「将来のため何が必要か、4年間で気づいたもん勝ち」中山雅史(下)
輝かしい舞台で躍動するプロアスリートの中には、大学での4years.で花開いた人たちがいます。そんな経験を持つ現役プロや、元プロの方々が大学時代を中心に振り返る連載「プロが語る4years.」。第6弾は「ゴン中山」ことプロサッカー選手の中山雅史(52)さん。2回の連載の後編は50歳を超えても現役を続ける中山さんの思いと大学生へのメッセージです。
大学4年間の中で考え、大人になっていく
中山さんにとって、自由な雰囲気に満ちていた筑波大蹴球部での4年間は貴重な時間だった。「そこまで強制されず、大人の扱いも受けるし、リスペクトもされる。そんな中で誰が律するかと言えば自分自身しかいない。周りにはいろんな人がいてアドバイスも受けられたと思うけど、自問自答しながら成長できたと思ってます。この4年間で日本サッカーリーグで戦い抜く自信をつけさせてもらいました」
いまの時代、高校からそのままJリーガーになるという道もある。中山さんは大学サッカーを経由する意義や意味について、こう語る。
「大学の4年間の中で大人になるというか、いろんなことに関してしっかりした考えを持てるようになると思います。その4年間にはいろんな選択肢や可能性があり、試せる場があると思うんです。『こうなりたい、ああなりたい』と思ったら、自分で行動するしかない。当時はプロリーグがなかったですし、僕も大学時代はゆるい生活をしていたと思います。ただ卒業後もサッカーを続けていくんだという自覚はあった。(卒業後に)何をするか、そのために(学生時代に)何が必要か、気づいたもん勝ちだと思います」
引退後に「もっとこうなりたい」と欲が出た
そんな中山さんは2012年に引退を表明したが、15年にJ3のアスルクラロ沼津で現役復帰を果たした。「札幌で現役を1度終えたあとに、ずっとリハビリをしてました。その過程で『もっとこうなりたい』という欲が出てきたんですよ。でもやっぱり、いちばんは『楽しくサッカーがやりたい』という思いですね。だんだん動けるようになったら『もっとレベルの高い動きがしたい』という考えになっていきますから」
そう思っていた矢先、日本代表のコーチやU-23日本代表の監督などを歴任した山本昌邦さん(61)が運営会社の会長を務めるアスルクラロ沼津から、声をかけてもらった。「山本さんから『リハビリを兼ねて、うちでトレーニングすればいいんじゃない? 』という話がありました。まだリハビリをしてて、欲を言えば試合に出たいという気持ちもあります。常に自分に挑戦しているという部分がありますね」
中山さんにとっては、自分より1学年上ながら、いまも現役として試合に出ている三浦知良さん(横浜FC、52)の存在も大きい。「カズさんの挑戦と僕自身の挑戦は全然違うものだと思ってるんですが、『こんなにやれてるんだ! 』とすごく刺激を受けてます。自分の年齢でも、体を動かすことに苦しさもあります。そういった苦しさを味わいたくはないけど、味わえている幸せもあります。試合に出てゴールを決める。そこに至るまでにとてつもなく長い段階を踏まないといけない。自分をどう高めていくかが勝負だと思います」
48歳で現役復帰して以降、中山さんはまだ公式戦に出場できていない。それでも現役を続ける中山さんが大事にしている言葉は「前進あるのみ」、そして「龍驤虎視(りゅうじょうこし)」だ。龍驤虎視は威勢のある者が世の中を威圧して見渡すという意味の言葉で、藤枝東高(静岡)時代に高校選手権に出場する際、クラスメートが横断幕に書いてくれたそうだ。サッカーを続けて、いずれは日本のトップに立つという強い思いが込められた言葉だった。
目標に向かうとき、苦しいのは当たり前
最後に、大学スポーツ、大学サッカーに取り組む後輩たちへのメッセージをお願いした。
「いろんな苦しさ、いろんな厳しさがあるかもしれないけど、それは当たりのことです。自分の目標に向かっていく中で、それを当たり前のものとしてとらえられるかどうか。そう思えれば、継続する力に変わっていくはずです。だからこそ、もう一人の自分をつくって、自分はいまどう行動できているのか、どういう考えがあるのか、自分で考えて自分で発信してもらいたいなと思います」
中山さんの主張は常に一貫していた。「自分を見つめ、自分から行動を起こす」。それができるからこそ、人は成長できる。52歳で現役を貫く中山さんもまた、挑戦を続けている。