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特集:東京オリンピック・パラリンピック

戸邉直人は究極の文武両道男、筑波大で博士論文提出直後に2m35の日本新

公開練習で2m20をクリアする戸邉

陸上男子走り高跳びの戸邉直人(つくばツインピークス)が絶好調だ。2月2日にドイツのカールスルーエで開催された世界室内ツアー第2戦で2m35を跳び、13年ぶりに日本記録を2cm更新して優勝。9日にスロバキアであった競技会では2m33、16日のツアー第5戦(イギリス・バーミンガム)では2m29、20日のツアー最終戦(ドイツ・デュッセルドルフ)も2m34でそれぞれ制し、ツアー総合優勝をなしとげた。

日本新記録を出す1週間前まで、戸邉は筑波大学の大学院生として博士論文の最終審査を受けていた。27日に東京都北区のナショナルトレーニングセンターであった公開練習では「どちらにもいい影響を及ぼしながら、どちらも結果を出せました」と、究極の文武両道を満足げに振り返った。

帰国後初練習は寒い屋外でも2m20

戸邉は23日にヨーロッパ転戦から帰国し、この日の公開練習がツアー最終戦以来の跳躍だった。最初は踏み切りの位置が定まらなかったが、跳びながら調整を繰り返した。戸邉は練習中に映像を撮らないタイプだ。「試合になると、自分の判断でどうするかを決めないといけないので」と戸邉。今回のヨーロッパ遠征でも、後半の2試合は日本代表チームのコーチも不在で、ひとりっきりで試合に臨んだ。自分の感性でどう跳躍を修正するか。大学生になってから単身でヨーロッパを転戦してきた男ならではのスタイルだろう。

戸邉は試合中、自分の感覚だけを信じる

「今日は本数は飛ばないですよ」。戸邉は公開練習前にそう話していたが、最初に1m90だったバーは最終的に2m20まで上がった。報道陣に囲まれての練習に緊張したようだが、「跳んでたら楽しくなって、いっぱい跳んじゃいました。試合でも大勢の方にこんなに近くで見ていただくことはないので。いい緊張感の中でいい練習ができました」。練習では2m28がベストの戸邉にとって、寒い屋外での2m20の成功は上々の結果だった。「今日は10度あるかないかぐらい。あと10度ぐらい気温が上がってくれたらパフォーマンスも10cm近く上がると思います。内容的にはすごくよかったです」。嫌でも春からの新シーズンへ期待が高まる。

世界のトップに立つために大学院へ

戸邉は筑波大での4years.のあと、そのまま大学院に進んで修士で2年、さらに博士で3年。筑波大で計9年間をすごした。4年生になるまでは、大学院に進んで博士号をとるなどとは夢にも思わなかったという。

2010年、大学1年のときに世界ジュニア選手権で銅メダル。2年生の日本選手権で初優勝。世界が具体的に見えてくるか、こないかぐらいのところまでは来たという思いがあった。ただ、そこから本当に世界のトップにいくためには何が必要かを考えると、答えが見つからなかった。その答えを研究する必要性を強く感じ、大学院進学を決めた。

公開練習のあと、「温かかったらもっといけた」と戸邉

専攻は走り高跳びのコーチング学。「研究にはかなり時間を使います。競技に支障が出ることもありました」と戸邉。勉強と競技の両立は難しかったが、研究と実践が互いにいい影響を及ぼしていることは実感していた。

今年の1月末には博士論文の最終審査があった。審査前は論文作成の最終過程で忙殺され、競技のことはあまり考えられなかったという。論文が無事に受理され、開放感の中でヨーロッパに遠征。その初戦で日本新記録をたたき出した。「この状況でどこまでできるのかなぁという確認の意味が強かったです。気づいたら日本新記録までいってしまったという感じです」。戸邉は淡々と語った。

転戦で勝ち続けた「ワールドリーダー」として戦う中で、観衆から注目されているのは肌で感じた。最初はプレッシャーにも感じられたが、戸邉はそのプレッシャーもエネルギーにした。「ツアー最終戦は2m20を2回落としてしまうという難しい展開になりましたけど、『ワールドリーダーとしてここでは終われないだろう』と思って、モチベーションに変えられました」。この試合は3回目で2m20をクリアし、2m34は1回目でクリア。ツアー総合優勝を決めた。

「ワールドリーダーとして負けられない」。その思いがエネルギーになった

戸邉は4月からJALに入社したあとも、いままで通り筑波大を拠点にしてトレーニングに取り組む。目標は2m40だ。この秋にあるドーハ世界選手権では金メダルを狙う。その先には来年の東京オリンピックを見すえる。「出場できれば初めてのオリンピック。東京のオリンピックはほかのどこでやるオリンピックとも違う特別な大会になると思いますし、競技者としてひとつの集大成として迎えられるように、しっかり準備していきたいです」

一躍金メダル候補にのし上がった身長194cmの細身に、これからもっと大きな注目が集まることだろう。それをモチベーションに転嫁して、戸邉は跳ぶ。

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