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特集:第103回日本陸上競技選手権

日大・江島雅紀 両親の励ましに応えて日本選手権初V、澤野大地へも恩返し

江島(左)がクリアすると、澤野がグータッチで祝福した

第103回日本陸上競技選手権第3日

6月29日@福岡・博多の森陸上競技場
男子棒高跳び決勝
1位 江島雅紀(日大3年) 5m61
2位 澤野大地(富士通) 5m51

男子棒高跳び決勝には、5m60以上の自己記録を持つ選手が7人もいた。その中でも澤野大地(日大~富士通)と江島雅紀(日大3年、荏田)の師弟対決が一つの注目だった。澤野が初めて日本選手権を制したのは、日大1年生で臨んだ1999年大会。当時の江島は、生後約7カ月の赤ちゃんだった。「お互いいい状態で戦えるのは初めてだよな? 」と澤野が言うと、江島がうなずく。本気の師弟対決は江島が制した。勝って泣く教え子を、澤野が笑顔でたたえた。

棒高跳びの日大・江島が関東インカレ大会新、5m80にも自信

恩師に励まされ、恩師と決めたワンツー

ふたりとも狙いは世界選手権参加標準記録の5m71だった。ときおり雨の降る中、江島はまず5m21を1回目に跳び、5m31をパスして5m41に臨んだ。澤野はその5m41から跳躍を始め、1回目でクリア。しかし江島は2回とも落としてしまった。「5m41は毎回苦戦するんです。40という高さに嫌われてるんじゃないですか? 」と江島。試技が始まる前の跳躍練習では、一度も踏み切れなかった。さらに左手をやけどしてしまい、焦りが増した。

「僕の中で棒高跳びと踏み切りは別なんです」と江島。大学に上がって技術面が高まった分、踏み切って跳ぶことへの恐怖心が増してしまったという。そんな江島に澤野は「いつどんな状態でも自分が跳びたいか跳びたくないか。けがじゃなくて、自分の気持ちの面だよ」と声をかけた。

試技順が先だった澤野は、江島の前に5m51を越えてきた

その言葉が江島に響いた。5m41を3本目に跳ぶと、そばで見ていた澤野と笑顔のグータッチ。5m51は澤野に続いて江島も2回目でクリアした。優勝候補筆頭に挙げられていた山本聖途(中京大~トヨタ自動車)は3回目で跳んだ。そしてバーは5m61に上がった。江島は2回目でクリア。この高さをノータッチでクリアしたのは人生初だったという。「すごい気持ちよかった。マットに落ちるまで時間もいつもより長く感じられて、(マットにたまった雨による)水しぶきがすごかった。落ちるまでも楽しかったです」。空中にいる間から、大きなガッツポーズで喜びを表現した。

澤野は5m61の2回目も落とすと、3回目をパスして5m71に挑んだ。しかしバーが胸に当たり、澤野の跳躍は終わった。この時点で江島の初優勝が決まった。あとは狙っていた5m71への挑戦のみ。「5m61を跳んだ感じでいけば跳べる」。そう意識して臨んだが、3回とも失敗。5m71への挑戦は、イタリア・ナポリで開催されるユニバーシアードに持ち越しとなった。

江島は初めて、5m61をノータッチで跳んだ

江島のこれまでの日本選手権の成績は2017年が2位、18年が3位だった。5月の関東インカレの際には「3年間で(日本選手権の)金銀銅をそろえられたら」と話していた。やっと頂点に立てた喜びから、涙があふれた。「本当は5m71跳んで優勝したら泣こうと思ってたんですけど……」。そう話す江島に澤野が寄り添い、言葉をかけていた。競技を終えた澤野はこう話した。「今日は負けてしまいましたけど、教え子が勝ってくれたことはすごくうれしいです。ワンツーをとれたことも。こうやって切磋琢磨(せっさたくま)しながらいろんなことを彼に伝えていって、日本の棒高跳び界をふたりで引っ張っていけたらと思ってます」

両親のサプライズに「絶対に今日は優勝する」

競技を終えた江島に涙のわけを聞いた。「澤野選手に勝てたことや、その澤野選手への恩返しも一番なんですけど、今日、急に芽生えたのはお父さんとお母さんへの感謝の気持ちです」

初優勝に涙する江島(左)に澤野が寄り添った

神奈川県に住む江島の両親が試合に駆けつけてくれたことは過去にもあったが、それらはすべて車を運転してやって来た。岩手や岡山にも車で来てくれた。しかし今回は福岡。「行けないけど頑張って」と、母からLINEをもらっていた。しかし試合当日の朝、「いま福岡に着いたよ」という母からのLINEで目覚め、江島はびっくりしたという。「お母さんは冗談が好きだから、今回も冗談かなって思ってたんですけど、スタンドを見たら本当にいて……」。飛行機で駆けつけ「やってこい。雅紀なら大丈夫。最高の自慢の息子だから」との激励メッセージをくれたそうだ。

「いまは離ればなれになったんですけど、家族は僕にとって競技とか友だちとかよりもすごい大切で。国内は車でしか遠征したことがないのに、自分たちで飛行機をとって来てくれたことがなによりうれしくて、絶対に今日は優勝してやろうと思ってました」

そう話す江島の目には涙が浮かんでいた。優勝で贈呈された花束は母にプレゼントした。「これで親孝行はできたかな。でも日本新記録というプレゼントはまだできてないんで、これから頑張っていきたいなと思います。僕の自慢の両親。泣くのはここだけにして笑顔で早く会いたいです」と、目頭を押さえながら笑顔で言った。

踏みきる瞬間の恐怖心を乗り越え、江島は世界を目指す

江島は話の中で何度も「感謝」の言葉を口にした。雨の中での競技を気遣ってくれたスタッフへ、「自分だけに集中しろ」と自身も競技中にも関わらず支えてくれた澤野へ、福岡に駆けつけて背中を押してくれた両親へ。
江島の跳躍には、たくさんの人への「恩返し」の気持ちが込められている。

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