アイスホッケー

日本のアイスホッケーを変える 東京ブルーズの船出

普段は違うユニフォームを着る大学生たちが、「東京ブルーズ」のもとで一つになった

東京ブルーズ創設記念ゲーム

2月16日@東京・ダイドードリンコアイスアリーナ
東京ブルーナイツ 6-3 電通

アイスホッケーの関東大学リーグの学生で構成した「東京ブルーナイツ(略称・東京ブルーズ)」は2月16日、東京都西東京市のダイドードリンコアイスアリーナで、初の対外試合に臨んだ。入場者は762人。多いのか少ないのかは何とも言えないが、いまのチームの求心力を示す等身大の数値であり、今後の物差しになる数字と解釈している。

大学生の強化・普及が最善策

私は昨年まで雑誌編集者としてウィンタースポーツを担当していた。低迷が続く日本の男子アイスホッケーが浮上するには大学生を軸に強化・普及を図るのが最善と考え、会社を退いてこのチームの発足に携わってきた。日本のエリートプレーヤーが集まる関東大学リーグの選手を「技術」「学業との両立」「人間性」の3点で選抜し、所属大学での試合と並行して活動していく。2009年に西武が廃部して以降、トップチームが不在のままの東京において、再び熱を呼び起こしたいという狙いもあった。各大学の監督との協議で、とくに重点を置いたのが「人間性」だった。ひとりの人間として応援してもらえる選手を世に送り出すことが、競技の未来をつくっていくと考えたからだ。

関東リーグの1部は14校で構成され、上位8校がA、それに次ぐ6校がBにカテゴライズされる。創設試合の会場を確保したのは昨年11月中旬。それと同時に、1部14大学へのアナウンスがスタートした。各校の監督には以前から構想を伝えてあったので、それなりにいい感触を得ていたのだが、ことは容易には運ばなかった。結局、参加を表明した大学は11校。その後、けがなどで3校の選手が参加せず、最終的に2月16日の試合に携わったのは裏方を含めて8校からの計19人だった。

「働きながら競技を続ける選手たちから何かを学んでほしい」との思いから、対戦相手は社会人チームの電通に決まった

対戦チームは社会人の強豪・電通。メンバーには元トップリーガーもいて、本当に苦しめられた。最終的には6-3のスコアで逃げ切ることができたが、第2ピリオド終了時点では2-3とリードを奪われた。パックを懸命に追い、一つの得点を全員で喜ぶ社会人の姿に、学生も大きな刺激を受けたはずだ。

トップ選手ならではの失望

ブルーズとしての練習、試合以外にもミーティングや座学の時間をとった。「学生の立場で日本のアイスホッケーを上昇させるには」をテーマにした意見交換会では、「たくさんの人に見てもらえる競技にしたい」と、選手が真剣に考えているのが分かった。日本一ハイレベルな関東リーグの、しかも各大学の主力でもある彼らがチームの枠を超えて考えを明かし合ったのは、意義があったと思っている。

その席で「オレたちが何をやっても変わらない」と言った選手がいた。ブルーズのキャプテンであり、現役の日本代表DFでもある蓑島圭悟(中大4年、白樺学園)だ。蓑島は高校を出てすぐに代表に入り、同年代の選手よりも多くの経験を積んできた。他の選手が見ることのできない景色を見てきた分、失望感も大きかったのだろう。

蓑島(奥中央)はこの日、気持ちのこもったプレーを見せた

蓑島はこの4年間、2部以下の大学の練習にも積極的に参加し、SNSを通じて彼なりのメッセージをファンに伝えてきた。にもかかわらず、アイスホッケーの低迷に歯止めがかからない。「何をやっても変わらない」という言葉は、蓑島がアイスホッケーを変えようと真剣に取り組んできたからこその失望の表れでもあった。

