ラグビー

帝京大学・小村真也 チームを大敗から復活させた頼れる男「部員全員で日本一を取る」

小村が復帰した11月の明治大戦以降、筑波大、慶應義塾大と3連勝中だ(すべて撮影・斉藤健仁)

1月2日、東京・国立競技場でラグビー大学選手権の準決勝が行われる。1試合目は、昨季の決勝と同じカードとなり、4連覇を目指す帝京大学(関東対抗戦2位)が明治大学(対抗戦3位)の挑戦を受ける。「紅(あか)き旋風」の異名を持つ帝京大のBKリーダーが、FB小村真也(4年、ハミルトンボーイズ高)だ。

小村の復帰以降、チームは連勝

「紅き旋風」に頼れる男が戻ってきた。

今季の帝京大学は春季大会こそ優勝したが、決して絶好調とは言えなかった。夏合宿は早稲田大学に14-38で敗れ、11月3日の対抗戦でも同じく早稲田大に17-48と大敗。しかし、接点、セットプレーという本来の強みを前面に出して復活し、2週間後の明治大戦に48-28と快勝した。

その明治大戦で、6月に負った左足のけがから復帰したのが、FB小村真也だ。15番を背負って、キックやランでゲームをコントロールし、タックルでも気を吐き、チームに〝違い〟を生み出した。

今季の対抗戦の最終戦となった筑波大学戦は80-0の完封勝利

身長180cmでハイボールにも強い小村は、2、3年時は主にバックスリーとして中軸を担っていた。だが4年生となった今季はけがをした状態からのスタートだった。春季大会こそ2試合復帰したがまた負傷してしまい、11月にやっと復帰を果たした。小村は「ラグビーをやってきて、ほぼ1年間試合に出られなかったことは初めてだったので、みんなと一緒にピッチに立つことができてうれしかった」と破顔した。

早稲田戦大敗からの復活劇について、小村は「細かいところもやってきたが、『相手から食らうのではなく、自分たちから仕掛けてやんぞ』というメンタル的な部分を出すことができたことが大きかった。また(バックスリーの)バックフィールドの動きも自分が出場して改善できたと思います」と冷静に振り返った。

小村の復帰とともに帝京大は調子を取り戻し、11月30日の対抗戦最終戦の筑波大学には80-0、大学選手権の初戦(3回戦)の慶應義塾大学(対抗戦4位)にも73-24で勝利し、5シーズン連続となる準決勝に駒を進めた。

時折10番に入ってゲームもコントロールする

祖父はスクール☆ウォーズの「泣き虫先生」

小村は大阪府出身。祖父は、TVドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとなった伏見工業(現・京都工学院)の監督(現・総監督)で知られる元日本代表の山口良治氏だ。

その影響で、当時小学校1年だった兄・健太(現・レッドハリケーンズ大阪)とともに、3歳から大阪工大ラグビースクールで競技を始めた。

「おじいちゃんにはよく試合を見てもらっています。小さい頃から、一緒に街を歩いているとよく声を掛けられていたので、すごい人なんやなっていうのは知っていましたし、昔はちょっと怖かったですね(苦笑)」

ラグビーと同時に、小学校でミニバス(バスケットボール)を始めて、平日は2~3日バスケット、週末はラグビーという生活を送っていたが、ラグビーの強豪として知られる大阪の菫中学に入学すると、ラグビーを選んだ。「バスケットボールよりもラグビーの方が真剣にできていたので、中学に入ったらラグビーに専念することを決めていました」。帝京大でチームメートのFL倉橋歓太(4年、東海大大阪仰星)は中学の同級生だ。

SOだった小村は大阪府選抜に選ばれ、全国ジュニア大会ではキャプテンとして、帝京大キャプテンFL青木恵斗や早稲田大キャプテンHO佐藤健次(いずれも4年、桐蔭学園)らのいる神奈川県選抜を下して優勝し、優秀選手にも選ばれている。

筑波大戦に勝利後、チームメートと笑顔

高校はNZ留学 「将来は日本代表に」

世代トップの選手だった小村は多くの強豪高校から声がかかったが、兄がハミルトンボーイズ高校に留学していたこともあり、兄にならってハミルトンボーイズ高校に入学した。「ラグビーの環境面もすごく良くて、日本の高校よりも魅力的に映りました」

大学は日本に戻ってきてプレーしようと思っていた小村は、ウェートルームなどの環境面を考慮して、やはり兄と同じ帝京大に進学を決めた。そして1年から試合に出るようになり、2年、3年時は対抗戦、そして大学選手権の優勝に貢献した。

チームメイトに指示を送る小村

「自分で仕掛けるタイプの選手が好き」という小村は、元オーストラリア代表SOクウェイド・クーパー(花園近鉄ライナーズ)が憧れで、今は元ニュージーランド代表SOリッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)のプレーもよく見るという。チーム事情で大学では主にバックスリーとしてプレーしてきたが、来春から進むリーグワンではSOに専念する方向でいる。

「将来は日本代表に選ばれたいですね。15番も好きなので、そこまで10番にこだわっているわけではないですが、リーグワンにはいろんなポジションに世界のスター選手がたくさんいるので、学べることが多いと思っています」

キックも小村の大きな武器の一つだ

グラウンドに立てない部員のためにも

4年生はみんな仲が良く、小村同様に1年生から試合に出ている青木キャプテン、副キャプテンLO本橋拓馬(4年、京都成章)、SH李錦寿(4年、大阪朝鮮)らリーダー陣との絆も強い。特に青木に関して、小村は「今年の4年生はプレーを楽しめる代だと思います。BKは後ろから見ることしかできないが、青木はプレーで激しくいってくれる頼もしいキャプテンです。そのプレーに周りの選手が触発される。それが今季の帝京大のスタイルです」と語気を強めた。

大学生活は残り2試合。もちろん深紅のジャージーの15番が見つめているのは頂点のみだ。

BKリーダーでもある小村は「グラウンドに立っていない100人以上の部員がいる中で頑張らないといけないし、絶対大学日本一という目標を全員で取りにいきたいです」と意気込んでいる。

接点、セットプレーで真っ向勝負をするチームの中で、FB小村が冷静な判断とひらめきで変化をつけて勝利の立役者となる。

「グラウンドに立っていない100人以上の部員がいる中で頑張らないといけないし、大学日本一を全員で取りにいきたい」

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