ラクロス

特集:第10回ラクロス全日本大学選手権

遠かった一歩 京大が見た夢

早大の攻撃陣(手前)に好きにやられてしまった

全日本大学選手権 男子決勝

11月25日@東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場
早稲田大 16-2 京都大

0-1から1-1にしたところまではよかった。しかしそこから引き離され、前半だけで1-8と点差が開いた。「相手の方がレベルが一つ上だった」。京大主将のMF和木英晃(4年、金蘭千里)は力なく言った。

早大の勢いを戦略変更で絶つも

攻めのスタイルを貫く早大と個の強さで勝ち上がってきた京大。両者はともに徹底して「傾向と対策」を練り決戦に臨んだ。早大はMF小野泰輔(3年、早稲田実)がディフェンスを切り崩すパワープレーからの先制点。追う京大は一時退場者が出て数的優位に立ちながらも、早大の強いプレッシャーでショットまで持ち込めない。粘ったMF島佳輝(4年、東海)が同点にするも、その後のフェイスオフからのプレーで1-2に。さらにもう1点許し、第1Q(クオーター)は1-3で終えた。早大は第2Qでも優位に試合を展開し、一気に点差は1-8に開いた。

後半、京大はディフェンスをゾーンからマンツーマンに切り替えて早大の勢いを絶った。G(ゴーリー)鎌木誠人(4年、西大和学園)も連続セーブを決め、第3Qは2失点にとどまった。ただ反撃を狙うも、これまでコンスタントに得点を重ねてきたAT(アタッカー)川本智貴(4年、東海)やAT椎橋広貴(3年、船橋)、AT庄晋太郎(3年、川越)らがボールを持つたび、早大は2人以上のディフェンダーをつけ、シュートポジションに入る隙を与えない。椎橋が執念で2点目をあげたが、第4Qでさらに点差が開き、2-16で試合を終えた。

京大は夢の舞台に挑み、散った(撮影・松永早弥香)

試合を振り返り、京大コーチの宮崎一輝(大学院2年)は「単純に力の差。流れでどうこうなるようなレベルじゃなかった。1-1の段階では『まだいけるなっていう雰囲気があったけど、1-4あたりからはもう、巻き返しが難しかった」と話した。関東1位の早大は、関東リーグでの1試合平均得点が10.7。準決勝の名古屋大戦でも16得点した。京大守備陣は防げる失点を一つひとつ摘むことを意識して試合に臨んだが、とくに5失点の第2Qと6失点の第4Qは、それがまったくできなかった。

一方ではまったプレーもあった。後半からディフェンスをゾーンからマンツーマンに切り替えた。ラクロスのディフェンスはマンツーマンが基本だ。その中であえてゾーンディフェンスをとったのは、5年ぶりに関西リーグ1部に復帰した京大がはい上がる過程で見い出した自分たちに合った戦い方だったからだ。試合を通じて修正し、力をつけてきた。決勝でもその姿勢は変わらなかった。DF清水大雅(3年、四日市)は「第2Qは悪いところが出てしまいました。ぼくたちのゾーンはスカウティングされてたので、もう一回ゼロからやり直そうと、みんな気持ちを入れ替えました。そこで2失点にとどめられたのはよかったです」と話し、「本当はもうちょっと抑えたかった」とつぶやいた。第3Qには、歯を食いしばりながらボールを奪う清水の姿があった。

早大の猛撃の中、京大の清水は体を張ってボールを奪った

日本一なんて思い描けもしなかった

学生日本一を決める舞台に立った京大だが、この舞台に挑むこともできない時代があった。京大は2014年、学生ラクロス連盟の委員会活動に複数回無断欠席したことを理由に、日本学生ラクロス連盟の正式認定競技団体から準認定競技団体への変更処分を受け、2年間の公式戦出場停止と3部リーグへの降格という処分を受けた。京大は関西リーグ1部で優勝6度、全国学生選手権でも準優勝を3度経験していたチームだ。突きつけられた現実に、ラクロスへの意欲を失うメンバーもいたという。それでも、また後輩たちが日本一を目指す舞台に立てるようにと動き始めた。チームのベースには過去の先輩たちの思いが蓄積していた。

