八戸学院大・加藤響 甲子園のアルプスで見た大先輩・吉田輝星の雄姿、いざ同じ舞台へ
高校の先輩である吉田輝星(現・オリックス・バファローズ)に憧れ、大学で成長を遂げた右腕が、プロ志望届を提出した。八戸学院大学の加藤響(4年、金足農)。最速151キロの威力ある直球が最大の武器で、大学で球種を増やした変化球も精度が高い。そんな加藤の投手としての原点は金足農業時代にある。
全日本後に進化、スカウトが見守る中で自己最速タイ連発
9月14日、リーグ3連覇に向けて後がなくなった富士大学戦。3点を追う八回に3番手で登板した加藤は、2死から四球と安打を許し、痛恨の1失点を喫した。チームは敗れ、富士大の優勝が決定。流れを呼び込む投球はできなかったものの、スカウトのスピードガンで自己最速タイの151キロを連発し、ポテンシャルの高さを発揮した。
全国デビューとなった今年6月の全日本大学野球選手権は初戦の天理大学戦で救援登板し、2死しか取れずに2失点で降板。加藤は「抑えられる自信はあったんですけど、シンプルに自分の力不足を痛感した舞台でした」と大舞台のマウンドを振り返る。
この試合でも、最速149キロを含む140キロ台後半の速球をコンスタントに投げ込んだ。秋に向けてイチから体づくりに励み、大学ラストシーズンには平均球速をさらに数キロ上げて臨んだ。今秋は先発、救援で6試合に登板し、計16回3分の1を投げて15奪三振5失点。盛岡大学戦では自己最長6回を投げて2安打無失点に抑えるなど、春からの進化を証明した。
吉田は「1年生が憧れるような3年生」
加藤は秋田県大仙市出身。野球を始めたのは小学4年生の頃で、中学までは二遊間を守ることが多かった。金足農業の野球部にも遊撃手として入部。ノックを受けた際、三遊間の深い位置から強い送球を披露したところ、投手としての適性を見込まれ、入部から間もなくして本格的に投手の練習を始めた。
転向した当初、目標にしたのが2学年先輩の吉田だ。加藤は声を弾ませる。「輝星さんは普段の練習から一切妥協しない。うちの高校は県内でもトップクラスにきつい練習をすると言われていたんですけど、輝星さんは決められた練習にプラスして自主練習をしていました。人としてもとても優しく、1年生が憧れるような3年生で、甲子園でも絶対に活躍するだろうと思っていました」
加藤は1年夏の秋田大会でベンチ入りを果たしたが、甲子園は出発2日前に発熱した影響でメンバーを外れた。吉田は加藤が想像した通りの大活躍で高校野球ファンを魅了し、チームは準優勝。「甲子園は高校球児にとって特別な場所。本当は選手として出たかったですけど、応援で良い経験をさせてもらったことがその後の高校生活につながりました」とアルプスから見た〝金農旋風〟を振り返る。
度重なるケガを乗り越え、大学でドラフト候補に
しかし、高校生活は順風満帆に進まなかった。1年冬に恥骨を疲労骨折し、約1年間リハビリ生活が続いた。2年生の頃は「ほぼ野球をやっていない」。いざ投げられるようになったときにはコロナ禍に突入しており、目指していた甲子園は中止を余儀なくされた。
それでも3年夏の秋田独自大会ではエースナンバーを背負い、初戦敗退ながら最速145キロの速球を武器に力投。元々高校卒業後は就職しようと考えていたが、さらなる成長を期し、高校の指導者に勧められた八戸学院大に進学した。
大学でも下級生のうちはケガに悩まされ、リーグ戦デビューは3年春。主に中継ぎで結果を残すと、今春は計11回3分の2を投げて1失点と安定した投球を続け、チームのリーグ優勝に貢献した。150キロの大台を突破した直球はもちろん、変化球も進化。高校時代に使っていたカーブ、スライダーに加えてカットボール、ツーシーム、フォークを習得したことで投球の幅が広がった。
「次は自分、という気持ちがあります」
「ピッチャーとして、一回りも二回りもでかくなったと感じています」と胸を張るように、高校では得られなかった自信を大学で手にした。今春の全国の舞台ではアピールしきれなかったが、「プロ志望」は揺るがなかった。
ドラフトまであと約1カ月。加藤は「高校生の頃は実力が圧倒的に足りなくて、『プロはないな』と思っていたけど、今は自分の口で『プロにいきたい』と言えるくらいには自信がついてきた。プロにいってから活躍することを念頭に置いて、ドラフトまでと言わずドラフトが終わってもずっと、日々休まずトレーニングをしたい」と力を込める。
尊敬する吉田のプロでの活躍は、リアルタイムで観戦する機会こそほとんどないものの常にチェックしている。毎日の練習には「自分もプロ入りして活躍できるように」と自身にプレッシャーをかけながら取り組んできた。
「金足農業出身のNPB選手は吉田さん以降出ていない。『次は自分』という気持ちがあります」と加藤。あの夏輝いた甲子園のヒーローと同じマウンドに立つ日が、着々と近づいてきている。