バレー

特集:全日本バレー大学選手権2019

慶應ダブルエースの富澤太凱、2部降格の悔しさを全日本インカレにぶつけた

「絶対に筑波を倒してやる」。その思いを胸に、富澤(左端)は筑波に挑んだ(すべて撮影・松永早弥香)

第72回 全日本大学男子選手権 第2日

11月27日@港区スポーツセンター
慶應義塾大0(18-25.20-25.18-25)3筑波大

11月25日に全日本インカレが開幕し、大学日本一をかけて64校がしのぎをけずる戦いが始まった。

大会2日目の27日、慶應義塾大は優勝候補の一校である筑波大とぶつかった。4年生にとっては、負ければこれが学生最後の試合となる。慶應副将のオポジット富澤太凱(4年、慶應)は「4年間でいろんなことを経験しました。とくに今年の春に1部から2部に降格した悔しさを、最後のインカレですべてぶつけたかった。だから『絶対に筑波を倒してやる』って」と言い、並々ならぬ決意で筑波戦に臨んだ。

慶應はダブルエースで、筑波は多彩な攻撃で

慶應は主将のマルキナシム(4年、川越東)と富澤のダブルエースで戦う一方で、筑波はバックアタックも絡めた多彩な攻撃を展開。開始早々の連続得点で筑波が主導権をにぎるとそのままリードを保ち、慶應にとっては苦しい状況が続いた。

今年の慶應は富澤とマルキナシム(奥の2番)のダブルエースで戦った

追い上げるには点をとるしかない。「とにかく無我夢中だった」と言う富澤に、1年生セッターの高倉真古都(1年、慶應)はトスを託した。渾身の力を込め、富澤が打ち抜く。第1セットを18-25で先取されたが、第2セットの中盤、11-15の場面で長いラリーを制したスパイクは、会心の一打だった。

「どれも全部が必死の1本で、セッターに上げてもらうボールは1本1本、全部ありがたいもの。その中で1点でも多くとるためにトスを託されるのがオポジット。このポジションができて、僕は本当に幸せでした」

ラグビーの経験でよりダイナミックなスパイクに

富澤は慶應幼稚舎から普通部、慶應義塾高校と内部進学した生粋の慶應育ち。世間一般ではエリートと称されるも、それがバレーの世界になるとまるで違う。

「同じ学年や世代でも、僕はそういう選手が取り上げられている雑誌で見る側。そもそものステージが違うし、歳は下でも同じオポジットの宮浦(健人、早稲田3年、鎮西)選手や新井(雄大、東海大3年、上越総合技術)選手は雲の上の存在だと思ってました」

ラグビーで培ったボディバランスがバレーにも生きている

小学生のころからバレーを始めるも、中学ではラグビー部へ。もともといろいろなスポーツに興味はあったが、「コンタクトスポーツとは違う、チームスポーツの魅力を感じた」と高校からは再びバレー部に入り、全国大会を目指した。ラグビーで培ったボディバランスを生かし、ダイナミックなフォームから放たれるスパイクを武器に戦うも、全国の壁は厚い。だが3年生のときには高校選抜にも選ばれ、“雲の上”だと思っていた選手とも渡り合えたことが自信に変わった。

1部昇格を果たすも、個人的には空回りばかり

大学入学後も目標は「強いチームに勝つ」こと。入学時は2部リーグに属していた慶應を1部に昇格させる。それが富澤にとって、大きなモチベーションとなった。

「今年こそ」と手応えを感じていながらも、入れ替え戦に出場する権利すら得られなかった年もあるし、権利を得ても勝てずに負けた年もある。だからこそ、2年生の秋季リーグ終了後に入れ替え戦を制し、1部リーグ昇格を果たした喜びはひとしおだった。「うれし涙も、悔し涙も大学の4年間で両方味わった」と富澤は言う。

1学年下には慶應義塾高で春高出場を果たした後輩もそろい、戦力に厚みも増した。自分たちも十分戦える。そんな自信がつき始めた矢先の今春、1部リーグ最下位に沈み、秋季は2部に降格した。

「こんなに強い後輩たちがいるんだから、2部へ落とすわけにはいかない。そう思ってたけど、個人的には空回りばかりで、最後まで迷惑をかけました」

強い後輩に引っ張られ、ここまで戦えた

悔いだけを残して終わらぬために。富澤は「最後の全日本インカレで何としても勝ちたい」「とくに同じ関東1部リーグで戦うチームに一つでも多く勝ちたい」と、誰よりも強く意気込んでいた。

強い後輩たちの存在もまた、富澤の力になった

迎えた全日本インカレでは大阪体育大との1回戦を勝ちきり、筑波との2回戦に臨んだ。筑波に追いついても、また突き放された。一時はリードする場面もあったが、20点以降の勝負強さは相手が上だった。

慶應は富澤、マルキ、3年生の吉田祝太郎(3年、慶應)を攻撃の軸に追い上げるも、1セットを奪えず、3-0で2回戦敗退。「とにかく悔しい」と富澤は肩を落とした。それでも最後に伝えたかった感謝は、ほんの少しだが、コートで示せた。

「周りの人から見れば、4年生のダブルエースと思われていたかもしれないですけど、実際は強い後輩に引っ張られて、僕たちはここまで戦えた。後輩に何かを言えるような振る舞いは何一つできなかったし、『頑張れ! 』ぐらいしか言えません。でも、たとえ2部からの苦しいシーズンでも自信を持って。折れずに戦ってほしいです」

負けたことは悔しいけれど、悔いはない。かけがえのない仲間たちと重ねた年月、慶應のプライド、誇りを胸に。新たなステージへ歩み出す。

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