アメフト

「古橋チルドレン」の近畿大DL中山功乙 リーグ最終の神戸大戦へ、人生をかけて挑む

古橋ヘッドコーチの一番弟子である近畿大DL中山(95番、撮影・篠原大輔)

「男にはな、人生をかけて戦わなアカンときがあんねん」。これは、日本のアメフト界で最もよく知られるペップトークの出だしだ。かつて立命館大学パンサーズを率いて甲子園ボウル3連覇を成し遂げた古橋由一郎さんが、社会人チームとの日本一決定戦に臨む直前に、大学生たちの心に火を付けた。古橋さんは今年4月に近畿大学キンダイビッグブルーのヘッドコーチ(HC)に就任。その近畿大は関西学生リーグ1部の第6節を終えて4勝2敗。最終節の11月9日に3勝3敗の神戸大学と戦う。勝っても負けても初の全日本大学選手権出場の可能性は残るが、勝って他チームの戦いを見守りたいところだ。古橋HCが神戸大戦のキーマンの一人に挙げるのがDL(ディフェンスライン)の中山功乙(いさお、2年、近大附)だ。人生をかけてリーグ最終戦に臨む。

中山はこのセットから爆発的に飛び出していく(中央右、撮影・北川直樹)

中学までサッカー、テニス、水泳、空手を経験

第5節、東大阪市花園ラグビー場であった桃山学院大学戦。近大DLの中山は第3クオーター序盤、相手OL(オフェンスライン)のパスプロテクションをかいくぐり、パスに出たQB(クオーターバック)をタックル。両腕を東大阪の空に突き上げて喜んだ。DLの勲章とされるQBサックは今シーズン3度目だ。最終節を残して立命館大学の2選手と並び、リーグトップにいる。身長179cm、体重104kgとインサイドのDLとしては小さいが、それを補うクイックネスとスピードがある。神戸大戦に向け、中山は「ここぞというときに僕が出てきて止めたいです。ディフェンスには一人ひとりの役割が決まってて、それをやっていけば止まると思うので、次も変わらずに自分の役目を果たせたらと思います」と、慎重な口ぶりで言った。

スピードを生かしたパスラッシュが中山の真骨頂だ(撮影・北川直樹)

大阪市生野区で生まれ育った。中学校まではサッカー、テニス、水泳、空手とさまざまなスポーツに取り組んだ。近大附属高に入学してアメフト部へ。OL(オフェンスライン)とDLを兼任していた。大阪のベスト4が最高成績で、関西大会や全国大会には進めなかった。日本一になりたいと思って進学した近大では昨年のルーキーイヤーから出番をもらった。2勝4敗1分けと苦しいシーズンだったが、中山はひたむきにプレーし続け、チーム内でのルーキー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。

中山のスピードが会場を驚かせたプレーがあった。4敗同士で迎えた甲南大学との対戦(17-17の引き分け)。近大が3点を追う試合残り2分あまり、甲南が長いフィールドゴールを狙った。これをディフェンス左からラッシュをかけたDB二宮政樹キャプテン(現・富士通)がブロック。中央から割って入っていた中山が跳ね上がったボールを捕り、迷うことなく走り出した。これが速い。仲間が追っ手をブロックしてくれたこともあるが、エンドゾーンまで60ydを駆け抜けた。逆転のタッチダウンとなり、近大のベンチと観客席は大いに沸いた。

中山は1年生だった昨年の甲南大戦でビッグプレーを決めた(中央下、撮影・北川直樹)

チームに対する思いや生活習慣を見直させてもらった

大学2年目を迎えるにあたり、古橋さんがチームに加わることになった。前述の伝説のペップトークをYouTubeで見たことがあったから、「あの人が来るんか」という驚きがあった。DLのテクニックを教えてもらえるという喜びもあった。

そして古橋さんがやってきた。中山が振り返る。「古橋さんには『このチームにはまだまだ悪い近大らしさが残ってる』と喝を入れられてきました。それとDLの技術面ではすごく上達しました」。今年の6月から7月にかけてはU20世界選手権の日本代表の一員として、カナダ遠征を経験。いろんな刺激を受けて臨んだ秋シーズンは、第2節で関西大学を35-31で下した。その後は立命館大学、関西学院大学に敗れ、神戸大との最終戦を残すだけとなった。

近大ではペップトークを封印している古橋HCだが、神戸大戦直前は久々に出るかもしれない(撮影・北川直樹)

「古橋さんが来てくださってから、僕自身のフットボールに対する思いがすごく変わりましたし、チームに対する思いや普段の生活習慣という人間性の部分を見直させてもらったので、だいぶ変わりました。もう師匠だと思ってます」と中山。そう言いつつも最近、寝坊して練習に約1時間遅刻した。そのとき初めて古橋さんとマンツーマンで30分ほど話した。「自分のよくない人間性が出てしまって遅刻しました。反省しました」

古橋さんに「ようやったな」って言われる試合に

いざ神戸大戦。古橋HCは前節の試合後、「トーナメントどうこうじゃなく、神戸大学に負けられへんやろ」。そして「次は人生をかけた戦いや」と努めて静かに、選手たちに語りかけた。その心について古橋HCは「もう神戸大学に勝っても負けてもどっちでもええわというチームじゃないやろと。もう一段上のチームを作ってるんだから、絶対に負けられない。プライドを持てと伝えたかった」と話した。中山はその言葉の受け止め方について、「チーム全体に関大に勝ってからの浮つきみたいのがまだあって、そこをどれだけ修正して、チームの一体感というか、関大戦のときのような試合ができる状態になれるのかという話だと思います」と語った。

関学戦でOLのブロックを割って入り、エースRB伊丹にタックルを決める中山(撮影・北川直樹)

古橋HCは中山について、「いいですよ。ディフェンスの中心的な存在だと思ってます。ちゃんとやろうとしてますし、もう少し体が大きくなれば、いい選手なるはずです。次の試合では彼をどこに置くかもポイントになってきます」と話した。中山はネット中継のひとことコメントに「古橋さんに怒られないように頑張ります!!」と書いている。そしていまはこう思っている。「神戸戦は古橋さんに『ようやったな』って言われる試合にしたい」

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