筑波大・小澤宙輝 喜びも悲しみも味わった全日本インカレ、ラストチャンスにかける
競技人生において分岐点になる試合がある。筑波大主将の小澤宙輝(ひろき、4年、甲府工)のバレー人生において、大学2年生のときに初めて出場した全日本インカレ準決勝が、まさにそんな試合になった。相手は前年まで3連覇していた中央大だった。
石川祐希擁する中大との激闘、雑念などなかった
当時の中大には、日本代表でも活躍する石川祐希(現パッラヴォーロ・パドヴァ)や大竹壱青(現パナソニック・パンサーズ)、石川とともに星城高(愛知)で6冠を達成した武智洸史(現JTサンダーズ)を筆頭に、高校時代から全国に名を馳せた面々がそろい、「勝ち方」を知っていた。まだ自分は2年生でこの先がある。とはいえここで負けてしまえば、4年生たちと目指してきた日本一に届かない。とくに、毎朝自主練習に付き合って何十本もトスを上げ続けてくれた当時の主将、中根聡太(現ジェイテクトSTINGS)や、「お前は攻撃に専念すればいい」とディフェンス面でカバーしてくれた小池勇輝(現・堺ブレイザーズ)、秦耕介(現サントリーサンバーズ)の三人には、強い恩義を感じていた。
その準決勝。筑波はセットカウント0-2と追い詰められていた。圧倒的に不利な状況にも関わらず、小澤の集中力は不思議なほどに研ぎ澄まされていた。何より、どんな状況でも思いきり打てば決まる気がしていたし、たとえブロックに阻まれようとも、きっと味方がつないでくれる。迷いなく、一切の雑音すら感じることなく、ただ無我夢中にプレーできた。
3、4セットを筑波が取り返し、勝敗の行方は最終セットへ。それまでの激闘を物語るかのように、一進一退の攻防となった。2時間を超える長い戦いに決着をつけたのは、小澤のサービスエースだった。
「本当はストレートの方向を狙って打とうと思ってました。でも当たった場所が悪くて、当たり損ねのようなかたちでクロスに飛んでしまって……。自分でも想像できないような軌道で、それが結果的にラインに乗ってサービスエースになりました。運といえばそれまでですけど、あの試合は本当にすべてがそういう流れでした」
翌日の決勝は早稲田大に完敗し、日本一はつかめなかった。負けた悔しさは当然ある。だが中大に勝った準決勝で得られた満足感は、その悔しさをも上回るほど、小澤にとっては大きなものでもあった。
だからこそ、いま思う。なぜ、あの結果を次につなげられなかったのだろう。もしそのチャンスが残されているとしたら、今度こそ、この全日本インカレがラストチャンスだ、と。
筑波への進学直後、自信が打ち砕かれた
小澤は中学生のころから山梨県選抜メンバーとして全国大会に出場していた。高校は「強い学校を倒したい」と思い、甲府工業高へ。全国大会出場はならなかったが、持ち前の負けん気と跳躍力を生かした攻撃を評価され、大学は関東一部の名門、筑波に進んだ。高校時代からトレーニングの一環で山道を走っていたこともあり、体力には自信があった。だが、その自信は大学入学直後に打ち砕かれた。
「周りのレベルが高いし、練習が想像以上にめちゃくちゃハードで、1年の夏に足の甲を疲労骨折してしまったんです。こんなレベルが高い集団の中でけがまでしてしまったら、『大学では一生コートに立てないかもしれない』って、本気で思いました」
だが、日々厳しくとも根拠のある練習を重ねれば、それだけ力もつく。けがが治ってからは、トレーニングやボール練習を繰り返すうちにテクニックも体力もついた。そして2年生になってからはレギュラーになり、あの全日本インカレも経験した。
攻撃力の高さに評価は高まり、3年生のときには日本代表候補にも選出。8月にはジャカルタで開催されたアジア大会にも出場した。貴重な経験を重ね、レギュラーとして臨んだ2度目の全日本インカレでも日本一を目標にしたが、準々決勝でフルセットの末、東海大に敗れた。
「自分の実力不足です。決めなければならない場面で自分が決められなかった。キャプテンの樋口(裕希、現・堺ブレイザーズ)さんはミドルだったので、後衛になったらベンチに下がってしまう。その分も自分に託してくれたのに、そこで応えられなかった。エースとしての仕事を果たせなくて、本当に悔しかったです」
不本意なラストイヤー、最後こそは
日本一を目指し、厳しい練習を重ねて来た大学生活も、気づけば最終学年になっていた。自分が下級生だったころ、背中で引っ張り、プレーで引っ張ってくれた先輩たちのように、何としてもチームを勝利に導きたい。その思いは誰より強く持っていた。しかし今シーズンの春季リーグと東日本インカレは不本意な結果で幕を閉じ、とくに7位で終えた秋季リーグには強い後悔がある。
「この結果を受けて、来年の春季リーグで後輩たちは上位チームから順番に対戦しなければいけない。それもすべて自分たち4年生、そしてエースである自分の不甲斐なさが原因だと思ってます」
これ以上の悔いを残さぬために、秋季リーグを終えてからは個々のレベルアップに励み、チームとしてもコミュニケーションを取り合いながら課題克服に時間を割いた。どれだけ努力しても、負ければ終わり。トーナメントの怖さも、それまで勝てなかった相手に勝ったときの喜びも、どちらも小澤に味わわせてくれたのが全日本インカレだった。
これが、ラストチャンス。だからこそ誓う。
「とにかく勝ちたい。自分のためではなく、4年間自分たちを支えてくれた人たちのため、そして後輩たちに何かを残してあげるためにも、何としても最後にいい結果を残したいです」
初戦からどんな相手にも全力で向かっていく。ラストチャンスを逃すわけにはいかない。