東海大・両角速監督 選手の自主性を信じ育て、全日本と箱根ではともに頂点を
昨年度は全日本大学駅伝で16年ぶり2度目の優勝、箱根駅伝2位だった東海大学。今年は「大学駅伝三冠」を目標に新チームを始動したものの、コロナ禍で例年にないシーズンとなった。ここまでの取り組みと今後目指すものについて、両角速(はやし)監督にうかがった。
大学のルールを守り、選手の自主性を信じた自粛期間
4月7日に緊急事態宣言が発令されてから、両角監督はまず選手の保護者に対してどうするか? と投げかけた。帰省させたい、残してほしいそれぞれの要望があり、チーム全体での活動は停止となった。その中でも主力といわれる選手は寮に留まる者が多かった。
「操作したわけでもなんでもなくて、良しとしたわけでもないんですが……4年生はこういう状況であっても最後の1年には変わりないので、仲間意識を確認するように残ったのかなと。学生の気持ちは親御さんにも伝えていたと思うので、決して命より競技が優先されてはいけないかなとは思いましたが、それぞれの理由で寮に残りましたね」
寮に残った学生たちについては、良識の範囲内で練習メニューを与えるなど、最低限の指導に留めたという。どうしても学生の自主性やそれぞれの意識に頼ることが多かったといい、「学生自身も自分と向き合う時間が多くなったのでは」と両角監督は言う。「いつも言っているんですが、自分を一番見て管理できるのは自分自身だよと。監督が見てる前でできても、それ以外でできなかったら意味がないよと言っているんです」
大会が次々と中止になり、先が見えない中で選手にかけたのは、「いずれ終息はするだろうし、しかるべき大会も開催されるであろうから、きちんと準備しなさい」という言葉。自分たちだけでなく、世の中全体がそうなので受け入れていたのでは、はっきりと目標が見いだせない選手はいなかったのでは、と振り返る。だがやはり、6月になり全体で集合した時に感じたのはトレーニング不足だ。特に走っているだけで周りからなにか言われるような時期があったこともあり、充分に走れる環境ではなかった、と選手をおもんばかる。
両角監督の耳には、他大学の状況も入ってきていた。普段と変わらず練習をしているということを聞くと、焦ることもあった。「私自身の立場としては、学生を預かっていますので。まずは命、健康が大事で、競技の優先順位は下がります。大学の教員でもあるし、大学のルールはきちんと守っていこうと」
レース開催には「ありがたい」
今季初めてのレースは7月11日の東海大記録会となったが、タイム的には目覚ましい活躍をした選手はいなかった。両角監督も「正直いい走りの者は少なかった」と言いつつも、「日々彼らが過ごしてきた状況を見るとこれが精一杯なのかなと」。一方で、選手たちの試合への飢えのようなものも感じ取ったという。「思うような走りができていない者がほとんどでしたけど、ユニフォームを着て走る喜びのようなものはあったんじゃないかなと思います」
今回、学校の場所などによっても状況が異なるこの現状に、「不公平だな」と感じたとも言う。「ある意味スポーツは公平な状況でやるべきだと思うので、『ヨーイドン』をした時にこれは本当の勝負なのかな、ということをすごく感じました。合宿をやっちゃいけない大学もある中で、公平感に欠けるな、それでもやるんだ、というのが思うところですね」。しかし一方で、大会が開催に向けて動いていることに関しては「すごくありがたい」とも言う。「皆さんが大会開催に向けてご尽力なさっていて、学生もそれに向けて希望を持てる。1年越しで努力していますから、やはりありがたいなと感じますね」
この状況で感じる4年生のたくましさ
いま、チームで一番伸びている選手は? と聞いてみると、4年生の塩澤稀夕(きせき、伊賀白鳳)、名取燎太(佐久長聖)、西田壮志(九州学院)の3人の名前をあげてくれた。「名取、塩澤、西田は都大路1区の1~3番でもありますけど、1つ上の代が注目されてる分、これまでは甘えてるような雰囲気がありました。こういう状況で彼らの『やらなきゃ』っていう気持ちが見えて、たくましくなったかなと。練習も引っ張ったりとか、こういう中でも淡々とトレーニングをこなしていました。主力という観点から言えば、競技力を目覚ましく伸ばせたというわけではないんですが、精神的に非常に成長しましたね。試合が少なくなった分、1回1回の練習を大事にするようになってきたかなとも思います」。3人ともけがの多い選手で離脱することも多々あったが、それもなくなったことに最上級生としてのたくましさを感じているという。
改めて、チームの目標をうかがった。新チームに切り替わった時に立てた目標は「3大駅伝、3つ獲るぞ」。出雲がなくなったことは皆残念に感じているが、今は切り替えて全日本大学駅伝、箱根駅伝ともに優勝するという気持ちで練習に取り組んでいる。「去年は黄金世代もいましたが、主要区間は(現在の)4年生が走ったから、ある程度はいけるだろうと考えています」
過去の選手たちがなし得なかった偉業を達成することができるか。