ラグビー

輝け!! 東北唯一の女子ラグビー部 八戸学院大

取材の日は6人だったが、笑みが絶えなかった

2017年春、東北の大学で唯一の女子ラグビー部が八戸学院大学に誕生した。初年度のメンバーは5人。2年目の昨年は2人が加わり、やっとセブンズメンバーがそろった。それでも思う存分練習ができるわけではない。本州最北の地で、彼女たちはどのような思いで楕円球を追っているのか。

ただただ、恐かった

女子ラグビー部創設は前学長の大谷真樹氏の構想に端を発している。青森県内や北東北にもラグビーに取り組んでいる女子高生はいる。競技を続けようとしても、東北の大学には受け皿がなかった。地元でラグビーを続けられる環境をつくり、彼女たちが地域の希望を象徴する存在になれば、と大谷氏は考えた。男女の7人制ラグビーがオリンピックの正式競技になったことも追い風になり、17年に八戸学院大女子ラグビー部ができた。8年前に男子ラグビー部ができ、工藤祐太郎監督と山下祐史コーチが指導に当たっていた。女子ができてからは、ふたりが男女とも指導するようになった。

初年度の部員5人のうち、2人は陸上からの転向だ。その1人の熊谷彩夏(2年、木造)は高校では七種競技が専門で、東北高校選手権優勝という実力の持ち主。関東の強豪大学から声がかかり、コーチや両親は進学を勧めたが、熊谷自身は陸上はやりきったという気持ちが強く、大学でも続けるつもりはなかった。そんなとき、工藤監督から勧誘を受けた。「陸上以外で大学進学の道が開けるなら」という気持ちから、八戸学院大女子ラグビー部の初代メンバーとなった。

2年生の鈴木(右)と熊谷。1年目の練習は走り込みがメインだった

同じ2年生の鈴木佳寿音(かずね、八戸学院光星)は、中学ではバレー部だったが、母親が女子ラグビーチーム「八戸レディース」の監督と同じ職場だったことがきっかけで、高校からラグビーを始めた。高3の秋、八戸学院大に女子ラグビー部が創設されると聞き、「うそだべ!! 」と驚いた。ラグビー仲間には関東などの強豪校に進む人もいたが、青森の先駆者になれたらという思いで地元に残った。「主将は1年交代」という部の方針で、昨春から主将として活躍している。

5人でスタートした部は、どうやって成長してきたのだろうか。山下コーチによると、最初は細かいルールを理解していないところが見られたという。そのため、初年度は徹底的にルールとプレーの形を指導した。一方で走り込みと筋力トレーニングで体をつくった。ボールさえ十分にそろっていなかったため、男子から借りることもあったという。夏のウィメンズカレッジセブンズには、日体大との合同チームで出場した。

熊谷は団体競技自体が初めてだったこともあり、当初は戸惑いばかりだったという。「陸上だったら決められたコースを走ればよかったけど、ラグビーは相手がいるし、まっすぐ走ってもダメだし……。ただただ、恐かったです。体を人にぶつけられるなんて、これまでにはなかったので」。元陸上部らしく、誰よりも速く走って当たりから逃げると決めた。

強豪高からも入部

18年度のメンバーは7人になり、女子ラグビー部用の用具もそろった。それでも試合形式での練習は、まだできない。大会前は男子部員が練習相手になってくれた。けが人などの影響もあって、7人そろっての試合は経験できていないが、夏のウィメンズカレッジセブンズではクラブチームの手も借り、八戸学院大チームとして出場。6位とまずまずの結果を残した。

いまの1年生にはラグビーの名門、大阪・追手門(おうてもん)学院高出身の山田優希美がいる。山田は当初、大学では養護教諭になる勉強に専念するため、ラグビーは高校までのつもりだった。しかし、高校最後の大会前にけがをし、最後になった試合には出場すらできなかった。ラグビーへの思いを断ち切れず、養護教諭の資格がとれて女子ラグビー部もある大学を探していたところ、八戸学院大に行き着いた。高校のときの練習環境には劣るが、いまはラグビーができる環境をまっすぐに楽しんでいる。初めて東北で迎える冬の寒さが心配だったが、メンバーとの寮生活は楽しく、充実した毎日を生きている。

追手門学院高出身の1年山田(右)には、エースとしての期待がかかる

チームの目標は2、3年以内に八戸学院大として女子7人制ラグビーの国内最高峰の大会である「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」に出場すること。熊谷は昨年、選抜チームで挑んだが、単独で舞台に立てる日を願い、練習に励んでいる。

そのためにはもっと部員が必要だ。新入生の勧誘でチームとして力を入れるのが、SNSを通じた情報発信。facebookでは、ラグビー女子“ラガール”の日常を伝えている。監督やコーチの誕生日には、部員が歌とプレゼントでお祝いするシーンもあった。「あったかいチームだってことが少しでも伝わってくれたらいいな。ラグビーはどんな人でもできると思うので、一人でも多く入ってくれるとうれしいです」。鈴木もそうアピールした。

工藤監督と山下コーチも「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」への出場を目指し、日々選手に向き合っているが、ふたりの思いはその先にもある。女子ラグビー部の現状を見ると、指導者は男子と兼任だったり、女子専属の指導者がいても男性ばかりだったりする。女子ラグビーの裾野を広げるためにも、女性の指導者がもっと増えないとダメだと考えている。「われわれとしては、ただ単に強くなってほしいのではなく、人としての成長を一番意識して指導してます。いまは選手としてしっかり技術を高めて、ゆくゆくは全国で指導者として活躍し、女子ラグビー全体が盛り上がってくれたらいいなと願ってます」と、工藤監督は話す。

女子ラグビー部は青森の企業・太子食品工業と連携協力協定を結ぶなど、地域に根付いたチームとして活動している

チームは歩み始めたばかりだが、「思い描いていた女子ラグビー部ができつつある」と山下コーチは言う。この冬で体をつくり、さらに力を蓄える。真っ白な状態で始まってから3年目に入ろうとするチームで、選手たちは明るく前だけを見ている。

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