変えたいなら、自分たちが変わらないと

意見交換会を締めくくるにあたり、私が選手たちに告げたのは「日本のアイスホッケーを変えるのは君たちだ」ということだった。いまのアイスホッケー界は、競技の地位を自ら引き上げるだけのエネルギーを持っていない。となれば競技の「外」にいる人たちの力を借りなければならないのだが、キーとなるのは「力を貸してあげたい」と思われる人間かどうか、「アイスホッケーのことはよく分からないけど、あの学生は素晴らしい」と思ってもらえる人間であるかどうかだ。アイスホッケーの世界では長らく「技術=選手の評価」だったが、人気競技はそうではない。選手は技量に加え、ロールモデルとしての資質の有無が問われる。ブルーズの結成に伴い、各大学に「人として周囲から尊敬されている選手を」とお願いした理由はそこにあった。

「日本のアイスホッケー界と、日本の社会。大きいのはどっちだ。もし君たちが本気で日本のアイスホッケーを変えたいと思ってるなら、社会全体から愛される人間になろう。たくさんの人に味方になってもらえたら、その人たちの力で日本のアイスホッケーは必ず変わるよ」。ついつい私も青くさい話をしてしまったのだが、ブルーズの「ブルー」には青く未成熟ながら大きく羽ばたきたいという願いもこもっているので、お許し願いたい。

実際、それ以降、選手の意識は少しずつ変わっていった。「みんなでSNSで試合の情報を拡散しよう」「試合当日は正装で会場入りしないか?」「お客さんを楽しませるために選手のリクエスト曲に乗せて写真を紹介しましょう」。そんな選手自身の前向きな言葉がチームのLINEグループに飛び交った。彼らの熱が伝わったのか、西東京市近郊のラジオ、テレビが番組で取り上げてくれ、地元の商店街も試合の告知ポスターを掲示してくれた。

試合の合間に動画には選手たちが登場。照れながらの拍手がほほえましかった

迎えた2月16日。「今日のお客さんの雰囲気、いつものリーグ戦とは違いますね」と言ったのは蓑島だった。第1ピリオド、蓑島はパックをキープしながら体を反転させて相手をかわす「スピナラマ」という技を披露。「オレたちが何をやってもアイスホッケー界は変わらない」と言っていた彼が、来てくれた人への歓迎の気持ちをこめたのだ。確かにこの日の観客は、普段はアイスホッケーを見ない人、初めてアイスホッケーを見る人が多かったように感じられた。一本のシュート、一つのハードヒットでどよめき、驚きの声が挙がる。普段の「シーン」とした会場に慣れている身としては、とても新鮮だった。

その気になった学生は目に見えて変わる

冒頭にも記したように、観客数は762人。学生と社会人のエキシビションマッチとしてはまずまずだが、この数字をもっと伸ばしていかないといけない。現在は、ほぼ私費での運営だが、注目度を上げていけば体制がより整えられ、選手をいい環境でプレーさせられる。

もう一つ必要だと感じるのが、学生に対して体ごと飛び込んでいける大人の存在だ。学生が「こういう企画をやりたい」と思っても、過不足なくそれを実現できる人はまずいない。学生は人生経験、仕事の経験が少ないから当然なのだが、学生が100のうち60しか持ち得ていないのであれば、残りの40を大人が補完する必要がある。そうやって成功体験を積ませて「次は自分でやってみよう」と段階を踏ませるのが理想なのだが、いかんせん学生と向き合う大人の数が足りない。そのあたりは今後、地元のみなさんの力をお借りできればと考えている。

試合を終え、お互いの健闘をたたえる選手たち。東京ブルーズはここから羽ばたいていく

蓑島は試合後、自身のSNSで「0を1にする組織に関わることができてうれしかった。選手たちはアイスホッケーの面白さや楽しさを体現していかなければならないし、僕にはその責任があると感じています」とつづった。大学生アスリートは高校生と違い、そうだと思わなければ口答えをするし、自分の意思を表に出す。その一方で「本当にそうだな」「やってみよう」と思ったら、自ら行動し、どんどん成長していく。誇張ではなく、本当に目に見えて変わっていくのだ。それを私自身、今回の経験で学ぶことができたのは収穫だった。学生の変化と成長を、これからにどうつなげていくか。それは学生というより、むしろ彼らの周りにいる私たち大人の仕事なのだと思っている。

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