ラグビー

王座奪還の気持ちは同じ! 練習再開の明治大学ラグビー部支える学生トレーナー

大所帯の明治大学ラグビー部を支える3人の学生トレーナー(撮影・すべて斉藤健仁)

明治大学ラグビー部は、3カ月の自粛期間後の7月14日から東京・八幡山での全体練習を再開した。昨年度の全国大学選手権決勝は新しい国立競技場で、ライバルの早稲田大学に涙をのみ、「今年こそは……」と王座奪還に燃え、午前と午後に分かれて汗を流している。

選手と同じ目線で厳しいことも言える学生スタッフ

明治大の部員は100人を超えており、選手は全員、専用の寮で生活している。ただ、監督やコーチといったスタッフだけではとても全員に目が届かないため、学生のマネージャーやコーチ、アナリスト、そしてトレーナーといった現役の大学生がサポートする。田中澄憲監督も「裏方の学生がいるといないのでは全然違う。選手と同じ目線で厳しいことも言えますし、支えてもらっています」と目を細めた。

グラウンドで、大きな選手の間をところ狭しと走り回り、練習の合間に選手たちに給水しているのが学生トレーナーだ。「はるか」こと4年生の角谷悠(かくたに・はるか、大阪桐蔭)、「ぶんちゃん」こと3年生の山本文音(あやね、國學院久我山)、「ゆま」こと2年生の佐賀優真(國學院)の3人である。

選手より早く午前5時半集合

3人の朝は早い。明治大は通常午前6時半から朝練習を行なっているため、選手が飲む水やスポーツドリンクの準備は必須で、3人は同5時半に集合している。山本、佐賀は自転車で通い、「朝がつらすぎて……」と角谷は2年生の時から練習場の近くに引っ越した。練習中にもしケガをした選手が出た場合は簡単なケアを行い、練習後も選手から求められればリカバリーのサポートをするときもある。

キャプテンの箸本龍雅(4年、東福岡)は「選手は午前か午後のグラウンド練習に1回しか参加しませんが、(学生トレーナーは)コーチ同様に2回出てくれているし、彼女らがいないと練習が成り立たない。自分の時間もラグビー部にかけてくれている。学生スタッフのおかげで自分たちもラグビーに真剣に取り組めている。いつも助かっています」と心からの感謝の言葉を口にした。

大男に囲まれながら忙しく動き回る角谷トレーナー

3人3様のトレーナー志望理由

朝練習と、授業がない土日祝日の練習は3人全員が出席し、シーズン中、日中に練習がある場合は大学の授業が優先のため、話し合ってひとりは練習に顔を出すように調整しているという。ただ明治大にはスポーツ学部があるわけでもないため、学生トレーナーの3人は将来、プロのトレーナーを目指しているわけではない。

小学校から高校まで剣道に精を出していた角谷は指定校推薦で明治大に決まると「大学はラグビーだな」と思い、中学校時代から知り合いだった高校の先輩・喜連航平(近畿大学→NTTコミュニケーションズ)経由で、電話で明治大の梶村祐介(サントリー)を紹介されて「そのまま入部をさせられました」と苦笑した。

高校まで柔道部だった山本トレーナー

高校まで柔道部で、AO入試で合格した山本は「中高は周りの人に支えてもらった。ラグビー部といっしょに補強(筋力トレーニング)していたので」と大学ではラグビー部をサポートする側を選んだ。またクラシックバレエをしていた佐賀は、入学当初はサークルのマネージャーをしていたが、「もっとガチの仕事がしたい」と思っていたところ、たまたま文学部の授業で同期のラグビー部員3人と知り合い、1週間の体験を経て入部を決めた。

学生トレーナーをしていて良かったことを聞くと、角谷は「大学選手権で優勝したときはめっちゃ嬉しかった! 選手たちが泣いているのが止まって見えました。また一生付き合っていくだろう同期、仲間も20人ほど得られましたね」と胸を張った。山本は「(昨年度は)勝てなかったですが新国立競技場のグラウンドレベルに立てて感動しました。また、そっけない同期の選手に『いつもありがとう』と言われるとここにいてよかったと思います」。佐賀も「練習後のケアとか選手に頼られると嬉しいですね!」と笑顔を見せた。

「もっと仕事が回せるように」と言う佐賀トレーナー

ただすべてのグラウンド練習に対応するため、アルバイトをしたり旅行に行ったり、友人とご飯を食べに行ったりという普通の大学生が体験するだろう時間はほんどない。3人とも勉強との両立の精一杯の毎日で、佐賀は「オフのありがたみがわかります」としみじみと語った。その一方で、4年生の角谷は「ときには選手から厳しい言葉をかけられることもありますが、社会に出ても何があっても折れないメンタルの強さを学生トレーナーだから得ることができましたね」と話す。

明治大のラグビー部員たちは、現在大学の授業はオンラインで、基本的に電車に乗ってどこかに出かけることはなく、八幡山から出ない生活を送っている。そのため、角谷は「(八幡山に)外から入ってくるのは私たち学生スタッフなので、(新型コロナウィルスを)持ち込まないように細心の注意を払っている」という。もちろん、手洗い・うがいの徹底や検温などは常時、行っている。

受け継がれるトレーナー魂

今シーズンの目標を聞くと最終学年の角谷は「4年生なので集大成ということになると思いますが、やはり同期と一緒にまた優勝したいですね! 学生トレーナーとしては後輩2人に仕事を引き継いで、いつの間にかいなくなったと言われたいですね」と語気を強めた。

後輩の山本が「はるかさんがいなくなるまでに吸収できることを吸収して、チームが日本一に返り咲けるように、できることを精一杯やりたい」と言えば、佐賀は「やっぱり優勝を見てみたいですね! また、もっと仕事が回せるように、いろんなことに気づけるようになっていきたい」と先を見据えた。

王座奪還に3人の力は欠かせない

学生トレーナーの3人も含めて学生スタッフは決して表舞台に立つことはない。ただ夏の暑い日も冬の寒い日も雨が降っても、黒衣となって部員を支えるチームの一員であり、王座奪還の思いは選手たちと変わらない。角谷、山本、佐賀の3人は今日も選手たちのためにグラウンドを走り続けている。

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