全国に知らしめた駒大の底力
「天の時は地の利に如かず 地の利は人の輪に如かず」。駒大サッカー部を率いる秋田浩一監督は今シーズンのチームをこう表した。天が味方しても、地の利が味方しても、人の輪=チームワークには勝てない。駒大は決して一流選手は多くないが、仲間を信じて戦い続け、インカレ決勝までのぼりつめた。
「人とボールを動かす」
ロングボールを前線へ送り、FWがヘディングで競り合うのが駒大スタイルだ。しかし秋田監督は、昨シーズンから着実に戦術の「変革」を進めていた。ただ前線へ蹴り込むのではない「人とボールを動かす」をモットーに、ときにはショートパスを小気味よくつなぐ。シーズン開幕前には4年ぶりにトルコ・アンタルヤ遠征に出て、新スタイルを実戦から根付かせた。
今シーズンはテクニックのある選手たちに恵まれたことも、変革をスムーズにした。主将のMF大塲淳矢(4年、藤枝東)ら昨シーズンから主力として活躍してきたプレーヤーが、新たなサッカーにフィット。下級生にもDF星キョーワァン(3年、矢板中央)やMF薬真寺孝弥(2年、長崎総科大付)など、実力のある選手たちがそろっていた。
結果は春先からついてきた。天皇杯予選では明大を8年ぶりに撃破。その試合でもポゼッションで相手を上回り、これまで持ち味としてきたパワーだけではないサッカーを展開した。関東リーグ戦開幕後も勢いは続き、第2節から無失点での4連勝。一時は首位に立った。天皇杯予選では社会人チームとも対戦。決勝でJリーグ経験者をそろえた東京ユナイテッドFCを下し、東京王者として天皇杯へ乗り込んだ。
関東リーグ戦前期の終盤は、過密日程の影響もあってやや失速。秋田監督も「二兎を追うものは一兎も得ず」と振り返った一方で、「でも、そのおかげで何人かが強くなりました。負けが込んだ時期もあったけど、失敗ではなかったです」と、チームの確かな成長を実感していた。ほかの大学は経験しないような連戦を経て、選手たちは連戦へ耐性を身につけた。夏のアミノバイタルカップでは、身につけた体力と春先に得た自信をチームとして発揮し、3位という好成績を収めた。
上半期を通じてチームを牽引したのは、10番を背負う副将のMF中原輝(4年、ルーテル学院)だった。どんなときも走り負けない運動量と、左右両足で放つ高精度のキックを持ち味とするレフティーは、アミノバイタルカップの得点ランクでトップタイ。リーグ戦でもアシストを量産し、前半戦におけるチームの躍進を象徴する選手となった。
4年ぶりの全国大会で挫折と反骨心
アミノバイタルカップで大阪開催の総理大臣杯出場を決めた駒大は、チームとして4年ぶりの全国大会に出場。その結果はほろ苦いものとなった。初戦の仙台大戦は1-1から延長戦に突入し、ラストプレーでFW高橋潤哉(3年、山形ユース)が劇的な決勝点を奪って辛勝。関西第2代表の大体大戦は、中1日の過密日程で、前日には台風が直撃。試合は相手ペースにのまれ、1-2で後半アディショナルタイムへ。駒大はFW矢崎一輝(2年、駒大高)が放ったクロスがオウンゴールにつながって同点。2戦連続の延長戦に持ち込んだが、カウンターから決勝点を献上。ベスト8で幕を閉じた。
後期リーグ戦終盤には、MF坂本和雅(4年、聖和学園)と矢崎の活躍もあり、駒大は5戦4勝を挙げて軌道修正を果たした。坂本と矢崎は前期からチームの“切り札”として起用されてきたが、夏場からはスタミナを強化した坂本がスタメンに定着。後期のみで4ゴールを挙げ、チームの攻撃の屋台骨になった。“ジョーカー”としての起用が続いた矢崎も、一度投入されれば必ず得点に絡む好調ぶりを見せた。前期に得点を量産した中原と高橋がマークされる中で、選手層の厚さが結果につながった。
