ラグビー

特集:縦と横のコントラスト 第100回早明戦

早大・大田尾監督、明大・神鳥監督に聞く(下) お互いを「好敵手」と認めて100年

明治大学・神鳥裕之監督(左)、早稲田大学・大田尾竜彦監督(インタビュー写真は撮影・西田哲)

第100回のラグビー早明戦が、12月1日に国立競技場で開催されます。早稲田大学・大田尾竜彦監督、明治大学・神鳥裕之監督に聞いた今回の企画、後半は、これからの早明戦のあり方と、今年の早明戦への意気込みをうかがいました。最後の質問への回答は見事にシンクロし、両ラグビー部が不可分な関係にあることを感じさせられました。(なお、お二人に同じ質問をして対談形式でまとめていますが、インタビューは別の日に分けて行いました)

(上)はこちら 早大・大田尾監督、明大・神鳥監督に聞く(上) 100回を迎える早明戦の歴史と意義
縦と横のコントラスト 第100回早明戦

大田尾「その年の最大限を今後も積み重ねていく」

― 100年間、社会やラグビー自体も大きく変化してきた中で、早明戦は大学ラグビーを象徴する試合として一般の注目を集め続け、ラグビー界を先導してきました。将来に目を転じたとき、これからの早明戦は、どうなっていくでしょうか。時代の中でどうなっていくべきでしょうか?

大田尾 先輩たちが、その時代の背景の中で、選手の気質とかプロ化とかいろんな背景がある中で、その時できる最大限の努力をして、最高の集中をして、100回積み重ねられてきたものが早明戦だと思うんです。今私たちができることっていうのは、200回目にどういうものを作り上げよう、という(将来の目標を見定めた)ものではなくて、その年その年の一番ベストなパフォーマンスをすること。だから僕らが今できることは、今のチームをとにかくレベルアップさせることです。

時代と共に指導方法など色んなものが変わっていくと思いますけど、そこを諦めずに学生と向き合って、最高の学生スポーツの一つを作っていく。その結晶が早明戦です。これが2024年、2025年とずっと続いていって、(その結果)100年後はどうなっている、という話だと思いますね。

早稲田の監督である私の責任は、早明戦に対して中途半端なことをしない。おそらくそれは神鳥さんも同じことだと思いますけども、その積み重ねしかないと思います。学生の時に、「20年後の早明戦はこうであろう」と思ってやっていた方は誰もいないと思うんです。その年の早明戦をどう勝つか、だけ考えていると思うんです。それが対抗戦の本当の意味と思います。

「その時できる最大限の努力を100回積み重ねてきたものが早明戦」と大田尾監督

神鳥「人々をワクワクさせる試合であり続けて」

神鳥 個人的には、変わらずあり続けてほしいっていうのが率直な思い。早明戦という特別な試合に多くの人がワクワクしたり熱狂したりする環境って、ずっとあり続けてほしいなあと思います。

今、現役の大学生が、コロナの影響とかもあって、観客がちょっと減ってる。去年の早明戦は3万人ぐらい。やっぱり5万、6万集めて両校の大学生たちが必死になって応援して、それを見てるOBたちも熱くなって、ラグビー好きもそこに集って、わちゃわちゃやる。こういう空間がすごく僕は素敵だと思います。ラグビーに興味がなくても早明戦だけは行ったことがあるという人がたくさんいますので、それが潜在的なラグビーファンになるきっかけにもなる。だから早明戦は、1年に1回の大切な試合としてあり続けてほしいなと思います。

―昔のチケット争奪戦、すごかったです。

我々の頃ピークでしたよね。我々も1年生のとき(チケット売り場の行列に)並ばされました。徹夜で渋谷で。協会から振り分けられる両チームのチケット枚数じゃ足りなくて。昼間練習が終わって夜7時か8時ぐらいに渋谷に合流して。今の時代の感覚ではあまり良くないと思われるかもしれませんが、当時は、先に並んでくれてた方とバトンタッチして1年生がそこで朝まで寝る。本当にいい時代だったなと思います。

もっと学生たちに戻ってきてほしい。(今の学生は)コロナの影響で(早明戦を)見たことがなかった子たちが今上級生になっている。学生たちの盛り上がるイベントとして、楽しさを伝えられたらいいなと思います。この100回という機会に。

昔を懐かしみつつ、「学生たちにもっと観戦にきてほしい」と話す神鳥監督

神鳥「男女がイコールの時代。女子の早明戦もいずれは」

―変化といえば、早稲田大学には今年から女子部ができました。将来的に明治大学に女子部ができて、男子と同じ日に国立で「女子の早明戦」開催という可能性はあるでしょうか?

