陸上・駅伝

棒高跳びの日大・江島、あこがれの澤野先輩とかなえる東京五輪出場

5m61の3本目。江島にとって、この日一番の跳躍だった

第53回織田幹雄記念国際 男子グランプリ棒高跳び

4月28日@エディオンスタジアム広島
2位 江島雅紀(日大3年) 5m51

棒高跳びの江島雅紀(日大3年、荏田)は、アジア選手権で6位(5m51)だった。その1週間後、江島は織田記念に出た。山本聖途(トヨタ自動車)との一騎打ち。山本が5m61を2本目でクリアしたあと、江島の3本目。体は完全にバーを越えていたが、どこかが一瞬触れたのだろう、バーは落下。5m51で2位だった。

「今年は最低でも50は跳ぶって決めてたので、最低限のノルマはクリアできてよかったです。でも、最後の61は跳んでおかないといけなかった。僕も大学3年生になって、もうチヤホヤされる年でもなくて、71(世界選手権の参加標準記録)とか76(学生新記録)とかを跳ぶ選手にならないと。『オリンピックで金メダル』ってのを口だけじゃなくて、結果で示さないと」。自分を責める言葉が、江島の口をついて出た。

この3月に20歳になった江島は、今年にかけている。あこがれてやまない澤野大地(38、富士通)と一緒にかなえたい夢があるからだ。「東京オリンピックという最高の舞台で、日本代表として一緒に戦えたら、もう死んでもいいぐらい」。江島はそう言って、大きく笑った。

日大で澤野の授業を受け、競技を学ぶ

江島は兄の影響で陸上に興味を持ち、兄にならって中学生のときから棒高跳びを始めた。神奈川県立荏田高校3年生のとき、5m43の高校新記録でインターハイを制覇。国体、日本ジュニア(現U20日本選手権)で高校3冠を達成。国体では5m46を跳び、自身の高校記録を更新した。さらにフィンランドで開催された棒高跳びカーニバル(室内)では5m50をマークした。

澤野と同じ日大ユニフォームをまとい、澤野に学ぶ

2017年に日大へ進んだあとも自己記録を伸ばしてきた。1年生のときに挑んだアジア選手権(インド・ブバネシュワール)では5m65で銀メダルを獲得。この記録は現在もU20の日本記録だ。江島は高校まで横浜の棒高跳びクラブ「YPVC」を拠点に練習していたが、日大に入ってからは大学で練習しており、陸上部の跳躍コーチでもある澤野の指導を受けてきた。澤野は日大では専任講師としてスポーツ科学部で授業を持っており、江島も澤野の授業を受けている。

選手としてはすっかりベテランとなった澤野は、織田記念で江島と一緒に跳んだ。当日は気温が低く、体を気遣いながらの跳躍となった。澤野は5m31を2回目でクリア。5m41の3本目をパスし、5m51の1本目を失敗して競技終了。その後は江島の跳躍を見守り、江島が跳ぶたびにアドバイスを送っていた。

江島の5m61の3本目。惜しくも落としてはしまったが、江島自身も思い描いていた跳躍ができたという確信があった。この失敗のあと、江島は澤野から「あとはもういけるよ」と声をかけてもらったという。「日本記録保持者は肝がすわってるな」。江島は澤野について、改めてそう思ったそうだ。

最後の跳躍を終えた江島に、澤野(左)が声をかける

同期の橋岡の活躍も励み

思えば、江島の大学デビュー戦は織田記念だった。当日は風が強く、5m20から始めた江島は3本とも失敗。記録なしで終わった。「でも今日は風がすごくよくて、マックスポールも使えました。もうちょい早く61の3本目の動作ができてたら、51も1本目で跳べてたはず。世界大会では試技数差が順位に関わってきます。この前のアジア選手権も51を1回目で跳べたから6位に入れました。そういった意味では、まだまだ甘いです」

江島は「今日は75点」と自己採点。ただ、自分で成長を感じられるところもあったという。

「51を3本目で飛べたのはすごくデカくて。アジア選手権後ということもあって、いつもだったら心のどこかに『今日は跳べなくてもしょうがない』ってのがあっただろうけど、今日は『やっぱり勝ちたい』と思えたから跳べたんだと思います。もう71が跳べる試合は限られてるので、そういった意味では惜しかったです」

アジア選手権では、日大の同期である走り幅跳びの橋岡優輝(八王子)が日本歴代2位の8m22で金メダルに輝いた。「橋岡に先を越されたくないんで。一緒にやってるけど、そこだけはライバルですから。61はもう跳べる。次のGGP(ゴールデングランプリ)では71を絶対跳ぶ」。同期の活躍に刺激を受け、江島はさらなる高みを目指す。

教え子が束になり、師を倒す

江島にとって棒高跳びを始めるきっかけは兄だったが、あこがれの対象は澤野だった。ずっとあこがれて、ここまでやってきた。澤野の授業で学び、競技の指導を受け、一緒に跳べる毎日がうれしくてたまらない。改めて、江島にとって澤野はどんな存在なのかと尋ねた。

「一番はあこがれ。あらゆるスポーツ選手の中で、一番のあこがれです。私生活でも学校生活でもいろんなことを澤野さんから学んでて、人としても自分が成長できる環境にいることができてます。誰より世界を経験をしてるのが澤野さんなので、自分から率先して澤野さんに聞いてきました。澤野さんは選手であり、コーチであり、先生でもある。僕が勝っていかないと引退してくれないので、澤先輩(慎吾、日大~きらぼし銀行)とか僕のような教え子が一緒になって、澤野さんを倒していきたい」

「澤野さんと跳べて、今日もうれしかったです」と江島

6月の日本選手権で江島が狙うのは5m71、そしてその上をいく記録だ。人生の師である澤野が05年の静岡国際で樹立した日本記録の5m83も、20歳の目には映っているのだろう。取材の最後に、江島はこうも話してくれた。「2年前に65を跳べてた、すごく棒高跳びを楽しんでた時期の感覚が戻りつつあります。今日は笑顔で取材に答えられたのでよかったです」。師とともに世界最高の舞台を夢見て、江島は跳ぶ。

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