京産大・藤田俊輔 ママチャリで鍛えた両足で、自転車人生の最後に日本一を!
東京・武蔵野の森公園のスタート地点から、人の山をかき分けるかのように走り抜けた。7月21日、東京オリンピックに向けた自転車ロードレースのテスト大会「READY STEADY TOKYO」。全日本大学選抜のひとりとして出場した京都産業大学4年の藤田俊輔(水島工)は、鳥肌が立ったという。これまでに経験したインカレや国体などとは、比べものにならない盛り上がりだった。
オリンピックのテスト大会で「世界」を実感
「日本のロードレースでは初めて見る光景でした。僕はこんな大規模な大会に出たことがなかったので。オリンピックのテスト大会でも、こんなにすごいんだって。この先の人生を考えても、いい経験を積めたと思います」
コースは東京オリンピックとほぼ同じ。東京、神奈川、山梨、静岡にまたがり、いくつもの峠を越える厳しい道程だ。ヨーロッパで戦っている日本の選手も「相当キツい」とうなだれたほど。95人が出場し、完走は49人のみ。藤田もリザルトにタイムを残せなかった。ただ、ヨーロッパの第一線で活躍する各国ナショナルチームの選手たちと一緒に走ったことは、心に深く刻まれた。
「最初、アタック合戦に参加したんですけど、予想以上の強さでしたね。レベルが違いすぎました」
中学の陸上部で培った持久力がベース
海外勢から衝撃を受けた大学4回生の競技生活は残りわずか。日本ではマイナーの域を出ない自動車ロードレース界を取り巻く状況は厳しい。実業団に進んで安定した競技生活を送れる人は限られている。藤田は卒業後、自転車とは関係のないブライダル関連の会社で働くことを決めた。競技生活の集大成となる学生ラストイヤーの目標は全国制覇だけ。ロードレースの個人優勝だ。
昨年は国体の成年男子スクラッチ(トラックレース)で2位に入り、全日本学生選手権チームロードタイムトライアル大会でも2位。しかしインカレは個人11位に終わり、悔しい思いをした。大学で自転車競技を続けてきたのも日本一になるためだった。経済的な負担をかけてきた両親を喜ばせるためにも、好結果にこだわりたいという。
大学2回生から練習量を増やし、1日に60~70kmを走破してきた。京都の美山町、滋賀の琵琶湖、京都と滋賀の県境にある比叡山で自らを追い込み、ペダルを踏み続けてきた。9月1日に長野で開催される最後のビッグレースに向け、いまは意識して課題に取り組んでいる。
「僕は短時間に出すパワーが弱いんで、そこを鍛えてます。ここを強化できれば、優勝できるはずです」
レース終盤に集団から抜け出すアタック、ゴール前のスプリントにもその力が生きてくる。ロードレースの長丁場を戦うスタミナには、絶対の自信を持っている。岡山県倉敷市立味野中学校時代には陸上部で持久力を培った。走ったのは800m、1500m、3000m。目立った成績は残せなかったが、練習はやりきった。
何よりも通学時間に脚力を鍛えたことが、自転車競技に生きている。自宅から学校までの約10km。変速機なしのいわゆる“ママチャリ”で、三つの山を越えて通っていた。上りもあれば下りもある。速く、楽にこぐ方法はないかと考え、来る日も来る日もペダルを回した。「どんなに速くこいでも40分間はかかりました。頑張ってこぐだけで、楽して速くこぐ方法は最後まで分からなかったですね」と言って、苦笑いした。
自主性重視の京産大でメキメキ成長
軽量フレームと変速機は偉大である。そのことに気がついたのは岡山県立水島工業高校に入ってからだ。たまたま自転車部の顧問が知り合いだったこともあり、誘われて入部したのがロードレースとの出会いだった。高校で初めてロードバイクにまたがり、ペダルを踏んで驚いた。「ママチャリとは進み具合が全然違いましたから。とにかく速い。原付きバイクと車くらいの差はありますよ。どっぷりはまりました」
重い自転車で鍛えた脚力は本物だった。高校生の自転車競技を題材にした人気漫画『弱虫ペダル』の主人公よろしく、ママチャリで培った脚でインターハイに2年連続出場を果たす。その実力が認められ、スポーツ推薦で京産大へ進学。大学でもメキメキと成長し、全国大会でも上位に顔を出すまでになった。いまでも上り坂が得意なのは、中学校の通学でがんばった影響が少なからずあるのかもしれない。藤田本人も「まあ、そうだと思います」と口元を緩めた。高校の自転車部ではつらいことばかりだったが、大学では伸び伸びやれた。
「練習は自主性を重んじるやり方で、楽しくできました。自分で考える力が養われたと思います。京産大に来て本当によかった。今後の人生にも生きると思います」
自転車競技から得たことは多い。レースで勝った喜びは何物にも代えがたい。つらい時間も長いが、そこをいかに耐えるかどうか。メンタル面は鍛えられた。
競技生活7年。集大成のインカレでは、思い残すことなく燃え尽きるつもりだ。