神鳥 面白いですよね。めちゃくちゃ問い合わせがあったんですよ。(早稲田に女子部発足という)記事が出た直後、「明治は作らないんですか」と。今年の1年生で高校でラグビーをやってた女子学生が、「明治にもできるなら入りたい」って志望してきたり。

私の一存で話せる話ではないんですけど、私見としては、いずれ出来るんじゃないかと思います。男子も女子もイコールな世の中になってきている。いずれこういった話が出てくるのではという話はOBの方々もしていました。「いつ」と確約はできないが、OBとか明治が能動的に動き出すと、ばっと早くいくかもしれないです。

世の中は、「男だから」とか「女だから」っていうのはどんどんなくなってきてる。ただ、ここ(八幡山のクラブハウス)だって、女子マネージャーは可哀想ですけど、女子トイレの数って圧倒的に少なくて、女子のロッカーもなかったり。そういう対応は必要ですけど、どんどん時代の流れに合わせて変化していくんじゃないですか。女子マネだって(以前は)明治にはいなかったですから。

最近は明大ラグビー部のOB会という表現から、OBOG会っていう、公にもそういう表現に変わりました。性別問わず、関わってくれた人はOGとして正式にちゃんと認めていく流れになっています。

北島監督の肖像画

大田尾「女子同士がお互いを好敵手と認めあうことが大事」

大田尾 神鳥監督と同じで、監督としてどうだって話はできないんですけど、私見として言えば、先ほど申し上げたように、この早明戦という対抗戦は、1年1年が積み重なって出来たものだと思うんです。「早明戦を盛り上げましょう」って目的で出来たものではなくて、試合を重ねて、早稲田が「明治さんは我々がすべてをかけて挑戦する相手」って認めて。明治から見ても「早稲田に勝ってやろう」と(お互いを良い相手と認めて)、そういう成り立ちだと思うんです。それが100回積み重なって、こういう意義のある試合が誕生している。

なので、その対抗戦の前に女子の早明戦をやったとして、そこにどういう意味が生まれるかと言ったら、それはちょっと違う話かなと思うんです。例えば、女子部が早明戦をやって、(男子の)早明戦と同じような意義を持つためには、やっぱり初年度から自分たちで積み重ねていかないと、全く意味が違うものになると思うんです。女子部に在籍している学生、監督、コーチが、どういうものを作り上げていくかというお互いの価値観が同じようなチームと(出会って)初めてそういうもの(対抗戦)が成り立つと思うんです。

―お互いの力比べ、テストマッチがラグビーの根本思想だから、「女子部が出来たから」という理由だけで試合をするのではなく、お互いが相手を好敵手と認めあって初めて対抗戦が成り立つのであって、女子は女子の早明戦の歴史を作ることが大事。そういう意味合いでしょうか?

それに近いですね。(男女の同時開催を)除外する、という意味ではないです。歴史というものは積み重ねて成り立つと思うんです。彼女たちはその1歩目を踏み出しているところで、変に男子と歩調を合わせなくていい。彼女たちは彼女たちの歴史をどう作っていくか、っていうのがすごく大事。その方が、一過性で終わらないと思うんです。

もちろん、最初の火付け、導入の意味では(男女の同時開催も)いいかもしれませんが、先をしっかり考えた時には、得策ではない気がします。(男女の同時開催は)あるかもしれないし、ないかもしれない。(女子部が)お互いが認め合ったライバルがいて、それが明治さんだったなら成り立つだろうと思います。だから、(男女の早明戦を開催することが目的化して)そこにありきで向かっていくのはちょっと違うかなと思います。