とくにリーグ最終節は、4年間勝てなかった筑波大に1-0で勝った。「(昨シーズン王者の)筑波には勝てないと思ってました」と話す選手もいた中で、駒大が真価を発揮した。Jリーグ内定者をそろえる相手に、守備陣は体を張ったプレーでゴールを割らせず、連動したプレスで封殺してみせた。
攻撃陣は徹底したサイド攻撃からチャンスを量産すると、FW室町仁紀(4年、東京Vユース)が挙げた虎の子の1点を守り抜いた。リーグの最終成績は勝ち点35で4位。金正也(ベガルタ仙台)や酒井隆介(町田ゼルビア)ら黄金世代の4年生を擁し、総理大臣杯で優勝した2010年以来、8年ぶりの好成績を収めた。インカレを夢見ていたチームは、今シーズン多くの経験を積む過程で、「日本一」を実現できる立場へ確かに進んでいた。
再びの全国、4年生の集大成
迎えたインカレは、ゴールラッシュで幕を開けた。桃山学院大を相手に、FW安藤翼(4年、長崎総科大付)が挙げた1年半ぶりのゴールを皮切りに一挙4得点。安藤は昨シーズンからレギュラーに定着しながら今シーズンは伸び悩み、最終盤にスタメンへ返り咲いていた。
3回戦はリーグ最終節と同じ筑波大と同じ会場で再戦。相手もコンディションを上げた状態で死闘となったが、坂本の2得点で振り切った。坂本が「4年生がみんなで力を合わせたのが結果に出た」と試合後に話したように、スタメンの4年生9人がそれぞれ力を発揮した。
アミノバイタルカップでの敗戦以降、「大体大と試合がしたい」と大塲を筆頭に闘志を燃やしていた駒大は、インカレ準決勝で大体大とのリベンジマッチを迎えた。序盤に安藤が先制パンチ。前半に追いつかれたが、後半に大塲のPK弾で勝ち越しに成功。関西王者に押し込まれる時間帯もあったが、勝利への執念を表に出した駒大がリベンジを果たした。
今シーズン38試合目となった決勝は法大が相手だった。この仲間と1試合でも多く、と誓い、チームスローガンである「一戦一勝」を1年間体現してきた。ご存じのように0-1で準優勝。秋田監督の胴上げは、来シーズンへ持ち越しとなった。日ごろから厳しい言葉をかけ続けた秋田監督も「一流選手がいない中、よく頑張った」と、ねぎらった。
チームの最大の武器は「チームワーク」と、選手たちは言う。各々が戦友たちとの出会いに感謝を表した。チームを牽引してきた大塲は「みんな自由奔放でまとまりもないし、みんな自分が好きなことをしてる学年だった。それでも、みんながチームのために働いてくれたし、チームへの熱い思いが僕たちをここまで連れてきてくれたと思うので、4年間一緒に戦ってくれて『ありがとう』という感謝の気持ちがあります」。素直な気持ちを口にした。
4年生の引退で駒大は主力がごっそりと抜ける。新主将の星は、この1年間チームを支え続け、インカレでは最優秀DFに輝いた選手だ。インカレ決勝の試合後には誰よりも涙を流し、4年生を日本一に導けなかった悔しさは人一倍大きかったはずだ。星はもちろん、インカレで全試合先発出場を果たしたDF桧山悠也(1年、市船橋)は来シーズンも核になる。攻撃陣は高橋、薬真寺、矢崎やMF荒木駿太(1年、長崎総科大付)ら今シーズンのチームを支えてきたタレントも少なくない。最後は信頼の厚い4年生を多く起用したが、今シーズンを語る上で下級生の活躍もチームの力となった。
また来シーズンから、フロントに駒大の全盛期を支えた伝説的OBが加わる予定だ。秋田監督は「僕がやれるのもそんなに長くない」とここ2年連続で話しており、変革はさらに加速していくだろう。平成最後に見た景色を来年はさらに高い場所で見るために、駒大サッカー部にも新たな時代が到来する。