陸上・駅伝

特集:第88回日本学生陸上競技対校選手権

日大・江島雅紀 ドーハで目指すは「レジェンド」澤野大地超えの5m85

江島は日本インカレで5m50を跳んで初優勝。それでも「大学に入って一番悪条件だった」と振り返る(撮影・安本夏望)

第88回日本学生陸上競技対校選手権

9月13日@岐阜メモリアルセンター 長良川競技場
男子棒高跳び決勝
1位 江島雅紀(日大3年) 5m50

陸上の日本インカレ2日目の9月13日、棒高跳び決勝でただ一人5m50を跳んだ日大の江島雅紀(3年、荏田)が初優勝を飾った。「今シーズンの疲れがどっと出ました。けがを(しながら出たケースを)除いたら、僕が大学生で経験した中で一番悪条件でした。世界陸上もこういう感じだったら、って思うと恐かったので、その前に経験できたのはよかったな。貴重な経験ができたなと思います」と言って、苦笑いを浮かべた。

日大・江島雅紀 両親の励ましに応えて日本選手権初V、澤野大地へも恩返し

「ポールと会話できた瞬間」

江島は8月18日の上総棒高跳・走高跳記録会で5m71を跳び、9月27日からの世界選手権(ドーハ)の参加標準記録を突破。この5m71は日本歴代3位タイの記録で、江島にとっては2年ぶりの自己ベストだった。同記録会には日大の先輩で“恩師”でもある澤野大地(39、富士通)も出場し、同じ5m71を跳んだ。江島がクリアしたとき、真っ先に駆け寄ってきてくれたのが澤野だった。そして日本インカレ前日の9月11日、澤野と江島のドーハ行きが決まった。江島は日本インカレ出場を見送ることも考えたが、初優勝と、調子がよければ5m80超えも狙って出場に踏み切った。

日本インカレの出場は34人。バーの高さは4m80から始まった。5m30から跳び始めた江島は、競技開始から3時間以上経ってからの登場となった。5m30は一発でクリアしたが、反発に乗れず、自分の動きができていないと感じていた。

江島は5m50を3回目でクリアした(撮影・松永早弥香)

5m71を跳んだときを思い返すと、そこまでの段階でポールが押し上げてくれる感覚があった。この感覚を江島は「ポールと会話できた瞬間」と表現している。その感覚がきたのは、5m61の2回目だった。ただ、そこからの調整が間に合わず、日本インカレは5m50にとどまった。「今シーズンは5m50を最低ラインにしてたんですけど、やっぱり自分の中では納得してません」と言いつつ、「初タイトルは素直にうれしいです」と笑顔が広がった。

「レジェンド」に与えられた夢を、今度は自分が

江島が世界陸上で狙うのは、澤野の日本記録(5m83)の上をいく5m85だ。課題は助走の後半部分。「まだまだ走力が足りないです。あと、夏バテじゃないんですけど、筋力が落ちてて。僕は身長もまだ止まってないんですよ。だからしっかり食べて体をつくらないといけない。お母さんも、まだ身長が伸びてるんです。やっぱり親の血を受け継いでるだなって思いますね」。家族思いの江島は、こちらから問いかけなくても、ちょくちょく家族の話を口にする。

江島は今シーズン、5m71超えを目標にしてきた。5月の関東インカレでも、6月の日本選手権でも、7月のユニバーシアード(イタリア・ナポリ)でも。しかし、跳べない。ユニバーシアードが終わってからは1度、「世界選手権は2年後でもいいや」と気持ちが切れてしまったこともあった。それでも「加藤先生や澤野さんという頼れるコーチがいてくれるので、人を信じてここまで来られたと思います。今日だって優勝を真っ先に喜んでくれたのは澤野さんだったし。でも今日一番笑ってたのは自分だと思うんですよね。棒高跳びが楽しいな、って素直に思えてます」。いま、この「チーム日大」で跳べる幸せをかみしめている。

競技中、江島からは何度も笑顔がこばれた(撮影・松永早弥香)

世界選手権を前にして、改めて江島は澤野のことを「レジェンド」と言った。

「僕がずっとテレビで見ていた選手がコーチになってくれて、今回一緒に世界陸上に出られることになって、やっと出てきたのが『レジェンド』という言葉です。そうとしか言えない。夢を与えてもらいました。今度は僕が子どもたちに夢を与えられる絶好の機会だと思ってます。でも、いつまでもレジェンドに負けていられないので、橋岡(優輝、日大3年、八王子)が森長(正樹)先生の記録を抜いたように、僕も澤野さんの日本記録を破って、安心して引退してもらいたいです」

世界選手権でのポイントは、来年の東京オリンピック出場に大きく関係してくる。江島とレジェンドのドーハでの戦いに注目したい。

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