2021年の早明戦で明大を破り、インタビューの後に笑顔を見せる早大の大田尾竜彦監督(撮影・西畑志朗)

大田尾「今年の明治は『明治』っぽくて、試合が楽しみ」

―今年の早明戦についてです。相手チームの印象、自チームの仕上がり、意気込みをお聞かせ下さい。

大田尾 100回目ということもありますし、今年のチームで勝ちたいという思いが非常に強いですね。

明治さんは非常に調子が上がってきています。去年は廣瀬君(雄也、現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が素晴らしいリーダーで、そういう中で主将を引き継いだ木戸君(大士郎、4年、常翔学園)は、多分序盤の頃、なかなかうまくいかない時間とかあったと思うんですけど、今すごく彼の色が出てきています。今年の明治のカラー、僕は明治っぽくってすごく好きですし、試合するのがほんと楽しい。

―1年生はすごいですね。

伸び伸びやってますが、でもやっぱりいいのは上級生のFW陣ですね。そこが安定してるし、BKも9番と12番の4年生、3年生が細矢(聖樹、4年、國學院栃木)、野中(健吾、3年、東海大大阪仰星)になって、彼らがいるから1年生があれだけ伸び伸びできるところです。

神鳥「今年の早稲田は強い。最近で最も手応えある相手」

神鳥 うちはスローガン(奪還)通りなので。6年、日本一から遠ざかっている中で、明治が求められるもの、期待されているものは、我々は肌で感じてます。この101年目という新しい歴史を踏み出すにあたって、どうしても優勝というスタートが欲しい。このスローガン通り、大学日本一を取りにいきたいなと思いますね。

―それは早明戦に勝たなければ達成できないですね。

強いですね、今年の早稲田は。試合を見ていてもそうですし、実際春に戦って完敗しましたし。ここ数年最も手応えがある、歯応えがある相手じゃないかと思うぐらい早稲田はすごくいいので、そういうチームを越えてこそ価値がある。我々は自分たちにフォーカスして、やるべきことをしっかりぶつけたいなと思います。

お互いは「宿敵」「ライバル」…不可欠無二の相手

―最後に、明治大学ラグビー部にとって、早稲田大学ラグビー部にとって、お互いのチームをひと言でいうと、どういう存在でしょうか?

神鳥 「宿敵」じゃないですか、「宿敵」。これ以外ないじゃないですか。

宿敵って、「お互いがいないと成立しない」という関係性だと思うんです。明治が22年間、2018年まで(大学選手権で)優勝できなかった間は、早明戦も盛り上がらなかった。忘れもしないんですが、ボコボコに早明戦に負けた年(2005年度)に、清宮さん(克幸、当時・早大監督)が記者会見で「明治しっかりしろ」っておっしゃったんです。「明治が強くないと大学ラグビーが盛り上がらん。早明戦っていうのはこんな試合しちゃ駄目だ」みたいなことを。両校はどちらか欠けてもダメで、常に頂点を決する存在じゃなきゃ駄目だと実感させられた瞬間だった。お互いチャンピオンを最近取れてないので、今年こそ2校でチャンピオンを争うようなシーズンにしたいと思います。

―早稲田にとっては?

大田尾 うーん。表現が難しいですね。(長い沈黙)やはり「ライバル」ではないでしょうか。

―昨日インタビューした神鳥監督も、「宿敵」とおっしゃっていました。英語と日本語の違いはありますが、同じお答えで驚きました。

僕も、宿敵かライバルか、迷いました。簡単な構図で言うと、明治さんは大きくて上手で速いんですよ。それに対して早稲田が、どういう施し(対策)を自分たちにしたら勝てるのだろう、と考えさせられる相手です。何も考えず何も講じずには勝てない。やっぱり自分たちを大きく成長させてくれる相手です。自分たちが成長する上で、この1戦があるというのは、非常に大きなことです。

―12月1日が楽しみになって参りました。ありがとうございました。

今年の早稲田大学のスローガン「Beat Up」の横断幕の前で
今年の明治大学のスローガンは「奪還」だ

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