ラグビー

慶應ラグビー初の外国人選手、ほろ苦い公式戦デビュー 10日は明治に挑戦

CTBエノサは公式戦デビューとなった日体大戦で先制トライ(すべて撮影・谷本結利)

ラグビー関東大学対抗戦Aグループ

11月4日@東京・上柚木公園陸上競技場
慶應義塾大(22敗)27-30 日本体育大(13敗)

日本ラグビーのルーツ校でことし創部120周年を迎えた慶應義塾大が、ついに外国人選手へ門戸を開いた。

外国人選手がダメというルールはなかった 

44日間にわたるラグビーワールドカップ日本大会が終わり、一部中断していた大学ラグビーが再開。114日、関東大学対抗戦Aグループで慶應は日体大との4戦目を迎えた。 

その試合で慶應の伝統の黄黒ジャージーの8番と13番に身を包み、公式戦デビューを飾ったのがニュージーランドの出身のNo.8アイザイア・マプスアと、CTBイサコ・エノサ(ともに1年、キングスカレッジ)だ。二人ともU20オークランド代表の経歴を持つ選手であり、試合は日体大に11年ぶりに負けてしまったが、そろって挨拶(あいさつ)がわりの豪快なトライを決めて、今後の活躍を期待させた。 

ワールドカップで活躍した日本代表は31人中15人が外国出身者で「多様性(ダイバーシティー)」が謳(うた)われており、ラグビー以外に目を向けても、慶應も積極的に外国人を受け入れている。今シーズンから慶應を指揮する元日本代表の栗原徹監督は「慶應も外国人がダメというルールはなかった。慶應でプレーしたい、プレーできる選手がいれば入学してほしいなと思ってました」と語る。

外国人向けのAO入試に合格 

大学ラグビーでは1980年代に大東文化大がトンガ人留学生を受け入れて旋風を巻き起こし、現在では帝京大、東海大、天理大、京都産業大など多くのチームに外国人留学生が在籍。日体大でも昨年から外国人選手がプレーしている。また慶應にはスポーツ推薦入学の制度が存在しないため、選手層を厚くする狙いもあったはずだ。 

45人の候補がいた中で二人は今年3月、湘南藤沢キャンパスの総合政策学部と環境情報学部の外国人向けAO入試である「GIGAプログラム」に合格し、蹴球(ラグビー)部OB会からの援助も受けて9月に入学した。練習自体には5月ごろから少しずつ参加、入学後は練習試合にも出場し、満を持しての公式戦出場となった。

No.8マプスアは迫力のある突破を繰り返した

納豆は口に合わなかったマプスア 

身長193cmの恵まれた体を武器に突破を繰り返した18歳のNo.8マプスアは、サモア代表でトップリーグのクボタスピアーズでも活躍したCTBセイララ・マプスアの甥(おい)っ子だ。父はサモア人、母はニュージーランド人で、ウェリントンで生まれた。高校はオークランドのキングスカレッジを出て、ダニーデンのオタゴ大で1学期終了した後、慶應の総合政策学部に入学した。 

4歳からラグビーを始め、ダニーデンではサントリーサンゴリアスでも活躍した元日本代表CTBライアン・ニコラスに指導を受けていたという。慶應に来た理由を「あまり日本のことも日本人選手のことも知らなかったんですが、日本で高いレベルでラグビーも勉強もできると知って、挑戦してみようと思いました」と、いい笑顔で言った。 

寮生活をして、ラグビーをしながら大学に通う毎日である。マプスアは「慶應は非常に古い大学で、初めての留学生選手ということで光栄です。日本に来て、すべてが驚きです。とくにラグビーはスタイルが違いすぎてビックリしましたが、だいぶ慣れてきました」。寿司はサーモン、ラーメンは塩ラーメンがとくに好きだが、納豆は口に合わなかったという。 

スクラムの最後尾で目を光らせるマプスア(中央上)

キャプテンのCTB栗原由太(4年、桐蔭学園)はマプスアについて「日本語の勉強も熱心で、すごく賢くて、コミュニケーション能力あります。まだ荒削りですが、3年生のLO相部 (開哉)たちが面倒を見てますし、マップス(マプスア)は相部のことをリスペクトしてるようです」。もうチームにすっかりなじんでいるようだ。

エノサ「日本代表になれたら光栄」 

前半4分に先制トライを挙げたCTBイサコ・エノサは、オークランド出身で父がツバル人、母がサモア人という19歳。小さいころは父の影響でサッカーをしていたが、10歳でラグビーを始め、身長183cm、体重106kgの体格を生かして、スーパーラグビーのブルーズの育成機関にもいた経歴を持つ。 

慶應に進学した理由についてエノサは「慶應は伝統があります。大学に行きたいと思って、奨学金があったので進学を決めました。授業はほとんど英語ですが、一つ日本語の授業をとってます」と話す。 

マプスア同様に、エノサも寮で暮らして環境情報学部でラグビーと勉強を両立する日々を送る。サモア代表、ニュージーランド代表になる資格があるが、「日本でプレーし、日本代表になれたら光栄ですね」と言うように、大学卒業後も日本でのプレーを続けることも視野に入れている。 

将来の日本代表入りも視野に入れているエノサ

キャプテンの栗原はエノサについて「シャイですが、明るいのでプレーしやすいです」と言い、エノサ本人も「コミュニケーションはみんな英語を話すので問題ないですが、日本語にも少しずつ慣れてきました。日本人はみんな礼儀正しくて親切で、みんなと仲よくなれました。焼き肉やラーメンもおいしいです」と、陽気に語ってくれた。

栗原監督「間違いなく慶應を引っ張ってくれる」

栗原徹監督はマプスアについては「ラインアウト、ボールを持っての突破が武器です」。エノサについては「突破力だけでなく、ボールの扱いもうまいので、ゲームコントロールに期待してます」と話した。ただ、二人ともまだ1年生だ。監督は「これから成長してくれる選手です。間違いなく、慶應を引っ張ってくれる二人なので、しっかりサポートしていきたい」と期待を口にした。

日本の最初の公式戦は、ほろ苦い結果となった。エノサは日本に来て少し太ってしまったというように、試合後半に運動量が落ちるのが課題。エノサは「後半は相手がよかった。次の明治戦に力を出したい」と言えば、マプスアも「がっかりしました、次は頑張ります。明治と戦うのは楽しみです」と気持ちを切り替えた。

まだ18歳と19歳だが、「ラグビー王国」ニュージーランドの出身だけに、二人のラグビー選手としての潜在能力は十二分である。慶應はこれで22敗となり大学選手権出場のためには1試合も負けられなくなってしまった。マプスア、エノサの2人の力を引き出しつつ、巻き返せるか。

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