ラクロス

東大に負けてシーズン終了の慶應ラクロス、天野泰明主将が涙で「ありがとう」

慶應は東大に敗れ、2年ぶりの決勝進出ならず(すべて撮影・松永早弥香)

関東学生男子1部リーグ戦 準決勝

10月5日@東京・駒沢第一球技場
東京大(Bブロック2位) 4-3 慶應義塾大(Aブロック1位)

関東の男子ラクロス1部の準決勝が10月5日にあり、慶應義塾大が東大に3-4で敗れて2019年のシーズンを終えた。慶應は昨シーズン、準決勝で早稲田大に5-6で敗れた。日本一を目指して戦ってきた今シーズン、慶應は1部リーグAブロックを全勝で勝ち上がってきたが、一発勝負の準決勝で、またも1点差で涙を飲んだ。

堅い守りに崩されたペース

慶應はこれまで爆発的な得点力で勝ってきた。一方でBブロック2位だった東大は、堅い守りのと戦略的な攻撃を特徴とするチームだ。最初のフェイスオフは慶應の石井ヴィクトール慶治(1年、慶應NY学院)がものにしたが、ラインアウトで東大ボールに。東大はパスを回しながら少しずつ慶應の守りを崩していった。試合開始8分、東大の成田悠馬(4年、白陵)が左からのロングシュートで先制点。慶應は追い上げを狙ったが、東大に阻まれ、第1クオーター(Q)を終えた。

第2Q、慶應の中居諒介(4年、慶應)が中央突破からシュートを決め、試合を振り出しに戻した。さらに石井のフェイスオフで慶應が攻めに出たが、パスミスが続き、なかなか流れをつかめない。東大はカウンターから黒木颯(4年、渋谷教育学園幕張)が決め、2-1と再びリードして前半を終えた。

「1球1球に7年間の思いを込めました」と慶應の中居(8番)

第3Q6分、慶應の中居が再び同点のシュートを決めた。2-2。高校からラクロスを始めた中居は高校最後の試合でボロ負けを経験し「大学では絶対に日本一になる」という強い気持ちでラクロスを続けてきた。この試合に負ければ引退だ。7年間のすべてを1プレー1プレーに込め、後悔しない攻めの姿勢を貫くと心に決めていた。そして訪れたチャンスを逃すことなく、慶應に2点目をもたらした。

しかしその直後、東大は黒木のパスを受けた塩澤拓斗(4年、県立川越)がゴーリー(G)の正面から決めて3-2。第4Qに入って慶應は早めからプレッシャーをかけて追い上げを狙ったが、残り2分で東大の鶴田直大(4年、麻布)のシュートで4-2。そこから慶應の立石真也(3年、慶應)が意地で1点を返したが、試合終了となった。

最後の試合、自分が出られなくても

慶應の主将でゴーリーの天野泰明(4年、慶應湘南藤沢)はこの試合、ベンチから仲間たちにエールを送っていた。けがをしていたわけではない。今シーズン、慶應は対戦相手やその日のコンディションに合わせてゴーリーを起用してきた。この日はセーブ力を買われた藤井凱章(かいしょう、2年、慶應)がスタメンだった。

慶應の藤井(92番)は2年生ながら、準決勝でスタメンを任された

試合前、天野は“緊張しい”の藤井を思い「いつも通りでいいよ。いつも通りやれば止められるから」と、笑顔で送り出した。試合直後、藤井は開口一番で天野に「ごめんなさい」と言った。主将はそんな藤井に「全然『ごめん』じゃないよ」と声をかけた。「彼がいなかったら、二桁ぐらい点をとられてたかもしれない。だから『お前のセーブ力のおかげだよ』って伝えました」と天野。2年生の藤井にはこれからがある。この悔しさを糧に、慶應ラクロスのゴーリーとして守り続けてほしいと期待を寄せている。

そうは言いながら、試合後、天野の目には大粒の涙があふれた。高校時代は野球でファースト。「日本一を目指せるスポーツを」と、大学でラクロスを始め、入部して4カ月後にはゴーリーを志した。「ファーストもボールを止めるんで、ゴーリーに似てなくもない。どんな速いシュートも体を張って止めるのがゴーリーで、それが面白さであり醍醐味だと思いました」

そんな天野を仲間たちは「プレーでも言動でも最後の砦」と表現する。「とくに今年の4年生はみんなラクロスが大好きで、どこかやんちゃ。だからそれをまとめるのが自分だと思ってやってきました」と天野。伝統校の主将を務めるプレッシャーもあったが、それ以上にこの仲間たちとラクロスをできることが楽しかった。

慶應主将の天野(右から2人目)は試合後、チームの一人ひとりに声をかけていた

ラクロスは大学までのつもりだった。しかし最後の試合を終えて迷いが生まれた。「どうしても日本一になりたいと思ってラクロスを始めて、まさか自分でもこんなに早く引退するとは思ってなかったので……。社会人になってまた日本一になりたいという思いがあります」

後輩に何か伝えるなら?「まずはありがとう。とくに今年は4年生の実力が低いと言われてたので、下級生の支えがあって、ここまでこられたと思ってます。4年生を代表して『ありがとう』と言いたい。来年以降は必ず全日本で優勝してほしいです。今度は慶應OBとして、そんな姿を見届けたいですね」。涙で目の周りを赤くした天野が、柔らかい笑顔でそう言った。

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