東北福祉大・堀越啓太(下)スピードへのこだわり捨て、探し続ける投球の「引き出し」
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「大学1、2年生の間はスピードにこだわって、3、4年生ではスピードを保ちながら完成形を目指す」。今秋のドラフト候補に挙がる東北福祉大学の堀越啓太(3年、花咲徳栄)は、明確なビジョンを描いて大学野球の世界に飛び込んだ。1、2年時のオフ期間に非公式ながら160キロ台を連発したことが話題を呼び、現在も堀越を紹介する際は必ずと言っていいほど「最速157キロ右腕」の枕詞(まくらことば)がつく。しかし、本人はスピードだけにこだわらず、投球の「引き出し」を増やす作業に没頭してきた。
4年前に指名漏れを経験、それでも消えなかった夢
堀越は高校時代にもドラフトを経験している。埼玉の強豪・花咲徳栄高校では甲子園の舞台にこそ立っていないものの、2年秋にエースナンバーを背負い、3年時も主に中継ぎで活躍。NPBのスカウトが視察に足を運ぶ機会も多かったが、ドラフトで名前を呼ばれることはなかった。ともにプロ志望届を提出した捕手の味谷大誠だけが中日ドラゴンズから指名を受け、チームメートが歓喜に沸く中で悔しさをかみ締めた。
小学2年生の頃、地元の埼玉県飯能市からほど近い西武ドーム(現・ベルーナドーム)でプロ野球のオープン戦を観戦したことがきっかけで、野球を始めた。「プロ野球選手になりたい」。その試合で先発した埼玉西武ライオンズの十亀剣が投げる姿に憧れ、大きな夢を見つけた。
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指名漏れを味わっても、幼少期から抱き続けた夢は消えなかった。ドラフト直後から野球塾の指導者に教えを請い、大卒でのプロ入りを見据えて当時最速147キロだった球速の向上に努めた。助言されたトレーニングやフォーム改善に取り組みつつ、バレーボールを用いた練習など自身で採り入れたトレーニングにも励むと、みるみるうちに球速が伸び、高校3年の12月には150キロに到達。翌年の1月には155キロをたたき出した。
「大学生は完成度の高いピッチャーが評価される」
「ドラフトを考えると、スピードを求められるのは最初のうちだけ。特に大学生は完成度の高いピッチャーが評価される」
高校野球の引退後から、大学1、2年時にかけては球速アップに重きを置き、実際に公式戦でも150キロ台を連発した。オフの期間には茨城県つくば市のトレーニング施設で160キロ台を計測。速球派投手としての注目度は、下級生のうちに十分高まった。そして「完成形を目指す」3年時を前に、堀越は「引き出し」というワードをたびたび口にするようになった。
練習試合などで先発の機会が増えた2年の夏ごろには、「配球について考えたり、投げる変化球を多くしてみたりと、引き出しを増やすことを意識しています。またこれまでは三振を取りにいくピッチングが主体になっていましたが、球数を抑えるために打たせて取るという考え方もするようになりました」と話していた堀越。球速と並行して変化球の精度や制球力も磨く日々を送った。
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中村優斗の助言を胸に、大きく飛躍した3年秋
3年時には、さらなる転機が訪れた。6月、かねてより参加を熱望していた大学日本代表候補合宿に初招集された。タイプが似ていると感じた愛知工業大学の最速160キロ右腕・中村優斗(東京ヤクルトスワローズから1位指名)に握りを教わると、直球の質やフォークの球速、キレが向上。「中村さんのように、スピードと変化球を兼ね備えた上で『一番の持ち味はコントロール』と言えるようになりたい」というモチベーションも生まれた。
夏は調子を落としたものの、「ドラフトに向けて大事なシーズン」と位置づけた秋のリーグ戦では手応えをつかんだ。狙い通りに制球力が増し、直球が低めやコースに決まるようになってきたほか、ストライクを取れる変化球やバットに当たらない直球も手に入れ、「ピッチングが楽になった」と実感した。直球で押すこともあれば変化球を交えて打者を翻弄(ほんろう)することもある。試合ごとにマウンド上で違う顔を見せながら好投を続けた。
「自信を持てる引き出しがあればあるほど、攻略するのが難しいピッチャーになれるし、自分もマウンドで困らない」。その考えは変えずに、今オフはブルペンで多い日は120~150球を投じ、あらゆる球種や投げ方を試している。
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大学ラストイヤーに掲げる「日本一」と「ドラフト1位」
堀越は前回のドラフトを「過信しすぎていた部分があった」と振り返る。その上で「指名漏れを経験して分かったことがたくさんあって、それを糧に成長できた。あの時指名漏れしてよかったと、今になって思います」とも口にする。2度目のドラフトイヤーは過度なプレッシャーを感じずに迎えられているという。
また、大学入学後は1年春に全日本大学野球選手権に出場して以降、全国の舞台から遠のいている。「自分が右も左も分からない中で先輩に連れていってもらって以来、あの聖地(明治神宮野球場)に行けていない。どうしても行きたい」。最上級生になる今年は「個人だけでなくチーム全体も見渡して、引っ張っていかなければならない立場」だと捉えている。
「チームとしては日本一、個人としてはドラフト1位」。完成形にたどり着き、二つの目標を達成する日まで、毎日のブルペンで引き出しを探る。
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