社会人1年生・塩尻和也、「次こそは」「次こそは」を積み重ねて
順天堂大学時代にリオデジャネイロ・オリンピックに出た塩尻和也が、社会人になって3度目の3000m障害に臨んだ。秋の世界選手権参加標準記録の8分29秒00を切りにいったが、届かなかった。「完全な失敗レースです」。塩尻はそう振り返った。
目標はただ一つ、8分29秒を切る
レース直前の選手紹介のとき、塩尻は笑っていた。とてもこれから3000m障害という過酷なレースに臨む選手とは思えない、柔らかな笑みだった。5月4日の「ゴールデンゲームズのべおか」で5000mの自己ベストを更新する13分30秒94をマーク。いい流れで長居へやってきていた。
出場14人中9人が海外勢。塩尻はこのレースに明確な目標があった。秋の世界選手権の参加標準記録8分29秒00を切ることだ。だから2周目に入るところで先頭に立った。「展開がどうなるか分からないし、あのままずっとついていってタイムが切れるのかも分からない。それなら自分の慣れてるスタイルでいった方がいいと思って、前に出ました」
残り3周に入って、海外勢が攻めてきた。塩尻は踏ん張れない。一気に後退。結局、海外勢7人に次ぐ8位でゴールした。目標タイムには、約4秒届かなかった。「途中から前には出たんですけど、後半は前と差を開けられてしまいまってフィニッシュとなりました。そう考えると、今回は完全に失敗レースとなってしまったかなと思います」。前髪から汗が垂れ落ちた。ひょうひょうとした感じで鋭い言葉を発するから、聞いている側は、少しドキッとさせられる。
一発で決めるレースを追い求めて
社会人になって3本目の3障のレースで、前回とほぼ同じタイムだったのが我慢ならないようだった。「これまでの2本よりはレースに慣れてきてるはずだから、それよりは出せるかなというのがありました。でも前回と同じようなタイムでした。シーズン3本目ということを考えると、前の2本を生かせてなかったです」。自分を責める言葉が続いた。
「8分30秒台で3本走れてるので、平均タイムはそんなに悪くないんですけど、1本タイムを狙いにいくというレースができてないです。次のチャンスには、一発決めるっていうレースができればと思います」。また、ひょうひょうと鋭い言葉を出してきた。
彼を取り囲んでいた一人のベテラン記者が尋ねた。「一発決める自信はありますか」と。塩尻は言った。「今回目標タイムを切るつもりで来たのに切れなかったから、不安なところはあります。でも、世界選手権に出るためには切らないといけない。そこは」。ここまで言って、しばらく考えた。「切らなきゃというより、もう終わってしまったことなので、チャンスがあるうちは切り替えて、『次こそは』というのがありますね」
思えば「次こそは」の繰り返しで今年1月2日、箱根駅伝2区の区間日本選手最高記録を塗り替えた。社会人になって、これからどんな偉業をなしとげてくれるのか。そしてどんな印象的な言葉を口にしてくれるのか。場にそぐわない柔和な笑みを見せてくれるのか。
塩尻和也から目が離せない。