水泳

日大が誇るお祭り男 バタフライ石川愼之助の快進撃は、ここから始まる

石川(中央)は日本学生新記録、日本歴代2位の記録で男子100mバタフライを制した(すべて撮影・日本大学新聞社)

9月にあった水泳の日本インカレで、男子は12年ぶりに日大が総合優勝を飾った。その原動力になったのは、7月の世界選手権(韓国・光州)の代表でもある吉田啓祐(1年、日大豊山)。そしてもう一人は、同じ1年生の石川愼之助(中京大中京)だった。

日大・吉田啓祐 自由形のホープはしなやかに攻める

インカレで最も会場を沸かせた男

大会2日目、男子100mバタフライ決勝。石川は見たことがないほどの高さに保持したボディポジションで水面を進んでいた。なにせ、腕の入水と同時に打つ第1キックで、足先が水面から出ているのだ。第1キックのタイミングで、足が水面から出る選手はほとんどいない。それだけ体が水面に近く、ボディポジションが高く維持され、水の抵抗が少ない泳ぎをしている証拠でもある。

「予選から調子はよかったです」と石川。24秒16で折り返すと、「自分の強みはターンアウトから75mまでの加速」という言葉通り、ターン後の水中バタフライキックで周囲に体半分の差をつけた。そこからは石川の独壇場。高いボディポジションはそのままに、テンポも落ちず、もちろんスピードも衰えない。最後まで石川らしいバタフライで泳ぎ切り、51秒11の日本学生新記録を樹立して優勝。日本歴代2位の記録だ。2009年に河本耕平さんが樹立した日本記録にも、0秒11差にまで迫る最高の泳ぎだった。「こんなに速い記録が出るとは思ってませんでした。自分もびっくりです」。石川らしい言葉だと思った。

しっかりとステップを踏んで成長

5歳で始まった水泳人生。全国デビューは中1のときだった。そこから一気に記録を伸ばし、中2の3月にあったジュニアスイマーの登竜門である全国JOCジュニアオリンピックカップの春季大会で、全国初優勝(50mバタフライ)を手にした。その勢いのまま中3で迎えた最後の全国中学校水泳競技大会では、100mバタフライで優勝している。

中京大中京高校進学後も記録を伸ばし、高2で世界ジュニア選手権の代表に選ばれた。同い年には池江璃花子(ルネサンス/日大)や今井月(東洋大)らがいた。彼女らの活躍を見ながら、自分も一緒に世界の舞台に立ちたいという思いを募らせていった。そして昨年、高3のインターハイで100m、200mのバタフライで2冠を達成。とくに100mは51秒92の好記録で、日本高校記録を塗り替えた。

石川は高3の冬に指を骨折。そこから徐々に復調し、インカレで爆発した

日大の1年生となった今年4月の日本選手権で世界選手権の代表入りを狙っていたが、冬のトレーニング期に入る前に指を骨折し、思うように練習を積めなかった。それでも日本選手権の100mバタフライでは、自己ベストに迫る52秒32で6位に入るまでに復調。5月末のジャパンオープン2019でも52秒55と復活の兆しを示した。イタリア・ナポリで開催されたユニバーシアードの代表に選ばれ、「一番下っぱですから、年上の選手たちばかりと戦うことになるんですけど、いい勝負をしたいです」と意気込んでいた。

「もう少しで泳ぎがよくなると思う」とユニバーシアード前に話していた通り、ナポリでは52秒05で金メダルを獲得。1カ月後の日本インカレで前述の通り51秒11まで記録を伸ばした。完全復調どころか、2019年の100mバタフライ日本ランキング1位に立ったのである。

お調子者が調子に乗ったら強い

「自分のモットーは水泳を楽しむこと。僕が一番大切にしてることです。もちろん競技ですからタイムも結果もありますけど、水泳を楽しむということを一番に置いて、これからも楽しいレースをしていきたいです」

話を聞いていると、まさにお祭り男である。チームが盛り上がれば盛り上がるほど、自分の力以上のものをレースで発揮するタイプだ。数ある競泳の大会の中で、日本で一番盛り上がるアツい大会と言われているのが、インカレだ。学校の対校戦であるのが理由の一つ。とくに今年の日大は石川や吉田に加え、自由形の関海哉(かいや、2年、日大豊山)や石崎慶祐(1年、長岡大手)らのメンバーで充実していて、12年ぶりとなる男子総合優勝を狙える戦力が整っていた。そういうチームの雰囲気があって石川はうまく波に乗り、自分の勢いに変換させて好結果につなげた。

「大学に入って競技に打ち込めるようになって、辛抱強く練習できてることが、こういう結果につながってると思います」

今後はスピードを強化しつつ、自分の強みであるターン後の加速からの後半の粘り強さを磨いていきたいという。身長167cm、体重66kgとパワー種目のバタフライの選手にしては、小柄だ。これからの筋力アップと、それを泳ぎにうまくつなげることが、10年前に打ち立てられた日本記録を更新できるかどうかのカギを握る。

ほかにもいろいろ細かい部分の課題はあるだろうが、お調子者の石川を見ていると、どうも「彼なら大丈夫かな」と思ってしまう。勢いを大事に、自分が楽しく、面白く、100mバタフライというレースを泳ぎ切れれば、大学の残りの3年間で一気に世界のトップにまで登り詰められるだろう。そんな期待を抱かせてくれるのが、石川というスイマーなのである。