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特集:2025年 大学球界のドラフト候補たち

東北福祉大・堀越啓太(上)激動の1年経て、ドラフトイヤーで真の「無双状態」体現へ

今秋のドラフト候補に名が挙がる東北福祉大学の堀越啓太(すべて撮影・川浪康太郎)

今秋のドラフト候補に挙がる東北福祉大学の最速157キロ右腕・堀越啓太(3年、花咲徳栄)にとって、大学3年目の昨年は大きなターニングポイントになった。圧巻の投球と悲劇の暴投、ライバルの台頭……。目まぐるしい1年を終え、確かな手応えをつかんだ。「チームとしては日本一、個人としてはドラフト1位」。そう目標を掲げるラストイヤーが幕を開ける。

7割の力感で「一気にハマる感覚」つかんだ3年秋の一戦

昨年10月6日。東北福祉大は仙台六大学野球秋季リーグの東北学院大学戦で、タイブレークの延長十二回までもつれる死闘を制した。九回まで1-1と両者譲らず、タイブレークに突入した十回、マウンドに上がったのが堀越だった。

堀越は十回こそ暴投や野選が絡んで2点を失ったものの、十一回は1死満塁から連続三振に仕留め、十二回も無失点に抑えてその裏のサヨナラ勝利を呼び込んだ。4奪三振で被安打はゼロ。この日投じた40球のうち、暴投になったフォーク以外の39球はすべて真っすぐで、うち9割以上が150キロを超えた。

「常にあの形を模索していました。フォームの力感を抜いたら球が抜けてしまったり、コントロールを意識しすぎると逆に悪くなったりと、今までは試合の中で何か一つうまくいかないことがあったんですけど、それらが一気にハマる感覚をつかんだのが、学院大戦の試合中でした」

ずっと模索していた「一気にハマる感覚」をつかんだ

39球の直球はどれも豪速球に見えたが、本人いわく「7割くらいの力感で投げた」。堀越は「うまく力が抜けた状態で150キロ中盤が出て、バットに当たらないストレートを投げたいところに投げることができた。10割で投げてもあまり球速が変わらない上に球質が落ちることもあるので、それであれば軽く投げた方がいい」と肌で感じ、その感覚をブルペンでの投球練習から体に染みこませてきた。

悔しさを成長につなげた三塁への悪送球

東北学院大戦から1週間後の仙台大学戦でも快投は続いた。1戦目は七回から3イニングを投げ、走者を一人も出さずに打者9人で抑えるパーフェクト投球。6者連続を含む7奪三振と相手打線を完璧に封じ込んだ。この日は24球の直球すべてが150キロを超え、最速155キロを4度計測。一方、スライダー、フォークなどの変化球も16球投じ、投球の幅を見せつけた。

翌日の2戦目も六回から継投し、九回まで被安打1、無失点と「無双状態」を継続。しかし同点で迎えたタイブレークの十回、悲劇が訪れる。無死一、二塁の場面で仙台大の先頭打者が犠打を試み、高くバウンドした打球は堀越の前へ。堀越は二塁走者の進塁を阻むために三塁送球を選択したが、それたボールは三塁手のグラブに収まらず、ファウルゾーンに転がり、その間に相手走者が生還した。

仙台大のサヨナラ勝利、そしてリーグ優勝が決まった瞬間、堀越は泣き崩れ、しばらく起き上がることができなかった。仲間に抱きかかえられて整列に並んだ際も、涙は止まらなかった。「あの瞬間は今までで一番集中していたので、すぐには頭の整理ができず、理解が追いつかなかった。試合後のあいさつが終わって、少しずつ『やらかしてしまった』という感覚になりました」。堀越はそう言葉を振り絞る。

自らの悪送球で仙台大に優勝を譲り、堀越は泣き崩れた

ただ、落ち込んだのは当日だけ。翌日には自身のプレーを冷静に分析した。三塁送球は「三塁走者のスタートが良く、内野ゴロで1点を取ってくる」仙台大野手陣の特徴を鑑みた上での選択。一瞬でできる最善の選択だったと思い直す一方、「あの日の投球内容だったら、走者が三塁に進んでも一つアウトを取れていれば、次の回に持ち込めたのではないか」という考えも浮かんできた。

その後の練習試合では、秋に得た感覚を確かめながら投げた。「大勢の人に見られる中だと緊張感が出て(暴投のプレーが)よみがえる不安があった」という12月の大学日本代表候補合宿でのシートノックでも、問題なくボールを操れることを確認した。過去から目をそらさずに向き合ったからこそ、堀越は「悔しい経験を次にどう生かすか、考えながら生活している。メンタル面も含めて成長できています」と胸を張る。

ライバルの活躍に奮起、「エース」を目指す

悔しさを感じる瞬間はほかにもあった。その一つが、同学年で同じくドラフト候補に挙がる仙台大の最速152キロ左腕・渡邉一生(3年、日本航空/BBCスカイホークス)の台頭だ。

渡邉は昨春のリーグ戦で4勝、防御率0.27と好成績を残して最優秀選手賞、最優秀投手賞、ベストナインの個人三冠を獲得。全日本大学野球選手権でも好投し、大学日本代表入りも果たした。堀越にとって渡邉は「良きライバルで『絶対に勝ってやる』という気持ちを強くさせてくれる存在」。それゆえ「投球内容も勝ち星の数も、自分がなりたい形だったので、悔しかったです」と唇をかんだ。

仙台大学・渡邉一生(上)クラブチームから進学した左腕が〝ロマン枠〟を脱却するまで
仙台大の渡邉一生は自分がなりたい形。良きライバルとして闘争心を燃やす

堀越は中継ぎ起用が主なこともあって、昨年は春秋ともに1勝止まり。先発としてのアピールは十分にできておらず、大学日本代表は候補に入るも、選出には至らなかった。「今年は先発で評価してもらって、一生と投げ合いたい。まずは自分がこのチームで1戦目に先発させてもらえるような結果を出さないといけない」。穏やかな口調で静かに闘志を燃やす。

先発にこだわるのは、「自分が手にしたい『エース』の称号は先発でないと得られないと思う」から。「先発で5、6勝を挙げて、リーグで無双できるようなピッチャーになりたい」。勝負のラストイヤーは、想像を上回る真の「無双状態」を披露してくれるはずだ。

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後編は8日に公開します。

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