九大が初の全学準決勝進出 帰宅部だった古賀健吾の戦略で早稲田に挑む
ラクロス第11回全日本大学選手権 男子1回戦
11月16日@愛知・名古屋市港サッカー場
九州大(九州地区1位) 7-2 南山大(東海地区1位)
今年度から九州地区が支部化され、九州地区の覇者は従来の三地区予選(東北、中四国、九州)を経ずに全日本学生選手権に出られるようになった。それでも「組み合わせが変わったから全学に出られた、とは思われたくなかった。全学の1回戦をしっかり勝ちきることにこだわってきました」。九大主将の豊永大貴(4年、倉敷青陵)は力強く言った。南山大との1回戦では九大の攻守がかみ合い、7-2で初の準決勝進出を決めた。
劣勢から流れをつくり、一気に攻めた
試合は九大にとって想定外の事態で始まった。吉本龍一ヘッドコーチ(HC)は「各Qをしっかり勝ちきるぞ」と言って選手をフィールドに送り出したが、試合開始のフェイスオフをとられて早々に失点。さらに九大の反則で選手が3分間の出場停止になっている間に2点目を奪われ、0-2で第1Qを終えた。しかし今年の九大は劣勢から追い上げる展開が多かったこともあり、「力を出しきれば勝てる」という思いを選手たち自身が強く持っていた。
第2Qの7分、九大エースの田丸寛(4年、広島学院)が左斜めからのシュートを決めると、もう一人の点取り屋、山田昌陽(3年、済美平成)がG(ゴーリー)との1対1をものにし、2-2と追いついた。
第3Q、九大は規格外のクロスと指摘され、最初の3分間を1人少ない中で戦わなければならなくなった。その間、ボールを保持して逃げ回ることもできたが、吉本HCは九大に流れがきていると判断し、選手たちに「いけ! 」と指示。南山大ボールで再開したが、九大Gの松尾良徳(4年、東福岡)の好セーブで反撃へ。田丸からのパスを受け取った山田がテンポよくシュートを放ち、3-2と勝ち越した。さらにいつもは九大のオフェンスリーダーとしてアシストに徹している古賀健吾(同、同)が2点を決め、5-2で第4Qへ。九大は古賀を起点に多彩な攻撃をしかけ、田丸が2点を決めきった。7-2で1回戦を突破した。
勉強漬けの高校時代、部活に飢えていた
九大が全学に出場するのは6年ぶり2度目。昨年の三地区予選は東北大と岡山大、九大の総当たりで、九大は2敗を喫した。その2試合を古賀は「僕のラクロス人生の中で一番後悔した試合です」と振り返る。
けがをした当時の主将に代わり、古賀はスタメンとして試合に出るようになっていた。昨年の九大は主将とオフェンスリーダーが中核を担っていた。古賀は「キャプテンが出られない穴を自分が埋めないといけない」というプレッシャーから空回りしてしまい、力を発揮できないまま試合を終えた。「すごく勝ちたかったのに、うまくいかなかった。だから今年はオフェンスリーダーとして、龍さん(吉本HC)と一緒にいままでにないぐらい戦略を考えて臨んできました」。あのときの悔しさが、古賀の原動力となってきたのだ。
古賀は東福岡高校時代、いわゆる帰宅部だった。望んで帰宅部になったわけではない。野球好きの両親の影響で、小学生のときは地域のクラブチームでソフトボールに親しみ、中学校では野球部に所属していた。チームは地区予選で負けるレベルだったが、古賀自身は真剣に部活に取り組んでいた。高校でも野球を続けようと思っていたが、進学することになった東福岡の特進英数コースの授業は0~8限まで。午後6時すぎまで授業という日々だった。そのため部活は水泳や陸上の個人競技しか認められず、約40人いた特進英数コースの同級生で部活に入っていたのは1人だけだった。
現役で九大に進むと、いろんな部活の新歓に顔を出した。ただ高校時代が帰宅部という負い目があった。「自分でも分かるぐらい筋力が落ちてて、やっぱり高校時代に何もやってなかったのは大きいなって思ったんです」と古賀。それでも熱心に勧誘してきたラクロス部に目がとまった。地元が福岡市中央区六本松の古賀は小さいころ、かつてあった九大六本松キャンパスで学生がラクロスをしているのを見たことがあった。あのときの記憶とともに、大学から始めても楽しめそうなスポーツというところに魅力を感じ、入部を決めた。
戦略的な攻撃の起点として、二人の“狂犬”の手綱を握る
高校時代に部活ができなかった反動からラクロスにのめり込んだが、やはり3年のブランクは大きかった。初めてのコンタクトスポーツに、恐怖心も少なからずあった。そのため「2年生になるころには絶対ベンチ入りしよう」とは心に決めていたが、当時は「スタメンとして第一線で活躍したい」というモチベーションまではなかったという。
古賀は身長167cm、体重64kgとやや小柄だ。筋力への不安から、2年生のときには週1ぐらいの頻度で筋トレもやっていたが、3年生になると、当時の主将の誘いで本格的に取り組むようになった。その効果もあり、1年生のときに40kgどまりだったベンチプレスが、いまでは70kgまで上げられるようになった。「それでも十分じゃないんですけど……」と苦笑い。
パワーが足りない分はテクニックで埋める。吉本HCは古賀のことを「賢くて気持ちが強くて芯がある。シュートも打ててディフェンスもできる、オールラウンダータイプですね。今年に入ってからの成長が著しい選手です」とたたえる。
昨シーズンの最後に最大の悔いを残した古賀は新チームに移行するにあたり、主将の豊永とふたりでチームを支えることを決意。オフェンスリーダーになってからは吉本HCとともに戦略を練ってきた。「田丸と山田という二人の“狂犬”の手綱をうまく握っていこうってのは、今シーズンの始まる前からずっと思ってました。二人とも強いから、僕がうまくアシストできたら」と古賀。最上級生になってからは声を出してチームを奮い立たせることに意識を向け、チームの熱量を上げている。
「チャレンジャー」として早稲田に全力でぶつかる
今シーズンは苦しい試合も多かったが、その中から分かったことがある。「九大はチャレンジャーとして挑んだ方が力を出しきれる」ということだ。「守りに入ってしまうと、どうしても『ボールを持たなきゃ』『絶対決めなきゃ』って気負ってしまって……。だから今日の南山戦も『相手は強いチームだから』というところからしっかり戦術を立てて、チャレンジャーとして挑んだら勝てました」
11月24日の準決勝の相手は、昨年学生日本一の早稲田だ。九大は今シーズンを迎えるにあたって、「全学ベスト4」を目標に掲げていた。それは達成した。しかし吉本HCは言う。「9月に4回目の関西遠征が終わったとき、内々には『関東にも通用するぞ』という思いがありました。我々には失うものはないですし、かなりアグレッシブにいけるんじゃないかな」
選手たちも思いは同じだ。「関東を食ってやりたい、っていうのはずっとありましたね。早稲田はナメてかかってくると思うんで、僕は本気で勝つつもりでいきます」。古賀が、いい笑顔で言った。
準決勝は全学の試合としては初めて九州(佐賀)で開催される。地元九州の応援を背に、九大は早稲田に挑む。古賀と龍さんがこの1年考え抜いてきた戦略で、真のチャレンジャーとして挑むのだ。