陸上・駅伝

田中希実「無我夢中だった」、セイコーGGPで14年ぶりの女子1500m日本新記録

1発勝負の女子1500m決勝で、田中は14年ぶりとなる日本新記録を樹立した(写真提供:フォート・キシモト/日本陸上競技連盟)

セイコーゴールデングランプリ陸上2020東京

8月23日@東京・国立競技場
女子1500m決勝
1位 田中希実(豊田自動織機TC) 4分05秒27(日本新記録)
2位 卜部蘭(積水化学) 4分11秒75(自己ベスト)
3位 萩谷楓(エディオン) 4分13秒14(自己ベスト)

5月に開催予定だったセイコーゴールデングランプリ陸上2020東京が8月23日、新装された国立競技場で実施された。「無我夢中だったので、レース自体は記憶がないんですけど、走り終わってみると日本記録を出せていて……。日本記録を出せる練習はできていたんですけど、改めて記録を見てとても嬉しくて安心している気持ちです」。14年ぶりとなる女子1500m日本新記録となった自身のレースを、田中希実(豊田自動織機TC/同志社大3年、西脇工)はそう振り返った。

小林祐梨子さんからも「私の記録を抜いてほしい」

田中は7月8日にあったホクレンディスタンスチャレンジ深川大会女子3000mで8分41秒35を記録し、18年ぶりに日本記録を更新。その4日前にあった士別大会では女子1500mに出場し、4分08秒68と小林祐梨子さんが持つ日本記録(4分07秒86)に迫っていた。ゴールデングランプリでこそは日本記録を更新する。田中はレース前に小林さんと話をする機会があり、小林さんからも「私の記録を抜いてほしい」と言われ、思いを強くしたという。

ゴールデングランプリは決勝1本での勝負。ホクレンに向けてスタミナや技術力を高めてきたが、ゴールデングランプリではそれにプラスして、どんな展開でも対応できる練習に取り組んできた。田中自身、日本記録を出せるだけの練習を重ねてきたという自負はあったものの、この1本のレースで日本記録を出さないといけないと考えると、緊張や不安は募っていった。

1本の勝負で結果を出す精神的な強さ

そしてレース本番、田中はスタートしてすぐに先頭に立ち、その後ろにはヘレン・エカラレ(豊田自動織機)と昨年の日本選手権覇者である卜部蘭(積水化学)が続いた。最初の400mを66秒で入り、800mでも2分12秒とイーブンペース。残り1周で2位に上がってきた卜部が先行する田中との距離を詰めようとするも、次第にその差は開き、そのままフィニッシュ。3位の 萩谷楓(エディオン)も自己ベストというハイレベルなレース展開となった。

田中(先頭)は1周66秒のイーブンペースで走るも、「ただただ無我夢中だった」と振り返る(写真提供:フォート・キシモト/日本陸上競技連盟)

卜部も今大会で日本新記録を狙っていた。「同じレースで日本記録を更新されたので、距離感とかを肌で感じられることもありましたし、そこを巻き返していくことをこれからの練習で意識しながら、日本選手権では2連覇したい」と卜部は悔しさをにじませながら、コメントした。

振り返ってみれば、田中がレースをコントロールするという展開だった。しかし田中は「今日はレース前にトラブルもあったので、頭が真っ白になったというか無心で走っていたので、とくにそんなコンスタントに(1周)66(秒)で回っていたという意識も、レースをコントロールしていたという意識もなくて、ただただ無我夢中だった」と振り返る。それでも1本で結果を出すという精神的な強さは、このレースを経て自らの成長として感じられたと言う。そして「祐梨子さんにもうれしい気持ちを伝えたいと思っています」と笑顔で答えた。

今回のレースで「精神的な強さがついた」と田中(写真提供:フォート・キシモト/日本陸上競技連盟)

「自分の感覚に任せて走っていたらそうなった」と言う田中の今後の走りにも、期待せずにはいられない。

in Additionあわせて読みたい