大学サッカー

法政大・下澤悠太 「努力の天才」が膨大な積み重ねの末につかんだプロの道

下澤は試合で活躍できる機会は決して多くはなかったが、ぶれることなくトレーニングを重ねてきた(撮影・杉山孝)

法政大学サッカー部からは、今年7月に在学しながらプロに転向した上田綺世(あやせ、3年、鹿島学園)を別にしても、現時点で5人のプロ入りが決まっている。Jリーグクラブを撃破した天皇杯での活躍が追い風になった選手もいる。その中で、MF下澤悠太(4年、柏レイソルU-18)は独自の道を歩み、J3のブラウブリッツ秋田からのオファーを引き寄せた。

法政大3年・上田綺世の未完の野心 大学サッカーに育まれ、前倒しでJ鹿島へ

“就活”の舞台に立てなくても

今年の法政は総理大臣杯と関東リーグのタイトルを明治大に譲っている。一方、プロアマ混在で日本一を争う天皇杯では、古豪の東京ヴェルディ、ワールドカップ経験者もいるガンバ大阪を連破して16強に進出。選手たちはこの舞台での活躍でプロ入りをつかみたいと公言していた。実際、東京ヴェルディ戦で得点した松澤彰(4年、浦和レッズユース)がカターレ富山に決まった。

下澤はというと、その“就活”の場となる天皇杯4試合で、2試合はメンバー外、2試合はベンチを温めて終わった。それでもプロクラブからオファーを受け取った事実は、試合での活躍に勝るとも劣らぬ価値がある。

「努力の天才」。法政の長山一也監督は、下澤をそう評する。試合に出る機会は下級生のうちからあったが、主力に定着するには至らなかった。3年生となり7番をもらっても、ベンチを脱しきれない。最終学年になって10番をつけたが、中盤の底ではハイレベルなポジション争いが繰り広げられ、下澤はライバルの出る試合を見つめる日々が続いた。

それでも「ぶれることなく常にトレーニングをしてましたし、その積み重ねがプロクラブの練習に参加した際に、評価を得ることにつながったのでしょう」と長山監督。出場機会は少なくても、監督は下澤の成長を認めていた。

法政大からは来シーズンより、5人の選手がプロに進む(撮影・杉山孝)

得た知識はブログでアウトプットし、自分のものに

名門アカデミーの柏U-18でプレーするだけでも大変なことだが、トップチーム昇格には至らなかった。下澤は「平均的で武器がないと言われたし、それは自分でもちょっと感じてました。活躍するためにもう一つ必要な武器を、大学に入って身につけようと取り組んできました」と振り返る。

狙いを定めたのが、キックの精度向上だった。「フリーキックの練習はずっと積み重ねてきました。公式戦で何本も決めたという実績はないんですけど、練習試合でも結構納得のいくようなボールが蹴れるようになってきました」と、手応えをつかんでいる。

ただし、ガムシャラに努力するだけではない。本当に自分のものにするため、かみ砕いて、吸収してきた。たとえば自分にスピードがないと認識すると、ただ走り込むのではなく、法政の経済学部で教鞭(べん)をとっている陸上短距離の元日本代表選手、杉本龍勇教授に連絡をとって、走り方を教えてもらった。

特異と表現してもおかしくないのが、3年続けているブログだ。ツイッターを愛用する選手は多いが、ブログは珍しい。しかも内容がかなり独特だ。「脱水症状に関するメモ」「睡眠の質が低い人に共通する足りない栄養素」など、マニアックなタイトルが並ぶ。

先輩にならって2年生のときにブログを始めてみると、考えるという作業に魅了された。ネタを探すために、インターネットや本を通じて情報を集めた。「自分の成長のためになるものをインプットするだけではなくて、ブログを通して考えをアウトプットすることで自分のものにしよう、とシフトチェンジしました」。分解した栄養素を再構築することで、さらに効果的に血肉に変えた。

海外志向の同世代に触発されて

サッカーもまた、研究の対象となり得る。「分析まではしませんけど、『このプレーは使えるな』という目で常に見てます。毎日最低1試合は見る時期もありました」と、国内外問わずに材料を採取した。とくに気に入っているのは、ワールドカップも制したアンドレス・イニエスタやシャビ、ダビド・シルバといったスペインの選手たち。自分と同じく小柄でも世界の頂点に君臨した名手たちに、成長のヒントを探る。

スペインは学生生活にもつながっている。「社会的な問題を学びたいと思って社会学部を選んだんです」。テロや貧困をテーマに、ゼミで学んだ。「それに法政の社会学部は、英語とは別にスペイン語も学べるので」。夢はさらにつながっていく。

柏U-18時代、周りには海外志向の強い選手が多かったという。昨年日本代表に選出された1学年先輩の中山雄太は現在、オランダでプレーする。同期の二人、伊藤達哉はトップチームではなくいきなりドイツ行きを選択し、安西海斗は今年1月にポルトガル1部リーグのクラブへ移籍した。「来シーズンしっかり試合に出てJ3優勝に貢献して、上のチームからオファーがあればいってみたいです。海外では22歳というのは若くないと思うので、もし少しでもチャンスがあるなら海外でもやってみたいです」

来シーズン、まずは試合に出場し、ブラウブリッツ秋田のJ3優勝に貢献したい(撮影・安本夏望)

努力家という評価に、本人は首をひねる。「人の数倍以上は積み重ねをしてる自信はあるんですけど、自分の中では『努力してる』という気持ちはなくて。とにかく自分の成長のためには、いまやってることは当たり前だよね、という感覚で取り組んできたので、別に苦でもないんですよ」。だが、評価をするのはあくまで自分以外の人間だ。4年間見守ってきた長山監督は「下澤の後輩たちに『それ相応の取り組みをしてきた選手には、それだけの結果がついてくるんだよ』という話をしてあげられます。いいモデルになると思います」と、表には出なくても輝いていた下澤の4年間をたたえた。

卒論のテーマは「大学サッカーの集客」

学業にもしっかりと取り組んできた。3年生になる前には、あらかたの単位を取り終えた。現在残しているのは、卒業論文くらいのものだ。

卒論のテーマは「大学サッカーの集客」。多くのプロ選手を輩出する大学サッカーなのに、足を運ぶ人は多くないのはなぜか。そもそも大学サッカーへの興味が薄いため。自分たちと一般の学生とのつながりが希薄であることも大きな要因である。そうやって、下澤は頭を回転させ続ける。

加入するブラウブリッツ秋田は、J2昇格を目指している。昇格には地域の盛り上がりも欠かせない。今年のJ3で、秋田の1試合平均入場者数は18チーム中12番目の1590人。改善の余地は大いにある。「集客はどの会社にとっても絶対に必要なものだと思います。だからまたいろいろ考えられたらおもしろいかなと思ってるんです」

公式戦のピッチの上だけではなく、もしかしたらときには目に見えない形で。大学時代で積み重ねた日々は、必ずや社会人生活にも生きるはずだ。