積み重ねは仲間からの信頼関係にもつながり、勝負どころでは常に頼ってもらえるようになったという。

2人いる同期のQBとの信頼関係も抜群だ。松本、水嶋とは、日頃から練習後のアフター練習を欠かさずやってきた。明治戦でのTDは、水嶋から2本、松本から1本のパスを受けた。水嶋が黒澤について言う。「7番の水野もフィジカルがすごくて頼りになりますが、黒澤は重ねてきた努力が本当にすごいんです。磨いたスキルが本当に高くて、勝負どころでは絶対にフリーになってくれる。その結果が今日結果にこう出て、すごくうれしいです」

先発したQB松本(上、16)、勝負所で入るQB水嶋(下、0)とは同期で、ずっとアフターで合わせてきた

TDのパスについては黒澤の決めプレーだったわけではなく、ターゲットを見分けた結果、黒澤に投げられたものだったという。黒澤の努力と、それによるQB陣との信頼関係がこの試合で爆発した形だ。

筒井康裕ヘッドコーチの評価もとても高い。「1年生のときに未経験で入ってきて、本当に一生懸命に練習をやってきました。今年はWRのリーダーをしながら一番努力してるし、ウェートも一番頑張ってます。絶対活躍してほしかったのが、やっときたという感じで、サプライズではなく素直によかったなと感じます」

チームの首脳、仲間からこれだけ信頼を受ける選手もなかなかいない。黒澤自身もそれにおごることはなく、至って謙虚で実直な性格なことが話しぶりからは伝わってきた。

関東初のアップセットとなったが、メンバー全員は試合終了直後から次の立教戦を見据えていた

近畿大学のアップセットが刺激に

この前週には、近畿大学が関西大学を破るアップセットを演じた。その試合から受けた影響は大きかったと黒澤は言う。

「今日ロッカールームで着替えてるときに、『関西では番狂わせがあったけど、関東はまだなんもない。絶対やってやるぞ!』っていう話をしてて。本当にこれを体現できてよかったなと思います」

今年からは関東の上位3位に食い込めれば、全国選手権への道が開ける。次節の立教大学戦は、明治戦からちょうど1週間後だ。「自分のキャッチで、オフェンスで絶対に立教に勝って見せます」。黒澤は力強く言った。

黒澤はTD後の喜び爆発とはギャップのある、冷静で謙虚な話口だった

in Additionあわせて読みたい