早稲田大学副将・宮尾昌典 くせ者SH、最後の早明戦は「ビッグプレーで沸かせたい」
いよいよ12月1日、東京・国立競技場にて関東大学ラグビー対抗戦の伝統の一戦、100回目の「早明戦」を迎える。11月23日、慶應義塾大学との「早慶戦」に57-3で勝利し、開幕から負けなしの6連勝中の早稲田大学が全勝で対抗戦の優勝を達成するか。快勝すればまだ優勝の可能性の残る明治大学が意地を見せるか。臙脂(えんじ)、紫紺の両チームの副キャプテンに話を聞いた。
代表活動で不在がちだった主将・佐藤の留守を守る
HO佐藤健次(4年、桐蔭学園)が引っ張る好調の早稲田大の副キャプテンはSH宮尾昌典(4年、京都成章)だ。アタックセンスあふれる選手としてルーキーイヤーから活躍し、2年時は大学選手権準優勝にも貢献した。
宮尾は最終学年の今季、けがでなかなか試合に出られなかったが、昨年の王者に48-17と快勝した帝京大学戦から控えメンバー入りを果たしている。チームの好調の要因を聞くと宮尾は「帝京大戦に勝ったことはチームとしてプラスです。システムというか、どういうアタックしようということに対してみんながコミットし、みんなが理解した上で練習に取り組むことができているので良いアタックができている」と話した。
実はSH宮尾は今季だけでなく昨季も、けがの影響で、秋から冬にかけては大学選手権2試合の出場に終わっていた。「伊藤大祐(現・コベルコ神戸スティーラーズ)さん、岡﨑颯馬さん(現・静岡ブルーレヴズ)など一つ上の代の先輩たちと仲が良くてホンマに大好きだったので、試合に出たいなと思い、リハビリを頑張って最後に間に合いました」と話したが、昨季は準々決勝・京都産業大学戦に28-65で大敗し、シーズンを終えた。
1月9日にスタートした今季の早稲田大。大方の予想通りHO佐藤がキャプテンとなり、同じく1年から活躍していたSH宮尾は副将を任された。しかし春から夏にかけてHO佐藤は日本代表活動に参加しており、チームを留守にすることが多かった。
宮尾は「(佐藤)健次には『ワセダファースト』で早く早稲田大に帰ってきてほしかったですね!」と苦笑する。宮尾いわく、ラグビーに対して「すごく真面目」だという佐藤と、「楽しむのが一番」という宮尾のリーダーシップは真逆。それでも佐藤キャプテンの留守の間、宮尾は「健次がおらん間にチームがあかんくなった」と言われないように、時には厳しい言葉も使ってチームを引っ張ったという。
世代トップのSH、花園準優勝や高校代表歴も
兵庫県出身の宮尾は3歳の時に兵庫ラグビースクールで競技を始めた。中学時代は、兵庫スクール代表などで活躍したが、高校は地元ではなく、京都・京都成章高校に進んで、親元を離れて寮生活をしながら研鑽(けんさん)を積んだ。
高校1年生から3年連続で花園に出場し、3年時はスピードある仕掛けとパスさばきで、京都産業大学のCTB/FB辻野隼大、帝京大のLO本橋拓馬(ともに4年)といった同期とともに花園決勝に進出。佐藤のいた桐蔭学園に敗戦したものの、京都成章初となる準優勝に大きく貢献した。高校2年時はU17日本代表、高校3年時には高校日本代表にも選出された。
世代トップのスクラムハーフだった宮尾は、東西の強豪大から誘われたものの、2019年度、早稲田大をキャプテンとして大学日本一に導いた日本代表SH齋藤直人(現・フランス・トゥールーズ)への憧れや、「試合に出られそうな大学にいくのか、自分にとって厳しい環境に行くのか悩んだときに、より競争のある環境でプレーしたい」という思いから、早稲田大学へ進学を決めた。
大学3、4年で苦闘も、来春からは「プロで勝負」
早稲田大学入学直後は、けがで少し出遅れてしまった。だが、宮尾はその遅れを取り戻すかのように、夏合宿からAチームの9番として大きな存在感を放つようになった。「1年生のとき、パスもキックもめっちゃくちゃ練習しましたね」と懐かしそうに振り返った。
身長165cm、体重70kgと決して大きな体格ではないが、何をしてくるかわからない〝くせ者〟タイプのSH宮尾。大学2年時、大学選手権準々決勝・明治大戦のインターセプトからのトライ(後半19分)で勝利に導いたプレーが大きく印象に残っている。試合前に対戦相手のビデオをあまり見るタイプではないが、「相手FWのアタックはSOを経由することが多かったので」と、直感の判断でSOからのパスをインターセプトし、そのまま約75mを走りきってトライを挙げた。
ただ宮尾は、大活躍だった1、2年時とは違い、大学3、4年時はなかなか9番を着ることができていない。「ラグビーを始めてから大学2年までずっと9番で、今、リザーブからの出場を勉強中です」と悔しそうな表情を見せた。高校の恩師である京都成章の湯浅泰正総監督に「スタメンが当たり前の人生だったが、今、リザーブをやった経験が、絶対リーグワンに行ったら生きてくる」と言われ、励まされたという。
愛称は「まぁ」。茶髪に見える髪は地毛で、曽祖父がドイツ人だという。自らの強みを聞くと「ロングのパスも放れるし、キックも蹴れるし、自分から仕掛けられる。アグレッシブにアタックできますし、全体的にできることが多いのかな」と胸を張った。
「パス、ラン、キックとスキルレベルを一段上げつつ、ゲームコントロールをもっと学んで、早く上のレベルでプレーしたい」とラグビーに対してあくまでも貪欲(どんよく)なSH宮尾。来春からは「プロで勝負したい」とリーグワンの強豪チームに進み、将来は大学の先輩であるSH齋藤直人のように海外でプレーすることに思いをはせる。
自身5度目の早明戦「ワクワクします」
大学でのプレーは多くても残り4試合となった。大学選手権での対戦も含めると自身5回目となる「早明戦」に向けて、宮尾は「少し慣れているところもありますが、ワクワクしますし、自分の役割ができればいいかな。後半から出場して、アタックのテンポを変えて、得点に絡みたい」と意気込んだ。
高校、大学と準優勝に終わっているSH宮尾。自身初の学生日本一に向けて、個人的にどんなプレーをしたい?と聞くと「やっぱり、派手なプレーをして、ファンの人に楽しんでもらえたらうれしいです。ビッグプレーをしてスタジアムを沸かせて終わりたい」と笑顔を見せた。
副キャプテンとして、そして相手にとって常に脅威となるスクラムハーフとして、学生生活のラストイヤーを有終の美で飾ることができるか。