「いいところがひとつもなかった」東海大・阪口、試練のセイコーGGP大阪
セイコーゴールデングランプリ大阪の男子3000m障害決勝に、ただ一人の大学生として出場した東海大学4年の阪口竜平は最下位に終わった。自己ベストから約19秒も遅いタイムで、「いいところがひとつもなかった」と振り返った。
前に出られず、苦しい展開に
スタートしてすぐ集団の後方につけた阪口。海外勢と塩尻和也(富士通)が争うように障害を越えていく中、なかなか前に出られない。周回を重ねるごとに後退し、最後の1周は常に苦しそうな表情に。ゴール後はしばらくうずくまり、立ち上がれなかった。
ハードリングにも、走りにも、4月の兵庫リレーカーニバルの同種目で優勝した時のような軽やかさ、勢いがないように感じられた。だからレース後まず、調子がよくなかったのかと尋ねた。「レースが終わってから調子どうこう言うのはなんとも……。でも、調子は悪くなかったです」。では、何が起こったのだろう。「コーチからはあまり目立たず、塩尻さんを徹底的にマークしろと言われてました。でも自分的には先頭集団を引っ張るぐらい、積極的に前の方でいくつもりだったんですけど、うまく前に出られなかったです。1台目のハードルを跳んだときに前の選手と当たって、『危ないな』と思っちゃって。先頭集団が横長になってて、抜くのにはさらに外側にいかないといけなくて、だったら後ろのほうがいいかなと思ってたら、前がだんだん離れてしまって……。変に考えすぎて、力を使ってしまいました」
すべてが少しずつ狂った
阪口は昨年7月のレースで水濠を跳んだ際に骨折。この4月、3障への復帰レースでは水濠への恐怖感が「まだある」と言っていたが、今回もまだ払拭しきれていなかったという。「水濠に限らず、今日は全体的に足が合わなくて、毎回失速して障害を跳んでました。本来なら勢いよく跳ばないといけないんですけど。あと、水濠に関しては普段練習する場所がなくて、ぶっつけ本番なんです。跳んでみないとわからないって感じで……」。少しずつ歯車が狂い、思うようなレースが展開できなかった。
これが大事なレースだと位置づけていた。だからこそ、万全の状態で臨みたかった。それが裏目に出てしまったという。「この1カ月調整、調整と思って、走行距離も落として。いま思い返すと、やるべきトレーニングがしっかりできてなくて……。悪い意味で疲労感がない状態で臨んでしまいました」
3障が、一番世界を狙える
今回は世界トップレベルの選手とのレースになったが、身長の高い選手が多かったことも、前に出られなかった要因の一つになったという。それと、自分の弱点が改めて明確になった。集団の後ろのほうについたときのレース展開が下手、ということだ。「今回いつもと違う大会で走って、経験できたのはよかったです」。そして急に言った。「可能性はあると思うんです。学生記録の8分25秒を切れるだけの力はあると思ってます。そこを経て、日本記録までいけると思ってるんです」。阪口の話を聞いていると、「自分は強い」「絶対にやれる」という確固たる意思が伝わってきて、ドキッとさせられる瞬間がある。最下位で終わったこの日のレース後でさえ、同じことを感じた。
「3障って、走るたびに難しさを感じます。走る以外に技術的な要素も入ってきて、いろいろ考える競技なんだな、と。5000mや10000mは、結局は走力の差で決まると思うんですけど、今回のレースでも、トップ選手のハードリングが下手だったりした。だからこそ3障って、一番世界を狙える競技だと思ってるんです。僕はもっとこれを極めていきたい」
「日本選手権を楽しみにしててください」
次は6月末の日本選手権、そして7月のユニバーシアード。「3000m障害で東京オリンピックに出る」という目標を達成するには、やはり、この種目の第一人者である塩尻を倒さないといけない。
「今後はもう少し走り込んで、もっともっと仕上げていけば、日本選手権には間に合うと思います。根本的な走力の差もあるんですけど、塩尻さんも8分30秒前後で足踏みしているので」と言ったあと、言葉にはしなかったが、阪口はこう言いたかったのではないかと思う。「自分がハードリングを極められれば、もっとやれる。塩尻さんにも勝てる」と。これは、はっきりと言った。「だから、日本選手権はいけます」
自己ベストは塩尻から8秒ほど遅くても、今回のレースでまったく太刀打ちできなかったとしても、それでも「やれる」と言う。彼には、私たちとは少し違う景色が見えているのかもしれない。
最後にもう一度、阪口は少し笑って言った。
「日本選手権、楽しみにしててください」
福岡で、私たちはまた、強気で走る阪口を見られることだろう。