東大・成田悠馬、ラクロスに一目惚れしたバスケットマン
スクールカラーが淡青の東大と濃青の京大による体育会対校戦は、「双青戦」と呼ばれる。今年の男子ラクロスの双青戦は6月15日にあり、東大が8-4で京大を下し、2連勝した。「ここ最近、立ち上がりがあまりよくない試合が続いてて、だから立ち上がりをけっこう意識してました。先制点を取りきれてよかったです」。双青戦で最初にゴールネットを揺らした東大の副将、成田悠馬(4年、白陵)は、こう試合を振り返った。
踏ん張りどころで見せたカウンター
東大は加藤宏隆(3年、北嶺)が試合開始のフェイスオフを取り、序盤から優位に試合を進めた。成田の先制点に続き、間野弘暉(ひろき、3年、神奈川・聖光学院)のミドルシュートで2-0。京大も1点を返し、2-1で第1クオーター(Q)を終えた。第2Q以降もフェイスオフを東大が制し、いい流れで攻撃を展開した。
第4Qに入り、京大は3-6から追い上げを狙って攻撃専門のAT(アタッカー)も東大にプレッシャーをかけてきた。東大はディフェンスからオフェンスにつなげられず、京大のオフェンスを耐えしのぐ時間が続いた。そこで成田がカウンターから2点を決め、京大の勢いを削いだ。
成田は「一番自分の理想に近い試合ができた」と笑った。サイズを尋ねると、身長183cm、体重は「87kgから90kgの間ですね」と言った。「体重が変動しやすいんです」。チームメイトの中で頭一つ抜けた長身。高校ではバスケのセンターとしてプレーした。
スラダン・赤木のようなパワープレーを
バスケでインカレ出場経験もある母親の影響で、成田は幼いころからバスケへのあこがれがあった。漫画『SLAM DUNK』で、その思いはいっそうふくらんだ。受験して白陵中学校(兵庫)に進んだときも心にあったのはバスケだったが、部内の競争率が高そうだと知って気持ちが萎えてしまった。そんなとき「身長を生かせるよ」と先輩に声をかけてもらったことでバレー部へ。3年生のときには主将を務めた。やるからには勝ちたい。そんな思いで仲間にもぶつかっていったが、チームの意識は上がらなかった。県大会の前の地区予選でも勝てなかった。
白陵高校に上がるとき、バスケ部の友人が「僕らの代で県大会に出よう」と声をかけてくれたことをきっかけに、あこがれのバスケに転向。バレーで鍛えたジャンプ力を生かせるセンターを希望した。「スラダンを読んでると、やっぱり流川(楓)かっこいいなって思っちゃいますけど、高校からバスケを始めたということもあって、ああいうスタイルは目指せないと思ったんです。だから自分の体格を生かして、赤木(剛憲)のようなパワープレーを目指そうと考えました」。いまでも好きなキャラクターは赤木だ。高3で県大会出場を果たした。
東大進学後もバスケを続けることを考え、練習も見学した。しかし「小さいころからバスケをしてる人たちには勝てない」という思いがあった。そんなときにラクロス部を訪れた。「一目惚(ぼ)れという感じですね。新歓でいろんなところを回ったんですけど、『ラクロス? 日本一を目指せるの?? 』という印象が強くて。ありきたりですけど、大学生から始めて日本一を目指せるという東大の部活はラクロス部だったので、素直にいいなと思ったんです」
フィジカルを生かしてゲームメイク
ギャップは大きかった。先輩たちの試合で見たラクロスと、自分が実際にやるラクロスがうまくつながらない。「うまいプレーを見て、自分でイメージしながらやってみても全然できないんですよ。面白くないなと思う時期がすごく長かったですね」。1年生の初めはATだったが、コーチから「もっとプレースタイルを広げるために、MF(ミディ)をやった方がいいんじゃないか?」と声をかけられ、MFに転向。2年生でAチーム入りを果たし、3年生になると主力の一人として活躍した。
今シーズンから、成田は再びATになった。「MFはオフェンスもディフェンスもできるよさがありますけど、自分はオフェンスの方が好きだったんで。それにゲームメークをするという意味では、どちらかに集中にした方がいいなって思ったんです。バスケでいうPG(ポイントガード)みたいな」。やっぱりバスケが好きなのだ。
バスケのPGはチームメイトを的確に動かす司令塔役。シュートやパスのスキルが高いだけでは務まらない。常に周りを見ながらフリーの選手を生かし、ときには自分で仕掛けるプレーが求められる。ラクロス版のPGとして生きるため、成田は自分の持ち味でもあるフィジカルで勝負しようと考えた。入部したとき、スクワットで100kgも挙げられなかったが、3年生のシーズン中に130kg、さらに今シーズン前には160kgが挙がるまでになった。
「そんなに足は速くないので、フィジカルを生かしたプレーをやって相手を圧倒したいですね。今日の試合では結構、自分で決めるシーンが多かったですけど、ディフェンスが自分に引きついたらもちろん味方にパス出しますし。相手のディフェンスを見ながら、自分でオフェンスを組み立てるという意識でやってます」
初の国際試合でも目指すプレーは変わらない
成田は6月21日に韓国で開幕する第9回ASPAC(APLUアジアパシフィック選手権大会)に、日本代表に準ずるナショナルデペロップメントスクワッドチーム(DS)の一員として出場する。DSではATではなく昨シーズンまでのMFとしてプレーする。成田にとって初の国際大会だ。
「どんな相手なのかあまりまだ分かってないんですけど、海外の選手とプレーするなかなかない機会だと思ってます。自分が点をとるのはもちろんですけど、MFでもゲームメイクというか、『次は誰からいこうか』とか組み立てることができたらいいなと思います。その結果、得点とかアシストにつながらなかったとしても、そういう意識で試合に臨みたいです」
成田はもともと日本一を目指してラクロスを始めた。ラストイヤーでも日本一への思いは変わらない。「ラクロスを続けてる理由はそこにあるんで、いまはまだそれからのことは考えられてないです。日本一になることに全力で取り組んでます。ただ、それこそASPACで日の丸を背負った時に、何か心境の変化があるかもしれませんね」
ラクロスに一目惚れして走り続けてきた男のラストイヤーは、どんな景色になるのだろうか。