陸上

和田正人「箱根はいまもつながってる」

日大時代、学生三大駅伝(出雲、全日本、箱根)をすべて走った俳優の和田正人さんに、2018年の全日本の前には「和田正人の駅伝観 全日本でやり残したこと」で、全日本への思いを語ってもらいました。今回は三大駅伝の中でも和田さんが最も思い入れのあるという箱根駅伝について語っていただきました。

母校に対する誇り

多くの人にとってそうであるように、和田正人にとっても「駅伝=箱根」だった。高知で生まれ育ったため、幼少期にそのほかの駅伝をテレビで見る機会がなかったことも関係していたそうだ。物心ついたときにはすでに、箱根は正月の風物詩として家のテレビにも映し出されており、和田正人も当たり前のように見ていた。険しい顔で駆ける選手たちと、彼らを応援する鈴なりの観客。「箱根ってすごいな」という思いが、幼い心に焼き付いた。

中学のときはソフトボール部だったが、俊足を見いだされて県の対抗駅伝に出場。駅伝の活躍をきっかけに高知工業高校へ推薦入学を果たし、全国高校駅伝を2度走った。このままいけば、自分も箱根を走れるかもしれない。実績を積んでいく中で、自然と箱根が大きな目標となった。そして日大から声がかかった。

大学の長距離選手は4月にトラックシーズンを迎え、7~8月は合宿、9月から箱根までが駅伝シーズン、さらにロードレースを重ねて来シーズンに備えるのが一般的だ。短距離選手だと年中リレーがあるが、長距離選手にとっては季節の限られた駅伝が唯一の団体競技となる。「不思議なもんですよ、長距離って。基本的に駅伝以外、チームメイトは全員ライバルなんですよ。だけど駅伝だけ一緒のチーム。同じ寮に暮らして一緒に飯食って練習して。その意味では仲間なんですけど、『こいつには負けたくない』っていう思いがあるんですよね」。そう話す和田正人に「大学駅伝とは? 」という問いを投げかけた。

「母校に対する誇りだと思う。ライバルと思いつつも、1本の襷(たすき)をみんなでつなぐ。個人の成績がよければ満足じゃなくて、チームの成績が悪かったらやっぱり悔しい。箱根だったら走るのは10人ですけど、でもそれだけじゃなくて、出られない選手もスタッフも、みんなの思いが一つになる。そんな思いが襷には詰まってると、僕は思う。襷をつないできた過去の先輩方の思いが、ずっと。そうした思いがあるから、駅伝への情熱が生まれるわけで。それは、僕は母校に対する思いだと感じてます。そういうのを感じられるのが、大学駅伝の醍醐味じゃないですかね」

手袋に励まされて

和田正人が箱根を走ったのは2年生の76回大会と4年生の第78回大会で、ともに9区。とくに4年のときはけがが長引き、練習を再開できたのが9月になってからだった。最後の箱根にかけるため、出雲と全日本は回避した。急遽、駅伝主将を引き受けたが、走れていない状況に焦りを感じ、チームに働きかける余裕がなかったという。むりやり調整して箱根に挑んだ。

取材の日、和田正人は当時の手袋を持ってきてくれた。その手袋には「オレは必ずやってやる!!」「中継所で待ってるぞ!!」などというメッセージが記されていた。箱根の直前、4年生が発起人になって出走者一人ひとりにメッセージを書くことにしたそうだ。「4年のときだけですね。自分の中で、仲間を意識しながら走ろうと思ったのかな。ちょっとおセンチですよね」と笑った。レース前は手袋を見直し、気合を入れ直したという。「くだらないことしか書いてないんですけど、見ていて顔が浮かんできましたね。このメンバーがここまで襷をつないでくれてるんだって。『よっしゃ、行ったろう! 』って。意外と心が動いたというか、これで苦しいときにも踏ん張れるかもしれないな、って」

和田正人の最後の箱根は区間5位だった。ラスト4kmで走り込み不足が響き、足が動かなくなった。「ガス欠になって、1分ぐらいロスしました。最終的には納得した走りじゃなかったですね」。箱根も含め、大学駅伝では華々しい大活躍ができなかったという。その年、日大は10位でシード権を逃した。

第74回大会の予選会から勝ち上がって以降、日大は連続してシード権を獲得していたため、和田正人は「信じられないことが起こった」と感じた。「最後の箱根で後輩たちに大きな置き土産をしてしまった。4年生としての責任は感じたかな。4年生だけの責任ではないですけど、でも最後の代で申し訳ない気持ちはありました。だから、その年の予選会には応援に行きましたよ。無事に通過してくれたからよかったですけど」。その第79回大会で、日大は3位に返り咲いた。

その後は日大の練習拠点が変わったこともあり、和田正人自身は現役生と直接の交流はないそうだが、俳優業を通じてほかの大学の選手や監督と触れ合う機会があるという。先日は青山学院大の原晋監督と対談した。今シーズンにコーチから監督になった明大の山本佑樹氏は日大時代の先輩ということもあり、和田正人もこっそり応援している。「箱根はいまもどこかでつながってるんですよ」。箱根にかけてきた男は、いまも箱根に魅せられている。

和田正人(わだ・まさと)

1979年8月生まれ。高知県出身。高知工高から日大を経てNEC。三大駅伝は、出雲2回、全日本2回、箱根2回出場。2013年、NHKの連続テレビ小説「ごちそうさん」で主人公の幼なじみを好演。今年の11月14日からは東京五輪で銅メダルを獲得した円谷幸吉とその4年後のメキシコ五輪で銀メダルを獲得した君原健二の物語をテーマにした舞台「光より前に~夜明けの走者たち~」に、円谷のコーチ役として出演した。ワタナベエンターテインメント所属。

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