野球

特集:あの夏があったから2024~甲子園の記憶

大商大・真鍋慧 広陵で3度経験した甲子園を「財産に」、幅を広げるため外野にも挑戦

広陵から大阪商業大学に進んだ真鍋慧(撮影・室田賢)

大阪商業大学のルーキー・真鍋慧(1年、広陵)は、高校1年の春から名門の中軸に座り、4強に進出した3年春の第95回選抜高校野球大会を含めて3度、甲子園の土を踏んだ。佐々木麟太郎(花巻東からスタンフォード大学)や佐倉俠史朗(九州国際大付から福岡ソフトバンクホークス)ら、同学年の強打者とともに注目を浴び続けてきたが、実際は試合に出続けることへの使命感で頭がいっぱいだったという。

【特集】あの夏があったから2024~甲子園の記憶

注目度が増しても「気にならなかった」

「自分が下級生から試合に出ているということは、ベンチに入れない先輩がいるということ。先輩の分も頑張らないといけないし、広陵で中軸を打たせてもらっている分、注目や警戒をされるので、それに負けないようにしようと思ってきました。最上級生になってからは注目度が増しましたけど、実はあまり気にはならなかったんです」

打席に立つごとに多くのカメラが向けられ、1球1球に熱い視線が注がれた。それでも臆することはなかったという。「自分は結構、鈍感な方なんです」と苦笑いしつつ、こう続ける。

「ホームランは常に期待されてきましたけど、自分は個人の結果よりチームの結果をずっと気にしてやってきたんです。自分が長打を打って勝った試合もありましたけど、そこで一喜一憂しないようにしていました。周りの視線を気にしたらやっていけないと思っているんです」

甲子園の大舞台は2年春、3年春夏と3度経験した(撮影・林敏行)

昨夏の甲子園の初戦、2回戦の立正大淞南(島根)戦では2安打3打点と中軸らしい数字を残した。特に六回に放った大飛球は「あわや」と思わせる大きな当たりだったが、本人は「風で伸びた打球でしたし、納得のいく打球ではなかったです」と振り返る。

球場すべてが慶應を応援しているように感じた

忘れられないのは3回戦の慶應(神奈川)戦だ。応援歌にスタンドが一体となるスタイルには、圧を感じたという。「雰囲気が異様でしたね。そもそも甲子園は、色んな学校の応援自体が独特なのに、慶應はスタンドだけでなく球場全体を巻き込むような応援だったので……。特に1番の丸田(湊斗)君(現・慶應義塾大1年)の時はすごかったですね」

丸田が打席に立つと、球場すべてが慶應を応援しているようにも感じたという。声援が束となり、自分たちに襲い掛かってくるようにも思った。「広陵の応援も負けていなかったですけれど、あの時は独特でした。延長戦に入ってからは、余計にそう感じました。ああいう雰囲気を味わったのは初めてでしたね。今思えば良い経験になったと思います。たぶん、今後も経験できないと思います」

その慶應戦。真鍋は七回に安打を放ち、同点のホームを踏んだ。そのまま延長タイブレークへ突入。十回表に慶應が3点を奪い、6-3で敗れた。真鍋はこの試合、ヒットは七回の1本のみで聖地を後にすることになった。本人はこの結果を冷静に受け止めていた。「甲子園に出られない学校や選手の方が多いのに、僕は5度のチャンスで3回も出させてもらいました。しかも複数試合ができたことは、今後の財産になりました」

慶應との3回戦、七回に安打を放ち同点のホームを踏んだ(撮影・友永翔大)

指名打者として、いきなりのベストナイン

大商大では関西六大学春季リーグの開幕戦からスタメン出場し、大阪学院大学戦で打点をマーク。龍谷大学との2戦目ではホームランを放った。

「関西六大学はピッチャーのレベルが高いので、最初はすごく苦労しました。木製バットは数え切れないほど折れましたし……」と苦笑いの真鍋。それでもいきなり高い潜在能力を見せつけ、指名打者としてベストナインを獲得した。

「木製バットになって、大学生ピッチャーの生きたボールのレベルの高さにてこずりました。それに大商大では、バッターでもレベルの高い先輩がたくさんいて、圧倒されました」

特に目を奪われたのは、同じ広陵の先輩で、今秋のドラフト上位候補にも名前が挙がる渡部聖弥だという。「1人だけ打球が違うんです。打球の威力というか、ライナーで遠くまで飛ばす。そんな打球を見たのは初めてでした」

そんな大先輩には、気になることがあれば積極的に質問をぶつけた。「色んなことを聞きすぎて、具体的に何を一番聞いたのか覚えていないんです」と頭をかくほどだ。その都度、渡部は待ち球やバットの返し方などについて、丁寧に教えてくれたという。

大阪商業大・渡部聖弥 大学屈指の強打者を成長させる「仲間」からの刺激
大商大では1年目から全日本大学野球選手権も経験した(撮影・西田哲)

「春のリーグ戦ではタイトルを取らせていただきましたけれど、指名打者なので。守備をもっと頑張らないといけない。それが今の自分の課題です」

中井哲之監督に良い報告ができるように

現在は高校で未経験だった外野も練習している。オープン戦では主にセンターを守り、秋のリーグ戦に向けて感覚を磨いている最中だ。「どのポジションで出るかはまだ分からないんですけど、準備はしています。外野手は動く機会が多いので、正直疲れますね(苦笑)。でも、自分のプレーの幅を広げるためにやっていかないといけないですし、プロを目指すならファーストだけではダメなので、これから感覚をつけて、どの守備位置でも守れるようになりたいです」

リーグ戦出場や、初打点を挙げた日、初ホームランを放った日など、この春は事あるごとに広陵の恩師・中井哲之監督へ報告していたという。「中井先生に喜んでもらえるのがうれしくて。これからも良い報告ができるように頑張ります」

幅を広げるため、現在は外野の練習もしている(撮影・沢井史)

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