野球

特集:2020年 大学球界のドラフト候補たち

首都2部のスピードスター、目指すは同じ右打ちのロッテ荻野 獨協大・並木秀尊

手動計時とはいえ50mを5秒32とは驚きだ(試合の写真は提供・獨協大硬式野球部)

新型コロナウイルスの感染拡大で、大学野球の春のリーグ戦は全国的に開幕が遅れています。晴れ舞台を待ちわびる選手たちの中から、この秋のドラフト候補を紹介します。並木秀尊(ひでたか、当時3年、市立川口=現・川口市立)の名がプロのスカウトたちに知れ渡ったのは、昨年1130日のことでした。

大学ジャパンの候補合宿で俊足を披露

並木は首都大学リーグ2部に所属する獨協(どっきょう)大の外野手。昨年1130日から3日間、松山市で開かれた侍ジャパン大学代表選考合宿に参加した。その合宿初日にあった50mダッシュのタイムトライアルで、並木はトップの記録をたたき出したのだ。

中大の五十幡にタイムで勝ち、「自信になりました」

「ここが一番のアピールどころかなと思ってました。周りからも『五十幡(いそばた)とどっちが速いんだ?』みたいに言われてたんで」と並木。彼が名前を挙げたのは、中央大の五十幡亮汰(現4年、佐野日大)だ。アマチュア球界ナンバーワンの俊足と評される左打ちの外野手。五十幡は中学時代、陸上競技の全国大会に出場し、100m200m2種目で優勝している。その大会には、現在100mの日本記録保持者であるサニブラウン・ハキーム(アメリカ・フロリダ大)も出場しており、サニブラウンが有名になるにつれ、五十幡も「サニブラウンに勝った男」として語られるようになった。

その五十幡に、並木は50m走で勝った。「といっても手動計時でしたし、一緒に走って勝ったわけじゃなくて、一人ずつ走っての計測でしたから……」と謙遜しながら、「でも自信になりました」と語った。

プロでもトップレベルの一塁到達タイム

獨協大では2年生の春にレギュラーの座をつかみ、3年生の春と秋は2シーズン連続で首都2部のベストナインに選ばれた。昨秋までリーグ戦は計38試合に出場し、通算22盗塁。昨年は春に8試合で7盗塁、秋も6盗塁と走りまくった。

こうやって足で球場を沸かせてきた

内野ゴロの際の一塁到達タイムは、プロでも43を切れば俊足と言われるが、並木は常時これをクリアする。バントだと4秒を切ってくる。しかも、並木は右打ちだ。右打席からだと左より約1歩分ほど一塁ベースまで遠くなる。右バッターでこのタイムは、プロでも上位に入るレベルのスピードだ。

市立川口高校時代は埼玉大会の3回戦進出が最高成績だった。当時の埼玉には同学年に高橋昂也(投手、花咲徳栄~広島)、岡崎大輔(内野手、同~オリックス)らがいた。隣の栃木では五十幡の韋駄天(いだてん)ぶりも話題になっていた。「どちらも遠い存在でした。五十幡のことも知ってました。中学時代の友だちが佐野日大のサッカー部にいて、『野球部にすごく足の速いやつがいる』って聞いてました。五十幡が陸上で優勝したときの動画も見たんですけど、『こんなヤツにはかなわない』と思って見てました」。並木は高校時代をこう振り返った。

昨年は首都2部の春秋のリーグ戦16試合で13盗塁と走りまくった

自分たちで考える獨協大の環境がよかった

3の夏の埼玉大会を終え、進学先を考えた。両親ともに教員という家庭で育った並木は、勉強にも野球にもしっかり取り組めて教職課程を履修できる大学を希望した。市立川口の長井秀夫監督(現・総監督)の勧めもあり、獨協大への進学を決めた。獨協大の野球部には寮がない。並木は草加市内の自宅から電車で草加市のキャンパス、越谷市の野球部グラウンドへ通っている。「体育会特有の厳しい上下関係みたいなのがなくて、自分たちで考えて野球に取り組む獨協の環境が自分に合ってたと思います」

亀田監督(右)は並木(左)の性格を「プロ向き」と評する(撮影・小川誠志)

かつて東北福祉大と日本通運で内野手としてプレーした亀田晃広監督は、並木の可能性についてこう話す。「右打ちでこのスピードというのが魅力ですよね。プロでやれると思います。性格もプロ向きなところがありますし。バッティングの感覚というのは、上のレベルにいって高いレベルの投手と対戦すればするほど、ついてくるものですから。足だけじゃない、並木の運動能力、ポテンシャル、それらを考えると、まだまだ伸びると思いますよ」

俊足の選手は、コツンと当てて転がして内野安打を狙う「走り打ち」になりがちだが、並木は強く振る意識を大事にしている。目標にしている選手は昨年のパ・リーグでベストナインとゴールデングラブ賞に輝いた右打ちの外野手、荻野貴司(ロッテ)だ。

高いレベルを肌で知り、見えた課題

315日、獨協大学野球場であった東北公益文科大とのオープン戦には、10人を超えるスカウトが視察に訪れた。並木にとってちょっと前まではテレビで見るものだったプロ野球の世界が、手の届きそうな位置にまで近づいている。「もっと力強く振れないといけないし、変化球への対応も課題です。守備に関しても、足をもっと生かせるようにしたい。肩に関しても、正確性、捕ってからの速さ……と、細かいところを追求していかなければいけないと思います」。並木は自身の課題を次々と口にする。代表候補の合宿で高いレベルを肌で知って、自分に足りない点が見えてきたのだ。

不運なことに、この春のリーグ戦後の入れ替え戦は開催されなくなった

獨協大はここ数年、首都2部で上位にいながら1部昇格を果たせずにいる。昨秋は順位決定戦で桜美林大に敗れ、その桜美林大が1部最下位の大東文化大を入れ替え戦で破って1部昇格を決めた。「1部でプレーするために、この春がラストチャンスです」と意気込んでいたが、このほど、この春のリーグ戦は日程を短縮して621日に開幕し、入れ替え戦は不開催に決まってしまった。

陸上という選択肢はなかった

 取材の最後に聞いてみた。これだけの俊足なら、陸上競技をやってみようと思ったことはないんですか? 「なかったです。やっぱり野球が第一、最優先でやってきたので。陸上っていう選択肢はなかったですね」 

とはいえ、妄想してみたくもなる。

オリンピック、あるいは世界陸上の男子400mリレー決勝。スタジアムには満員の大観衆。日本の第一走者である並木秀尊は好スタートを切り、中盤からもぐんぐん加速して第二走者のサニブラウンにバトンを渡す。サニブラウンはバックストレートで快走し、第三走者の桐生祥秀へつないだ。アンカーは五十幡亮汰。日本のバトンパスはノーミス。アメリカとジャマイカには細かいミスが出た。五十幡にバトンが渡ったところでトップは日本!  追い上げるジャマイカ、アメリカ。逃げる五十幡。五十幡がトップでゴールに飛び込んだ! 

その足でプロへの道を切り開けるか(撮影・小川誠志)

そんな話をすると、並木は「ハハハ」と笑いながら、右手を横に振った。まあ、並木秀尊と五十幡亮汰という同学年に生まれた逸材ふたりを、野球界が手放すわけがないか。韋駄天たちのダイヤモンドでの躍動を想像しながら、なかなか近づいてこない開幕を待つとしよう。

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