サッカー

特集:第70回早慶クラシコ

誰よりもピッチを駆ける男、慶大・八田和己は「どんな形であれ勝つ」

終盤でも八田は走り負けない

7月12日、神奈川・等々力陸上競技場で早稲田大学と慶應義塾大学のサッカーの定期戦「早慶クラシコ」があります。事前の話題第五弾は、学生として最後の早稲田戦で勝利を渇望する慶應の副将、ボランチの八田和己(やつだ、4年、桐蔭学園)のストーリーです。

攻守のバランスを保ち、貪欲に走る

通常ボランチは守備的MFという位置づけだが、八田は今シーズン、関東2部のリーグ戦で3ゴールとボランチらしからぬ数字を残している。八田の持ち味は「走る」こと。それは淺海友峰監督が掲げるチームのテーマと共通している。

サイドにボールが渡ったら、たとえ自陣にいたとしてもペナルティーエリアに走りこむ。試合の終盤であっても怠らない。彼自身はこぼれ球を蹴り込んだゴールを「ごっつぁんゴール」と謙遜して言うが、常に走りこんでいるからこその成果だ。

八田は守備面では、同じボランチの落合祥也(4年、横浜FCユース)とのバランスを意識している。一人がが攻め上がれば、もう一方は後ろを固める。縦横無尽に走り回るプレーも八田の持ち味だが、攻守の連携もまた、八田が大切にしている役割だ。

大学4年間で知ったチーム運営の大切さ

現在では副将としてチームをけん引する存在だが、入部当初はトップチームでプレーすることだけが頭にあり、チームのことを考える余裕などなかった。1年生のときは周りのレベルの高さ、そしてフィジカルの差を埋めようとするのに精一杯だった。しかし経験を積むことで徐々に周りを見る余裕も出て、いまではチームがどの方向に向かうべきか考えるまでに成長した。

大学での4年間を八田は「社会に出る上で経験してよかったと思える時間」と実感している。選手主体でチームを運営するケースの多い大学サッカーでは、重要な決断を学生がする局面がある。そのときに自らの意見を発信しながらも、相手の気持ちをくみ取らないといけない。この相反する二つを両立する姿勢は、大学サッカーをやっていたからこそ得られたものだという。

今シーズンを迎えるにあたり、八田は「主将の佐藤海徳(みとく、4年、桐光学園)が先頭に立って引っ張ってくれる分、一人ひとりとコミュニケーションをとり、主将とお互いの意見を共有するのが自身の役割」と語っていた。その佐藤がけがで第7節から欠場。そこからは八田がキャプテンマークを付けてプレーしてきた。特別な意識はないが、チームをまとめなければならないという気持ちより高まった。そんな中で仲間の助けも大きい。同期の沼崎和弥(暁星)は最終ラインから八田に声をかけてくれる。周りの声を聞きながらチームをコントロールする。そうやってチームの連携を高めていくのが八田のスタイルだ。

いままでの悔しさを全部ぶつける

これまでの早稲田戦を振り返り、八田は「とにかく情けない」と言う。とくに2年生のときに出た試合では1-5で敗れ、ピッチに立っているのが恥ずかしいくらいだった。ただこの悔しさが、自身の成長につながっている。

最後の慶應戦で「心を動かすプレーをしたい」と八田

これまでの敗戦も肯定的にとらえる八田だが、最後の早稲田戦で求めるのは、次につながるような試合内容ではなく、勝利だけだ。もちろん自分のためでもあるが、応援に来てくれるお客さん、そしてともに戦う仲間のためにも心を動かすプレーをしたい。「どんな形であれ、勝つ」。八田は勝利を渇望している。

そのためには最後まで走りぬくという気持ちの面を突き詰めなければならない。多くの選手が等々力での戦いを「独特な雰囲気」と表現し、いつものプレーができないと語るが、八田も例外ではない。八田はこの独特な雰囲気を「ふわふわ」と形容した。独特の雰囲気に飲まれず、落ち着いたプレーができるかがカギとなるだろう。

「いままでの慶早戦の経験をピッチで表現したい」と八田。追い求める勝利のために、八田は全力で走り続ける。

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