魂を書く 関西大・松山奈央【わっしょい新編集長】
いちばん印象的な試合を問われれば、昨年5月の準硬式野球部の4年生が引退した試合を挙げる。全国出場をかけたトーナメント大会で、9回1失点の熱投を披露したのは、1年間チームを率いてきた主将。しかし結果は、0-1で完封負け。みんな目を真っ赤に腫らした涙の引退試合だったのに、空は清々しいほど晴れ渡っていた。
印象的だったのは、試合後のスタンドで、魂がどこかへいってしまったかのようにぼーっとどこかを見つめる一人の選手の横顔。「撮らなきゃ」。無心でシャッターを切った。最後のインタビューを済ませ、部室に帰ってその日の写真を見返すと、涙が止まらなかった。心に穴があいたような気がした。それと同時に、引退した4年生が後輩に託したものを見届けようと思った。そしてその数日後、どこかを見つめていたその選手が、新キャプテンに就任した。
何かを目指して一生懸命になれる人は、最高にかっこいい。私がカメラを向けるのは、誰より真剣でひたむきな表情だ。記事に残すのは、その一戦にすべてを捧げてきた選手たちの魂だ。誰より近くでその姿を見ているのは、彼ら彼女らの表情や魂を、ほかの人に伝えたいからだ。
私たちは選手がホームランを打っても、喜びで跳ね回ることはない。選手がゴールを決めても、仲間と抱き合うことはない。喜びや悔しさの涙を、袖で拭うことはない。その瞬間を収めるため、シャッターを切り続ける。文字に起こすために、情景や人々の表情を目に焼きつける。一緒に喜んだり、泣いたり、騒ぎたい気持ちをグッと抑えこむ。
カンスポに入部してから、がむしゃらに走り続けてきた。ぽっと出の私が、勝手に試合に行き、好きに写真を撮って記事を書く。「誰のためにやってるんだろう」。目まぐるしい毎日の中で何度もそう思った。そんな気持ちを振り払おうと、また無我夢中で走り出した。試合に足を運ぶと、だんだんみんなが顔や名前を覚えてくれる。いつしか私の呼び名は“カンスポさん”から“奈央ちゃん”になった。一つひとつの小さなよろこびが、エネルギーになっていた。
私たちが取り上げるのは、試合中の様子や結果だけではない。全員にそれまでのストーリーや思いがあり、何かを抱えて競技に打ちこんでいる。その何かを拾い、言葉にするのがカンスポとしての役目だと思っている。「自分たちはいなくてもいい存在」。先輩の言葉をたまに思い出す。いなくても試合は成り立つし、誰かが困ることはない。そんな私たちが必要とされるにはどうすればいいのだろうか。学生新聞にしかできないこととは何か。正直、その答えは見つかっていない。それでも、「取材してくれてありがとう」という選手やスタッフの言葉に何度も救われてきた。必要としてくれる人は確かにいる。
アイススケート部の宮原知子選手(3年、関大)の大学ラストイヤー。ガンバ大阪加入が内定しているサッカー部の黒川圭介選手(3年、大阪桐蔭)の活躍。バレーボール部女子の春リーグ連覇への道。神宮出場をかけた野球部の戦い。テニス部の王座優勝の夢。挙げればきりがないほど、今年もたくさんの感動の瞬間が待っている。後輩には、心から「KAISERS」を愛し、全力で追いかけてほしい。3年生で引退となるカンスポで、私の学生記者としての終わりは近づいてきている。寂しがっている暇はない。
大学スポーツの魅力を伝えるため、きょうもカンスポは走り回る。