アメフト

日大フェニックスLB浦本剛「しょうもないプレーしたら、アイツに申し訳ない」

浦本の左腕のテープに「91」と書いてあった(撮影・北川直樹)

関東大学リーグ1部BIG8

9月7日@東京・AGFフィールド
日大(1勝) 89-0 青山学院大(1敗)

アメリカンフットボールの関東大学リーグ1部BIG8が9月6日に開幕。7日には2年ぶりにリーグ戦に戻った日大がTOP8から降格したBIG8に登場し、青山学院大に89-0と圧勝した。試合の序盤、日大らしいハードヒットで会場を沸かせたのがLB(ラインバッカー)の浦本剛(ごう、4年、立命館宇治)だ。

立命館宇治高から「誰もおらんとこへ」と日大進学

第1クオーター(Q)3分すぎ、日大が先制タッチダウン(TD)を奪ったあとのキックオフだった。勢い乗って駆け上がろうとする青学のリターナー。その左側から駆け込んできた日大の6番が、そのままの勢いで体を当て、ぶっ飛ばした。浦本剛(4年、立命館宇治)は左腕を突き上げるようにガッツポーズ。その腕に巻かれた白いテープには「91」と書いてあった。

浦本は守備の第2列で構えるLBが本職。最終学年の今年からスターターになった。身長173cm、体重84kgと大きくはないが、鍛え上げられた体と思い切りのよさがあるから、ランにもパスにも対応できる。青学戦でも、よくボールに絡んでいた。「1年のときからずっと自信はありましたし、どんな相手でもパスカバーできるし、タックルできると思ってます。気持ちですね。絶対やったるっていう闘志は誰にも負けへんつもりです」。勇ましい男だ。

パスにもランにも対応できるのが強み(撮影・北川直樹)

大阪府八尾市出身。立命館宇治中学校に入ると同時にフットボールを始めた。強豪である立命館宇治高では3年生のときに副将を務めた。アメフト部の仲間は、ほぼ全員が立命館大学に進んで、パンサーズで日本一を目指す。浦本も高3の夏まではそのつもりだった。しかし、ふと思った。「みんなと一緒ってのも、おもろない」。そう思い始めたら、考えが広がってきた。「環境を変えてみたい」「誰も知ってる人おらんとこがええな」「そうや、関東の大学や」。当時アメフト部の監督だった東前圭さんに相談すると、日大を勧められた。浦本はフェニックスで4年間頑張る道を選んだ。

2年生のとき、自分の幼さに気づいた

1年生のとき、日大は秋のリーグ戦でまさかの4敗。浦本はベンチから見つめるだけだったが、「俺、来る大学間違えたんちゃうか」と思った。
2年生になっても、ほとんど出番はなかった。浦本は試合に出られない理由が分かっていた。「コーチの言うこと、あんまり聞いてなかったんです。高校まで言われたことと違うことを言われると、心の中で『そんなこと言うけど、俺のやり方がある』とか『アンタに言われる筋合いないわ』って思ってましたから」。この年、フェニックスは甲子園ボウルまで勝ち進んだ。そして関西学院大に競り勝った。まったく出番のなかった浦本は、フィールドで躍動する仲間を目の当たりにして心底悔しかった。「チームが勝っていくにつれて、どんどん悔しくなっていってました。それで甲子園ボウルで勝ったあとに『自分が変わらなあかん』って気づいたんです。周りの意見も聞いてやっていかな信頼は得られへん、って。人間的に幼なすぎました」

浦本剛は改心した。3年生になった。「今年こそ試合に出る」「春からやったる」。そう意気込んでいた。そして迎えた2018年5月6日の関学との定期戦。あの一件が起こった。
騒動の中で浦本は考えていた。「えらいことになったぞ。ほかの大学行った方がええんちゃうか」。実際に、2学年上の兄がアメフトをしていた甲南大へ移れないものかと相談したこともあった。そうこうするうち、秋のリーグ戦に出られないことが決まった。改心した浦本が上ろうとしていた階段自体がなくなった。転げ落ちた。

相手のブロックをかいくぐり、ボールキャリアーへ向かう(撮影・篠原大輔)

自分たちが4年生のシーズンは関東大学1部のBIG8でプレーすることになる。甲子園ボウルを目指すこともできない。「日大来た意味ないやん」。毎日、そう思った。
なかなか、前向きなことを考えられなかった。同期の仲間といろいろ話すうちに、ちょっとずつ、ちょっとずつ今後のことを考えられるようになった。「大学4年間、ここでアメフトをやるって決めて来ましたから。そのチームがどんなことになっても、そこでやりきるのは大事ことなんちゃうか」。そして、いまに至る。

泰介と試合に出たい。1試合でもいいから

冒頭のハードタックルを決めたシーン。浦本が左腕のテープに書いていた「91」は、関学との定期戦でプレーが終わったあと、相手QBの背後から突っ込んだ宮川泰介(4年、日大豊山)の背番号だ。いま宮川は副将を務め、練習では学生トップクラスのDLらしいプレーを披露し、パワーとスピードにさらに磨きをかけている。だが、あの一件で警視庁から傷害容疑で書類送検されていて、チームとしては検察の最終判断を待つというスタンスで、青学戦も出場しなかった。

同じディフェンスの4年生である宮川について、浦本は言う。「春の試合に出られなくて、『秋こそは』と思ってたはずなんです。夏のしんどい練習も一緒にやってきました。練習ではほんまにチームを引っ張ってくれてます。泰介がハドルをかけると、めっちゃ盛り上がるんです。前はそんなことするヤツじゃなかったんですけど、あのことがあってチームを離れて、戻ってきてから、そうやって前に出るようになりました。試合に出られるかどうかも分からん泰介が、ほんまに必死で練習してる。僕らはもっとやらなあかんし、試合でしょうもないプレーしたら、アイツに申し訳ない。そう思ってやってます」

フェニックスでのラストシーズン、質の高いプレーで暴れる(撮影・篠原大輔)

日大フェニックスの面々は「最短ルートでの復活日本一」を目指している。今シーズンはBIG8で全勝優勝し、TOP8下位チームとの入れ替え戦で勝つ。それしかない。
「全勝して入れ替え戦で勝つのは最低ラインとして、どんな質のプレーができるか。そこにこだわって質の高いプレーをみんなに見せていくのが、いろんな人への恩返しになるんやと思います」

そして最後に言った。
「泰介と一緒に出たいっすね。1試合でもいいから」

日大は9月21日、神奈川大と対戦する。

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