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特集:New Leaders2025

明治大学・島野怜主将 "点の取れるボランチ"が受け継ぐ優れたリーダーシップの系譜

名門の主将に就いた島野怜(明治のユニホーム姿はすべて提供・明治大学体育会サッカー部)

昨季の明治大学は関東大学サッカーリーグ1部で史上初の無敗優勝を果たし、リーグMVPに輝いた前主将の中村草太(現・サンフレッチェ広島)ら6選手をJ1クラブに送り込んだ。リーグ2連覇を狙う今季も全日本大学選抜に最多の4人が選出されるなど、プロ注目のタレントがひしめいている。新チームの主将を務めるボランチもその一人だ。島野怜(4年、仙台育英)にラストイヤーへの思いなどを聞いた。

仙台育英時代には全国選手権でハットトリックも

3月20日の大学日韓(韓日)定期戦では全日本大学選抜の先発メンバーに名を連ね、存在感を示していた。身長182cm、体重81kgの大型ボランチはゲームをコントロールしながら強烈なミドルシュートでゴールを脅かし、守備の局面でもしっかりと仕事をこなした。フィジカルの強さを生かし、素早くセカンドボールを回収。1-0の勝利に貢献した。島野はプレーへのこだわりを口にする。「運動量、つぶし切る守備、ゴール前に入っていくところは、誰にも負けたくないです」

ただ、この一戦での働きには納得していなかった。自己評価の基準は厳しい。

「持ち味のボールを奪う部分は出せたと思いますが、(0-0で)ゴールが欲しい状況のときに自分で点を取れなかった。チャンスで決めるか、決めないかでは大きく違います。そこで僕の価値も変わってくるので、もっと突き詰めていきたいです」

全日本大学選抜の一員としても島野(前列左端)は存在感を示した(撮影・杉園昌之)

もともと得点力には定評がある。仙台育英高校時代には全国高校選手権でハットトリックを達成するなど、〝点の取れるボランチ〟として鳴らした。明治大に入学後は、守備力にも磨きをかけてきた。1年時は途中出場が多かったものの、2年時からリーグ戦で先発出場の機会を増やしていく。持ち前の運動量と体の強さを生かせるようになったのが大きかったようだ。

昨季は主力のボランチとして守備で周りを動かし、チャンスに絡む回数も増加。3年時は22試合に出場して4得点を挙げ、2年ぶり8度目のリーグ優勝に貢献した。常勝軍団の一員として試合を重ねていくうちに、明治の看板を背負う責任感が増していった。4年生が抜けて最上級生になると、必然的に思いが込み上げた。

「自分が先頭に立って、このチームを引っ張っていきたい。明治をもっと強くしたい」

全国高校選手権では3回戦で高川学園に敗れ、涙をのんだ(撮影・伊藤進之介)

「明治はプロサッカー選手の養成所ではありません」

同期たちの話し合いでキャプテンに推挙されていたが、投票での選出にこだわり、立候補という形を取ったという。

「自らの意志でなった方がいいと思ったので」

歴代のキャプテンからは多くのことを学んだ。1年時は林幸多郎(現・FC町田ゼルビア)、2年時は井上樹(現・ヴァンフォーレ甲府)、そして3年時は中村の背中を見てきた。いずれも明治の象徴として、優れたリーダーシップを発揮していた。

「誰よりもチームのことを考えて行動している人たちでした。うまくいかないときも、みんなを同じベクトルに向かわせ、前を向き続けるのが、明治のキャプテンだと思います。僕もそうありたいな、と。仙台育英のときもキャプテンを務めて、チームのことを考えているつもりでしたが、振り返れば、自分のことを優先していた部分があったかもしれません。今の気持ちの持ち方とは少し違います」

島野が描くキャプテン像は明確だ。チームを勝たせて、誰よりも〝明治〟を体現すること。ピッチではサッカー部がずっと掲げている三原則の「球際」「切り替え」「運動量」を徹底し、ピッチ外でも人としてお手本であることを心がけている。

「明治はプロサッカー選手の養成所ではありません。人として当たり前のことを忘れてはいけない。まず自分が背中で、それを示していく。他大学とは日々の練習で求めている基準から違うと思っています。日本一の練習をしているという自負もあります。そこは譲れないところです。絶対に他大学には負けません」

主将として、誰よりも"明治"を体現すると心に刻む

力強い言葉には気迫がにじむ。明治大で結果を残せば、おのずと将来の道が開けてくると信じている。すでにJ1クラブの柏レイソル、東京ヴェルディの練習に参加するなど、プロからも注目されているが、何よりもまずはチームのために力を注ぐことを誓う。

「勝ち続けて、タイトルを取れば、個人の評価もされるはずです。チームを勝利に導きながら、自分の持ち味を出していきたい」

なりたい将来の姿から逆算し、段階を踏む

4年目に懸ける思いは強い。思い描くのは、前主将の中村がリーグ戦で得点王、アシスト王を獲得し、MVPを受賞したような圧倒的な活躍だ。

「誰が見ても、『大学サッカー界で一番良い選手は島野だ』と言われるくらい活躍しないといけないと思っています。1日1日を大切にして、後悔がないようなシーズンにしたいです。内容も結果も残さないといけません」

決してゴールに近いポジションではないが、目に見える数字も追い求めていく。
「関東大学リーグで10点以上は取りたいです。ゴールは意識してやっていきます。今の日本には点の取れるボランチがほとんどいないので、そこで違いを出していきたいと思っています」

ボランチだが、自らゴールに向かう意識も強い

高みを目指す主将の強い意志が、ひしひしと伝わってくる。フットボーラーとしてのビジョンもはっきりしている。高校時代からドイツのブンデスリーガ、イングランドのプレミアリーグでプレーすることを夢見てきた。毎日のように東京・八幡山の練習場に掲げられた「明治発、世界へ!」の横断幕を目に入れ、自らを律している。

「僕が目指しているのは『世界』で活躍すること。(世界最高峰の)UEFAチャンピオンズリーグでもプレーしたいと思っています。その将来から逆算して、どのようなステップを経ていけばいいのかを考えています。段階を踏んで、たどり着きたいです」

ただの夢物語ではない。かつてイタリアのセリエAで実績を残した長友佑都(現・FC東京)をはじめ、安倍柊斗、室屋成、森下龍矢ら現在もヨーロッパの舞台で活躍を続ける明治大のOBがいる。先人の背中を追う21歳は、目をギラギラさせて大学ラストイヤーに臨む。

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