アメフト

関学アメフト2回生・山中勇輝、入学早々「クビ」になったQBで再び勝負

この春、QB復帰のチャンスをものにした関学の山中(撮影・安本夏望)

7月7日に秋の関西学生アメリカンフットボールリーグ1部の日程(キックオフ時間は未定)が発表された。8月30日の龍谷大-立命館大戦で開幕し、11月10日までの7節で争われる。昨年までは節の間隔は基本的に2週間だったが、今年は1節と2節、3節と4節の間が1週間しかない。これは今年から関西1部の3位校までが甲子園ボウルの西日本代表を決めるトーナメントに参加できることになり、リーグ戦以降のスケジュールが膨らんだためだ。

チームとして、エース奥野に続く存在を求めた春

シーズンを戦い抜くためには、より選手層を分厚くすることが求められる。30度目の甲子園ボウル制覇を狙う関西学院大学はこの春、最重要ポジションのQB(クオーターバック)で、この取り組みに成功した。エースの奥野耕世(3年、関西学院)に続く存在を育てるのが急務だったが、2回生の二人に、序盤の下位校との対戦なら1試合を任せられそうなめどが立った。山中勇輝(関西学院)と平尾渉太(啓明学院)だ。とくに鳥内秀晃監督(60)が「思わぬ収穫やった」と語るのが山中だ。

中学、高校と主にQBで高3のときはエースQBだった山中。大学に入って、春のシーズン終盤にあったJV戦(下級生主体の試合)で3回パスを投げてインターセプトを食らった。QBの人数が多かったこともあり、まもなくコーチからWR(ワイドレシーバー)への転向を告げられた。「結構いやでした」と、当時の心境を明かす。それでも高2のときにWRとしてクリスマスボウルに出たことを思い出し、「そこに活躍の場があるならいこう」と思い直した。

関大戦でパスに出る山中(撮影・安本夏望)

山中はこの春シーズン序盤の試合にもWRで出ていたが、当初奥野に次ぐ2番手だった平尾がけが。奥野もけが。そこで関学は、これまたかつてQBでRB(ランニングバック)に転向していた安西寛貴(2年、関西大倉)を急きょQBに戻したが、オフェンスを思うように進められなかった。そこで5月26日の関大戦を前に、山中に声がかかった。「試合の4、5日前に言われて、基本的なパスだけ合わせました」と山中。QBに戻れるチャンスに、心を燃やした。関大戦で先発すると、身長179cm、体重75kgの体が躍動する。思い切って腕を振り、第2クオーターに23ydと48ydのタッチダウン(TD)パスを決めた。その右腕で181ydを稼いだ。パスからランに切り替えたときの走りもさえた。鳥内監督は関大戦後に言った。「山中は意外といけるんちゃうか? 可能性出てきたわ」

鳥内監督も「ようできてるで」と称賛

6月9日のエレコム神戸戦でも先発し、社会人相手に臆さず投げ込んだ。15回パスを投げ、8回通した。何より、どんな状況でも堂々とオフェンスを率いたのが頼もしかった。鳥内監督は「山中は、ようできてるで」と、鳥内節でたたえた。

山中は「中学、高校の経験が生きてます」と言って笑った。奥野が指摘する山中の長所は、判断のタイミングの速さと確かさだ。どのWRが空くか、パスを投げるべきか否かといった判断が、山中は速くできて、かつ正確なのだという。これは山中が関学中学部と高等部時代に教え込まれたものだ。「ディフェンスの選手の動き方で判断するんですけど、最初は難しかったです。時間をかけて、できるようになりました」

その後のJV戦2試合にもQBとして出て、しっかりとQBとしての地盤を固めた。「フットボールをやっていく上で、道が開けたと思ってます。せっかくもらったチャンスなので、秋にはビッグゲームで奥野さんと交代で出られるようにしたいです」。笑顔も輝く。

ランもさえる(撮影・安本夏望)

「次のプレーがある限り、TDのチャンスはある」

山中のQBとしてのポリシーは「入ってきたプレーを淡々とこなす」「パスが通りそうにないと思ったら、すぐ投げ捨てる。リスクは負わない」の二つだ。関学育ちのQBらしい言葉だ。チームを勝たせるQBがどうあるべきかを知っている。そして試合中は自分自身に、こう言い聞かせているそうだ。「次のプレーがある限り、タッチダウンのチャンスはある」。アメフトだけなく、人生すべてに通じる信念だ。

WRを経験したことで、パスの落としどころがよくなった。「捕りやすいボールが投げられると思ってます。スパイラル(ボールの回転)もそうですし、どのへんにどんなボールがきたら、WRがうれしいのか分かるんです」。QB復帰戦となった関大戦、1回生WR糸川幹人(箕面自由学園)に決めたTDパスは、まさに山中の思い通りのボールが飛んでいった。

秋までに上積みしたいことを聞いてみた。「クイックネスがあんまりないので、そこを改善したいです。それと走力の向上ですね。奥野さんがけがしたらダメなので、あんまり走らせられない。そこで自分が走れたら、試合に使ってもらえますから」。控えQBとして当然のしたたかさだ。

QBであり続けたい理由については「試合をつくってる感じが好きだからです」と山中。次のプレーがある限り、タッチダウンのチャンスはある。その信念のままにQB復帰のチャンスをつかみ取った男が、秋にどんな輝きを放つだろうか。

本番の秋シーズン、関学の13番から目が離せない(撮影・篠原大輔)

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