清水が入部した16年に、チームは3部リーグからスタートした。「3回生になるころには1部リーグで日本一を目指せる」と思いつつも、正直、大学で初めてラクロスに出会った清水からすると、日本一のレベルは想像さえできなかった。単純にラクロスは楽しいし、先輩もいい人だし、それでいいなと思っていた。

清水は高校までサッカーをしていた。背が高いという理由でDFだった。ただ、高校ではずっと控えだったこともあり、大学では体育会系に入るつもりはなかった。それでもラクロスを選んだのは、新しいことをやって大学生活を楽しみたいという気持ちからだった。ラクロスでも気がついたらDFだった。「後から考えたらATでもよかったかなって思うんですけど、ボールを持つと緊張しちゃうので。サッカーのときもずっとそうでした。それよりは、相手のいやなところを突けるディフェンスの方がやりやすかったんです」

日本一を意識することなく入部したものの、先輩たちのプレーを目にし、1回生のときに「意外に関西一は狙えるんじゃないか」と感じ、2回生では「日本一も狙えるんじゃないか」という実感を持った。それほど、京大のチームには勢いと強さがあった。清水も試合に出る機会が増え、実戦で手応えを感じ始めた。ただ、具体的にいつから自分の中に日本一への思いが芽生えたかは分からず、「先に目指さないといけないという気持ちの方がありました。目指すこともできなかった先輩たちの思いを知らされ、日本一を目指せる資格がある自分たちは日本一になるべきだし、ならないといけないという気持ちが大きくなったんです」と話す。

2回生の西山(左端)も出場。試合で感じた悔しさをバネにする

先輩たちの夢が自分たちの夢になったいま

3回生になってスタメンになり、夢の舞台に続く1部リーグでの戦いが始まった。緊張して臨んだ初戦は京産大に18-4で勝ち、続く関大戦に9-8で競り勝った。自信がついたところで、立命大に1-12で大敗。自分たちの課題を見いだして修正し、次につなげた。関西3位で臨んだファイナル4では立命大に8-6でリベンジを果たし、神大にも12-5で勝ち、6年ぶり7度目の優勝を飾った。

いよいよ全国の舞台。東北大との準決勝は10-8で競り勝ち、早大との決勝に臨んだ。試合を終えて清水が思うのは関東と関西のレベルの違いだった。「正直なところ、ぼく自身は本当にここまでこれると思ってなかったです。どこまでいけたら許されるかなって感じてたところがあります。でもこうしてまた、この舞台に挑めたことに意味があると思ってます」と前を向いた。これまでの先輩たちの思い、そしていま4回生が抱いている悔しさ。3回生である自分がチームで果たすべき責任を肌で感じた。

一年間、学生日本一を目標に戦ってきた京大はこの早大戦が一つの区切りとなるが、12月8日からはクラブチームとの全日本選手権が始まる。和木は「クラブチームはもちろんうまい相手なので、試合展開は苦しいものになると思います。でも、そこで個で負けたらずるずるいってしまうので、もう一度、個の力を見直すことから取り組んでいきます。学生日本一の目標はかなわなかったけど、勝てば早稲田にリベンジができるかもしれない。いまできることに全力を尽くします」と語った。

京大は12月8日からの全日本選手権に早大とともに出場する

京大はコーチも学生のため、毎年人も方針も変わる。コーチの宮崎は「この繰り返しだと、来シーズンにつながらない。これからのことはまだ分かりませんが、OBとして組織を強くする必要があるのかなって、いまは思ってます」。チームの中には清水のように、日本一を思い描くことから始め、3部からはい上がり、夢の舞台にはね返された選手もいる。あと一歩、でもまだ遠い一歩。先輩たちの夢が自分たちの夢になった京大の底力を、私もまた最高の舞台で見てみたい。

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