陸上・駅伝

特集:第52回全日本大学駅伝

名大・國司寛人 9回目の全日本大学駅伝選考会を終え、後輩たちに笑顔でエール

博士課程3年生の國司(中央)にとって今年の東海地区選考会は9回目の挑戦となった(撮影・松永早弥香)

9月22日に行われた全日本大学駅伝の東海地区選考会は、名古屋大学大学院工学研究科の博士課程3年、國司(くにし)寛人(富士)にとって9回目の舞台となった。このレースを走ると決意したのは2週間前。10000m3組目に出走し、記録は30分34秒06。「安全策というかちょっと消極的なレースをしてしまったんですけど、最後は愛工大のエースに勝ち切ったので、まぁ評価はできるかな」。自身最後の選考会を笑顔で終えた。

実験漬けの毎日、隙間に走って何とかレースへ

國司は東海学連選抜で過去に5回、伊勢路を走っている。例年、東海地区選考会とは別に東海学連選抜チーム選考レースが設けられ、そこでの結果で國司は出場権を獲得してきた。しかし今年は新型コロナウイルスの感染拡大を考慮し、日本学連選抜と東海学連選抜が中止となった。東海地区の選手が本戦に出場するには東海地区選考会を勝ち抜くしかない。

今年、東海地区は2枠から1枠に減り、その1枠をかけて13校が挑むという状況。10000mで29分35秒83の記録を持つ國司はチームトップの実力者ではあったが、これからのチームのために、後輩たちに出走を譲ろうと考えていた。だが、後輩から「走ってもらえませんか」と声をかけられ、自分が走ることで少しでもチームに貢献できるのであればと考え直し、調整を始めた。

博士課程3年の國司は博士論文を控えた実験の最中にいた。部の練習とはスケジュールが合わず、実験の隙間を見て夜に走り、そのまま研究室に戻ってはご飯を食べながらまた実験。終わるのはいつも日付が変わった後だ。「生活のリズムが崩れてしまって、朝練もできなくなりました。なかなかタフな毎日です。もう若くないのでそういう生活はきついですね」。8月に27歳になった國司は、苦笑いを浮かべながら実情を明かした。それでも後輩からの依頼は素直にうれしかったと言う。選考会前日が締め切りだった研究発表のリポートを提出し、レースへと気持ちを入れ替えた。

選考会の前日まで研究&リポートに追われ、生活リズムも不規則だった(撮影・松永早弥香)

3組目のレースは愛知工業大学の鈴木高虎(4年、惟信)を先頭に、1000m3分2~8秒のペースで進んだ。國司は2~3番手からレースをうかがっていたが、競り合っているチームへの牽制(けんせい)のために、なにより「このままだと面白いレースにならない」と考え、國司は5000mを過ぎたところで前に出た。6000m過ぎに皇學館大学の佐藤楓馬(1年、佐久長聖)がしかけて2番手に下がったものの、最後まで粘って2着でゴール。苦しい表情を浮かべながらすぐ側に座り込んだが、声をかけると笑顔を返してくれた。

就職後もマラソンで勝負

卒業後は一般就職をするが、マラソンを見すえて競技も継続する予定だ。フルタイムで働きながら実業団選手と一緒に走るのもいいのではないか、とも声をかけられている。「まだここで終わりにしたくない。今でさえ研究に追われているのに、本当に仕事と両立できるのかなという不安はあるんですけど、せっかくチャンスをもらえたのであれば、失敗してもいいからチャレンジだけはしたい」と前向きに考えている。

エリート選手だけでの開催となった今年3月の東京マラソンで、國司は53位、2時間13分54秒の自己ベストをマーク(撮影・佐伯航平)

今年の東京マラソンでは2時間13分54秒の自己新をマーク。学生の内に2時間10分切りを狙っている。マラソンのためのスピード強化として、今後もトラックレースを考えているが、大学から遠征許可が出るのか、まだ分からない。何より年内は博士論文で手いっぱいだ。それでも「博士論文はまだこれからなんですけど、どんどんチャレンジしたい。卒業するまでにまだまだベスト更新を目指していますから」と意欲を燃やしている。

「学生時代でもっとも大切な大会でした」

全日本大学駅伝東海地区選考会で、名古屋大は4位だった。最後にまた伊勢路を走れなかったことへの悔しさはある。「全日本は高校時代からの夢の舞台でした。これがなかったら今の自分はないと思う。関東の選手にとって箱根駅伝がそうであるように、僕にとっては全日本学が足がかりというか軸になるような。本当に、学生時代でもっとも大切な大会でした」

前回の全日本大学駅伝では東海学連選抜のアンカーを務めた(撮影・朝日新聞社)

名古屋大での全日本大学駅伝出場の夢は、後輩へ。「失敗してもいいから。チャレンジして生きた経験を得て、課題を見つけてほしい。逃げないでしっかり正面からぶつかって、各個人が成長して、そしていつか全日本に出られるようなチームを作ってほしいです」

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