フィギュアスケート

東北福祉大・聖前埜乃華 夢を追い〝聖地〟仙台へ、鈴木明子さん輩出の名門復権を担う

仙台と八戸の2拠点で競技と向き合う東北福祉大の聖前埜乃華(すべて撮影・川浪康太郎)

仙台市と青森県八戸市の2拠点で研鑽(けんさん)を積む大学生フィギュアスケーターがいる。今年の東北・北海道選手権で2連覇を達成した東北福祉大学の聖前埜乃華(しょうぜん・ののか、1年、八戸工大一)。高校までは生まれ育った八戸で過ごし、大学進学を機に今春から仙台で一人暮らしを始めた。現在は八戸FSC所属のまま平日は仙台、土日は八戸で練習に励んでいる。東北の地で輝く19歳が思い描く未来とは。

母と同じ福祉の分野に興味、「両立」可能な大学を選択

八戸市出身の聖前は、友人に誘われたことがきっかけで6歳の頃にスケートを始めた。元フィギュアスケーターの母と祖母に支えられながら競技を続け、みるみるうちに上達。毎年のように東日本選手権に進出し国体の代表も務めるなど、青森のジュニア女子を牽引(けんいん)してきた。

大学での競技継続を見据えて昨年からシニアに転向し、高校ラストイヤーは東北・北海道選手権優勝、インターハイ12位など躍動。一時は推薦入試でスケート競技が盛んな関東圏の大学に進学することも考えたが、最終的にその道は選ばなかった。聖前は次のように理由を明かす。

「関東の大学にはうまい選手がたくさんいて、自分は大きい大会に出られないのではないかと考えました。家族もすぐに来られない距離になるし、関東まで行くのはリスクが高いかなと。自分も気が強い方ではないので……」

一時は関東圏の大学に進学することも考えたが、東北に残る決断をした

一方、聖前はスケート以外にも別の夢を抱いている。保健医療機関で福祉の専門職を担う、医療ソーシャルワーカーになることだ。中学生の頃、母が従事する福祉関連の仕事に興味を持ち、高校生になってから具体的な目標に定めた。進学した東北福祉大は、「スケートをしながら福祉の勉強もしたい」との思いに合致した大学だった。

「ずっと目標」にしている千葉百音の背中を追って

大学では社会福祉士の資格取得を目指して勉強している。朝練を終えてから授業を受けるか、授業を受け終えてからリンクに直行するかの日々で、大学へ行くにもスケート靴は必需品。学業との両立を必死にこなす中、人生初の一人暮らしについても「これまでやったことのない家事が多いので大変。最初のうちは毎日疲れ果てていました」と苦笑いを浮かべる。

ただ、聖前にとってフィギュアスケート発祥の地・仙台は「憧れの場所」だ。多忙の日々は充実感に満ちあふれている。「羽生さんをはじめ、多くの有名スケーターがこのリンクで滑ってきた。そこで毎日練習できているのがうれしいです」。仙台の練習拠点であるアイスリンク仙台は、羽生結弦さん、荒川静香さんら偉大なスケーターたちが巣立った〝聖地〟だ。

アイスリンク仙台で滑れることに大きな喜びを感じている

身近な存在としては、幼少期から何度も同じ大会に出場した千葉百音(早稲田大学1年、東北)も仙台で育った。千葉は昨季から京都に拠点を移し、今年の四大陸選手権で優勝、グランプリファイナルでは日本勢トップの2位を果たすなど躍進を続けている。

聖前から見た千葉は「今は遠い存在になってしまったけど、ずっと目標にしている」選手。「軸がまったく動かないジャンプ、柔軟性のあるスピン……全部すごい。細かいステップを踏んでいるのに軸がぶれなくて、エッジが深いところもすごく尊敬しています」と、東北で切磋琢磨(せっさたくま)した旧友に賛辞を贈る。

最終目標は「誰もが見て魅力を感じる、憧れるスケート」

12月15日にアイスリンク仙台で開催された「第7回仙台市長杯フィギュアスケート競技会」では、エキシビションに登場。一昨年、羽生さんがサプライズで「パリの散歩道」を披露して話題となった同大会への初参加とあって、喜びをかみしめながら滑った。

この日は今季のショートプログラムでも使用している「キダム」を披露。楽曲が醸し出す「奇妙さ」や「不思議さ」を全身で表現した。本人が「自分の演技を動画で見ると、シニアの演技にかなり近づいて表現が大人になってきた」と話すように、表現力は大学生になってから数段磨かれた。

大学生になってから表現力に磨きがかかった

高校までは得意にしているジャンプの練習に重きを置いていたが、大学ではスケーティングにもこだわるようになった。今季はジャンプの転倒が多く、「最近は完璧ではない演技を皆さんに見せてしまっていることが悲しい」と本音を漏らしながらも、新たな武器も備わってきたと実感している。

「誰もが見て魅力を感じる、憧れるスケートをできるようになるのが最終的な目標。自分が世界で活躍する選手を見て希望をもらったので、そういうスケーターになれるよう頑張ります」。4年間かけて少しずつ理想に近づいていく。

初のインカレで「大学の名前を全国に広めたい」

「気が強い方ではない」と自己評価する聖前だが、胸の奥には秘めたる思いがある。「インカレ(日本学生氷上競技選手権大会)で上位に食い込んで、自分を受け入れてくださった大学の名前を全国に広めたい」。インカレは大学の名前を背負って臨む大会。有望選手が集まる関東、関西、中京圏の大学に負けるつもりはない。

東北福祉大は冬季オリンピックに2大会連続で出場した鈴木明子さんの母校。当時は部活動として認められていたフィギュアスケート部が一度消滅し、昨年同好会として復活した。現在は聖前と同好会を立ち上げた藤﨑鈴(2年、東北)の2人が在籍している。

「明子さんは学業と両立しながら世界で活躍されていた。そういう先輩がいた環境で学べていることがすごく心強いです」と聖前。オリンピアンを輩出した〝名門〟復権へ――。部員増と部活動復帰を願いつつ、「明治大学や早稲田大学のように、『スケートと言えば東北福祉大学』というところまで自分が持っていきたい」と力強い野望を口にした。

部員増と部活動復帰のためにも、インカレでアピールしたい

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