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特集:パリオリンピック・パラリンピック

日体大院・福永凌太 障害者と思ってない→パラ陸上の魅力を パリで垣間見られた変化

パラリンピックで銀メダルを獲得した日体大院の福永凌太(撮影・小玉重隆)

パリ・パラリンピック陸上男子400m(視覚障害T13)決勝

9月5日@フランス競技場
1位 スカンデルジャミル・アスマニ(アルジェリア)47秒43
2位 福永凌太(日本体育大学院)48秒07
3位 ブインデルブライネル・ベルムデスビジャル(コロンビア)48秒83

8月28日~9月8日に開催されたパリ・パラリンピックの陸上男子400m(視覚障害T13)決勝で、日本体育大学の福永凌太(院1年、彦根翔陽)が48秒07で2位に入り、パラリンピック初出場で銀メダルを手にした。

世界選手権で完敗した後、訪れたリベンジのチャンス

「宿敵」スカンデルジャミル・アスマニ(アルジェリア)との再戦だった。T13は視覚障害の中で最も障害が軽いクラス。伴走者はつかず、健常選手と遜色ないスピードで走る。アスマニは今大会の100mで頂点に立ち、パラアスリート「世界最速」の称号を手にしていた。福永とアスマニは今年5月に神戸市で開かれた世界選手権でぶつかった。このときは早々とアスマニに先行を許した。背中を懸命に追ったが、1秒42の差をつけられて2位。完敗だった。レース後は「ホームストレートで抜かしてやろうと思ったが、ちょっと遠かった」とした上で、「ふがいない」と悔しさを隠さなかった。

敗戦から約3カ月半。パリの舞台で早くもリベンジの機会が訪れた。レースはスタート直後からアスマニが飛び出した。ただ、福永も離されない。神戸のときは第3コーナーを回ったあたりで差を広げられていったが、この日は粘った。アスマニが47秒43で金メダルを獲得し、福永は2着で48秒07。その差は0秒64だった。福永は「一番を狙えるような準備をしてきたんですが、今日は、今できることを精いっぱいやればいいかなという思いで走った」とした上で、「もっと自分を追い込んで準備をしていたら勝つ未来もあったかもしれない」と悔やんだ。でも、直後にすぐ笑みを浮かべた。「スタートしてからのすさまじい歓声や初めて走る紫色のトラックっていうところをすごく楽しめたかなと思います」

紫色のフランス競技場で閉会式に臨む日本の選手たち(撮影・伊藤進之介)

「ジョジョの奇妙な冒険」のポーズでも話題に

初の大舞台に臨んだ25歳は難病である「錐体(すいたい)ジストロフィー」によって、小学4年生の頃から徐々に視力が低下していった。直後に始めたのが陸上競技だ。ハンディを抱えていても自身の体ひとつで競えるところに魅力を感じた。中学と高校では棒高跳びに励んだ。中京大学に進学後も十種競技を中心に競技を続け、健常の選手と一緒の大会に出場。パリオリンピック男子1600mリレー代表の川端魁人(現・中京大クラブ)らと練習をともにしていた。大学4年の頃にパラ陸上への転向を決意。この春からは陸上部にパラアスリート部門がある日体大に所属先を変え、大学院ではコーチ学を学んでいる。

中学から健常の選手と競い合ってきた。だからこそ、パラ陸上をしていても「自分を障害者と思っていない」といつも口にしていた。だが、初めてのパラリンピックを経験して心境の変化が垣間見られた。「一人のパラアスリートとして、ブラインド競技の面白さや楽しさをもっと深く伝えていかないといけないと思った」と。世界中の障害者アスリートと交流していく中で、「やっぱり競技も私生活も大変だなと感じた」という。そして、こう続けた。「パラ陸上の魅力を伝えていくのが自分の使命なのかもしれない」。パラアスリートとしての自分を誇れるようになっていた。

パラリンピックを経て、パラアスリートの自分を誇れるようになった(撮影・小玉重隆)

レースの選手紹介では人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のキャラクターのポーズで登場するなど、大舞台を存分に楽しんだ。でも、満足はしていない。4年後のロサンゼルス大会でめざすのはもちろん金メダルだ。福永は「さらに走りのクオリティーを高めれば、アスマニに近づける」とはっきりと言った。

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