野球

特集:2024年 大学球界のドラフト候補たち

東京農業大・長谷川優也 一気に3部から1部へ、『下剋上』の立役者は152キロ右腕

力強いフォームから繰り出される直球は最速152キロ。プロからの指名を待つ(2・3枚目以外は撮影・西田哲)

東都リーグの伝統校・東京農業大学は、昨春の悔しい3部降格から、今春2部復帰、秋には1部へと一気に駆け上がってきた。エースとして投手陣を引っ張り、下剋上の立役者となったのが、ドラフト候補右腕・長谷川優也(4年、日本文理)だ。10月3日のリーグ戦第3週、青山学院大学との2回戦では、チームに31年ぶりの1部リーグ勝利をもたらした。

1部リーグ初勝利は、王者・青学大から

最後の打者をセカンドゴロに打ち取り、長谷川はベンチへ向かって控えめにガッツポーズをしてみせた。第3週の2回戦で、東都リーグ3連覇中の王者・青山学院大学を5-4の1点差で破った。東京農業大学にとっては、1993年秋以来31年ぶりの1部リーグでの勝利になる。

長谷川は同点の6回からマウンドへ上がり、その回に1点を失って一度は勝ち越しを許したが、打者陣が8回に逆転。7、8、9回を無失点に抑え、待望の1部初白星を手にした。

「ずっと勝てていなくて、自分もチームの足を引っ張っていました。なんとしても抑えてやろうという気持ちだったので、抑えたときはうれしかった」と試合後、ホッとした表情を見せた。

東農大31年ぶりの1部勝利後の長谷川。北口監督(中央)、和田主将(右)と(撮影・小川誠志)

8、9回と得点圏に走者を背負ったが、本塁は踏ませなかった。「大事な場面ではギアを上げ、気持ちの入ったピッチングで打者を抑える。そこが自分の長所」と長谷川は自身のアピールポイントを語る。最速152キロをマークする力強いストレートを軸に、カットボール、スプリットなどの変化球を織り交ぜ打者を打ち取る。3年春からエースとして、先発にリリーフにとフル回転でマウンドへ上がってきた。連投も辞さないスタミナも長谷川の魅力の1つだ。

投手にこだわり東農大へ進学

小1のとき、学童野球の大野ヤンキースに入部し野球を始めた。黒埼中3年の秋には内野手として軟式の侍ジャパンU15日本代表に選ばれ、U15アジア選手権優勝も経験。侍ジャパンのチームメイトには根本悠楓(現・北海道日本ハムファイターズ)、内山壮真(現・東京ヤクルトスワローズ)らがいた。

新潟・日本文理高校では2年夏に三塁手兼2番手投手として甲子園出場(2019年、第101回選手権)。高校までは野手として試合に出場することが多かったが、大学では投手としてプレーしたい気持ちがあったという。

日本文理3年時はコロナ禍。新潟の独自大会準決勝で適時打を放つ長谷川(撮影・松本英仁)

東京農業大学を選んだのは、樋越勉前監督(当時監督)が投手として評価してくれたからだ。樋越前監督は東京農業大学北海道オホーツクを全国区の強豪に育て上げ、玉井大翔(現・北海道日本ハムファイターズ)、周東佑京(現・福岡ソフトバンクホークス)らをNPBへ送り出した名指導者で、2017年12月からは東京農業大学を率いていた。

「試合の主導権は投手にあって、自分が投げなければ試合は始まらない。それに、投手は一番目立つポジションですから、やっぱり自分は投手をやりたかった。樋越前監督は、大学4年間の投手としての育成プランを見せてくれたんです。野手として誘ってくれた大学もありましたが、投手として見てもらえる東農大にお世話になることに決めました」

「投手が投げなければ試合は始まらない」と投手にこだわり、投手として評価してくれた東農大を選んだ

入れ替え戦に敗れ3部降格「頭が真っ白に」

高3の秋からは投手一本に絞って練習を続けた。大学では1年春から2部リーグのマウンドを経験。2年秋にはリーグ戦初勝利を挙げている。3年生になる直前の2月からはトレーニング施設『DIMENSIONING』へ通い、北川雄介トレーナーの指導を受け球速アップにも成功。3年春からはエースとして1回戦のマウンドに上がるようになり、3年秋のリーグ戦では最速152キロをマークした。

送りバントを処理する長谷川。フィールディングも軽快だ

一つ一つ成長の階段を上っている実感はあった。しかし3年春、チームは2部最下位に沈み、3部優勝校・大正大学との入れ替え戦にも敗れて3部降格を喫してしまう。3回戦の最後の場面、マウンドにいたのは長谷川だった。タイブレークの延長11回裏、1死満塁からレフトへの犠牲フライで三塁走者の生還を許しサヨナラ負け。長谷川はマウンド横に突っ伏し、しばらく立ち上がることができなかった。

「頭が真っ白になりました。1勝1敗になって負けられないプレッシャーの中、自分たちは消極的になってしまったところがありました。自分が1点も取られなければ負けることはなかったわけですから、その悔しさもありましたし。3部に落ちてこれからどうなるんだろうという不安もありました」

それでもチームは秋の3部リーグを制し、2部3部入れ替え戦では、春に苦杯をなめた大正大学を倒して最短での2部復帰を決めた。「去年は3部に落ちて、それから2部に上がって。苦労した1年でしたけれど、自分自身としては、大学4年間で一番成長できたシーズンだと思います」と力強く語る。

ロージンバッグを手に、集中力を高める

4年生になった今春、長谷川はリーグ戦中盤に左足首を捻挫し一度は戦線離脱したが、終盤には復帰。3勝を挙げ2部優勝に貢献。駒澤大学との1部2部入れ替え戦では、1回戦こそ6回3失点で敗戦投手になったが、1勝1敗で迎えた3回戦は3安打1失点完投勝利。最後の打者を一塁ファウルフライに打ち取り、歓喜の輪の中心に立った。

戦国東都の経験を糧に、プロ一本で指名を待つ

投手にこだわり、4年間、努力を積んできた。卒業後の進路はプロ一本で考えている。投手としての理想像は北海道日本ハムファイターズのエースとして活躍する伊藤大海だ。「4年間、プロを意識しながら過ごしてきました。まずはそのスタートラインに立ちたい」とプロへの思いを語る。

2部リーグ、3部リーグ、3度の入れ替え戦を経験し、大学ラストシーズンは1部リーグで戦う。「想像していた以上に内容の濃い大学生活になりました」と、『戦国東都』で戦ってきた4年間を振り返る。1部リーグの壁は思いのほか厚く、チームは青山学院大学との2回戦で初勝利こそ挙げたが、開幕から4週連続で勝ち点を落とし、最下位が決まった。11月には1部残留をかけて、2部優勝校と入れ替え戦を戦わなければならない。後輩たちが来春も神宮の舞台でプレーできるよう、なんとしても1部残留を決めたい。その思いで腕を振る。

2部との入れ替え戦が控える。後輩たちに1部の舞台を残す思いで、腕を振る

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