関西学院大・百合泰祐 研究熱心な技巧派右腕「自立のための4年間」集大成のシーズン
3年秋まで関西学生リーグ戦で通算2勝の右腕が今秋、好投を重ねている。関西学院大学の百合泰祐(4年、桐朋)は開幕節の立命館大学戦に先発し、6回を4安打1失点。今季初勝利を手にすると、先発3試合目となった近畿大学との1回戦は、八回2死まで無安打に抑える快投を見せた。3日後にあった3回戦でも六回まで無安打に抑え、今季2勝目を挙げた。
中3日で挑んだ同志社大学戦
同志社大学との2回戦は、近大戦から中3日で先発のマウンドに上がった。一回、先頭に左前へ運ばれると、盗塁と内野ゴロで1死三塁となり、相手の3番打者・辻井心(2年、京都国際)の右犠飛であっという間に先制を許してしまった。以降も毎回安打を浴び、4回5安打2失点でマウンドを降りた。
「(前回登板から)あまり間隔がなくて、疲労を抜きながら調整して出力を上げてきたんですけれど、結構難しかったです。相手もしっかり研究しているなと思いました。左バッターに対しては、得意な真っすぐを張られていて、どのカウントからでもしっかりスイングされました。今日のコンディションからすると打たれて当たり前だったなと。それでも初回は『最少失点で抑えられるように』と思いながら投げました。その中でコースを突いて投げられたことは良かったです」
関西の雰囲気で「性格が上向きになった気がする」
高校は東京都内有数の進学校で過ごしたが、もともとは大阪出身。小学校2年の時に東京へ引っ越した。関東の大学に進む選択肢もあったのでは、という質問に「大学はなじみのある関西に戻りたいなというのがあったんです」と関西学院大に進んだ。関東を離れた理由は、もう一つある。「一人暮らしをして自立した生活をしたかったんです。今後、社会人になる上で、自立することは大事だと思ったので」
関西学院大には野球部の寮がなく、実家が学校から離れている選手はほとんどが一人暮らしをしている。食事など何かと不便なところもあるが、それも含めて「自立のための4年間」だと思った。両親も、そんな自分の背中を押してくれた。
だから、関東出身の選手たちが時に抵抗感がある「関西の言葉の壁」にも、全く違和感はなかった。「今、僕は標準語で話すんですけれど、関西弁を聞くのは慣れているので、コミュニケーションに関しては問題なく、スムーズにできました。実際、関西の明るい雰囲気もあって、ちょっと自分の性格も上向きになったような気がします。きつい練習をしていても楽しく練習できているというか、前向きになれているなと思うこともあります」
的を絞らせない投球を強みに
ストレートの最速は143キロ。決して速球派とは言えない数字だが、手元で微妙で動き、打者からすると打ちづらさがある。「自分は的を絞らせないピッチングができるのが強みです。近大戦はその持ち味を発揮できたと思います。キャッチャーの永谷(柊馬、4年、広陵)が相手の裏をかくような配球をしてくれたことも大きかったと思います」と仲間に感謝する。
高校時代はバッティングの良さも買われ、投手兼外野手として攻守でチームを支えた。ただ、投手としては大きな特徴がなかったと振り返る。「高校時代はただストライクゾーンに投げるピッチャーでした。でも、大学ではいろんなトレーニングを取り入れて、テイクバックの位置を変えるとか、いろんなことを試しました」
本荘雅章監督によると、百合は研究熱心で、ピッチングに役立つ情報を探るため動画サイトを常に見入っているという。「自分のスキルを高めるには、色んな情報を取り入れることって大事だと思うんです。気になるトレーニングがあれば、3カ月に1度くらいの頻度で東京に戻って、トレーニングを受けることもあります」
試合中、マウンドやベンチで右手首を数回たたくシーンが何度かあったが、これも自分の投球に役立てるために行っている。「テイクバックが下がりやすくなるときに(たたくことで)ひじが下がりにくくなるんです。実は立命大戦に向かうバスの中でやるようになったんです」
チームメートの情報も参考にして動画サイトで検索し、実際に取り入れた手法も多い。学びながらプレーに生かす。高校時代、文武両道を貫いたことは大学生になっても生きている。勉強と野球は大学でもしっかり両立し、3年の秋に単位を取り終えた。
野球は大学まで「出し切って終わりたい」
野球は大学までで、卒業後は一般企業に就職することが決まっている。
「3年秋くらいに『野球は大学まででいいかな』と思って。残りの試合は肩が飛んでもいいくらい腕を振っていこうと思っています。それくらい、この秋はしっかり(力を)出し切って終わりたいです」
チームは開幕から3カード連続で勝ち点を奪い、10月4日現在で首位をキープしている。次の関西大学戦は、春に続く優勝をつかみ取る上で重要な一戦となる。百合は今秋、任せられたマウンドを守り抜き、学生野球の有終の美を飾るつもりだ。