竹田祐が七回2死まで無安打投球、春5位の明治大学が巻き返しへ
東京六大学野球は第4週で明治大学が連覇を目指す法政大学とのカードに連勝し、2位につけた。肩の力が抜けた「猪軍団」は、17日から開幕4連勝中の慶應義塾大学と対戦、春5位からの頂点を目指す。
エースが脱力の投球でリーグ戦初完封
天下分け目の決戦――明大の田中武宏監督は法大戦をそうとらえていた。前週終了時点で明大と法大は、ともに2勝1敗1引き分け。秋のリーグ戦はコロナの影響を踏まえ、従来の2勝勝ち点制ではなく、2回戦・ポイント制で行われている(1勝が1ポイント、引き分けは0.5ポイント)。第3週終了時点で首位は4連勝の慶大。優勝するには連敗は許されず、1敗でも厳しくなる状況だった。
この日も明大ナインは早朝に、グラウンド施設内にある(初代野球部長で野球の発展に尽力した)内海弘蔵の像と、(元監督の)島岡吉郎の像への参拝を行った。恒例の「出陣式」である。大一番を前に気合十分ではあったが、ここまでの戦いでは必ずしも「気合」がプラスに作用していなかった。田中監督は「今年のチームは、まとまりはあるものの、勝ちたい気持ちが強過ぎて、空回りするところがある」と話す。
その象徴が明大のエースナンバー「11」を背にする入江大生(4年、作新学院)だった。立教大学との1回戦では、六回まで投げて8安打3失点。味方が逆転して今年初勝利が転がってきたが、開幕戦の早稲田大学1回戦に続き、2度目の先発でも「11」にふさわしい投球ができなかった。
ただ、その原因は入江もわかっていた。入れ込み過ぎている……エースとしての責任感が力みを生み、ボールのキレと制球力を奪ってしまっていたのだ。法大戦までの2週間、入江は「脱力」をテーマに調整に励んだ。「緩いカーブを投げることで、力を抜く感覚を体に覚えさせました」。何かを変えなければ成長はない。そこには強い決意があった。
法大1回戦での投球は力みを感じさせなかった。二回と八回には2死後に連打を許したが、落ち着いて後続を仕留めた。ネット裏に集結した11球団のスカウトを強く意識することもなかった。要所では何度も捕手のサインに首を振る場面が見られたが、それはつまり冷静に球種を選択していたということだろう。終わってみれば、13奪三振でリーグ戦初完封。1四球と制球も良かった。入江対策に左を6人先発に並べた法大の青木久典監督は「左打者に外のボールを狙わせたが、そこから変化するボールに苦しんだ」と唇をかんだ。
期待を裏切った春を完璧な内容で挽回
先勝にも田中監督は「2回戦の結果が今季の行方を左右する」と手綱を緩めなかった。先発を任されたのは竹田祐(3年、履正社)。高校3年春の選抜で準優勝に導いた右腕は昨春、リーグ最多タイとなる4勝(0敗)をマークしてリーグ優勝に貢献。だが秋は勝ち星なし。今春は開幕試合の早大戦と慶大戦で先発を担ったが、ともに結果を残せず、計8回1/3を投げて9失点と期待を裏切った。竹田は「チームに迷惑をかけてしまった」と振り返る。
春の経緯もあり、田中監督は今秋初先発となる竹田にこの試合を託したわけではなく「ベンチに入れた7人の投手でつないでいくつもりでした」。主将の公家響(4年、横浜)も試合前、こんな言葉を竹田に投げかけている。「3回でいいから、しっかり抑えろ」。
ところが田中監督の想定をよそに、竹田は六回まで与死球1のみのピッチングを見せる。七回も2死まで安打を許さず、ノーヒット・ノーラン達成の雰囲気も漂い始めた。ここで初ヒットを打たれ、そのまま降板となったが、内容としては完璧だった。
明大は髙橋聖人(3年、小諸商)から磯村峻平(3年、中京大中京)とつなぎ、最終回には入江を投入。4人のリレーで2試合連続完封勝利をおさめた。「ストレートが走っていたので変化球も活かせた」。昨春以来の勝利投手になった竹田の表情も満足気だった。
快投の裏には入江同様に、立大戦後の2週間での修正があった。
「投手コーチの西嶋(一記)さんのアドバイスで、テークバックを少しコンパクトにしまして。その結果、ボールを上から叩けるようになり、真直ぐの回転が良くなりました」
球速表示そのものは140km台前半だったが、いい意味で力感がないフォームから投じられるストレートには伸びがあった。
チームの誰もが認める1年生4番が活躍
投のヒーローになったのが入江と竹田なら、打のそれは1年生4番の上田希由翔(きゅうと、愛産大三河)だ。1回戦では均衡を破る適時打を放ち、2回戦では中押しの適時三塁打とダメ押しの2点適時打。第4週終了時点で、打率を4割に乗せた。「1打席、1打席を大切に、集中して打席に入っている」と言う上田に田中監督は全幅の信頼を置く。「なぜ1年生の上田に4番を打たせているのか?」と問われると、きっぱりとした口調で「上田はチームの誰もが認める4番打者であり、チームで打撃技術が一番だからです」と返した。
バックもよく守った。明大は2試合とも無失策。二塁で先発した(九回は三塁)日置航(2年、日大三)は8個の打球を軽快にさばいた。
法大はドラフト候補の両腕の力投報われず
一方、連敗を喫した法大は春秋連覇に黄色信号が灯った。1回戦はドラフト候補の155km右腕・高田孝一(4年、平塚学園)が先発。立ち上がりから150km台を連発するなど「スカウトに見てほしいストレートは走っていた」(高田)。しかし5回を投げて2失点。入江より先に点を与えてしまった。「決め球の精度、これに尽きるのでは…。変化球の高さも甘かったと思います」。会見の間、高田は反省しきりだった。
2回戦では高田と法大2枚看板を形成する鈴木昭汰(4年、常総学院)が先発。こちらもドラフト候補だ。前週の早大1回戦では同じ左腕でプロ注目の早川隆久(4年、木更津総合)と投げ合った。鈴木は八回まで無失点に抑えたが、九回に2失点。138球の力投は報われなかった。同2回戦では1点差に迫られた八回に救援し、痛恨の同点打を喫している。この試合、鈴木には期するものがあったに違いない。その重要性もよくわかっていた。「味方が点を取るまでは失点はしないつもりでした」。結果としてこれが投球を窮屈にしてしまったか、四回2死から2失点。六回まで投げて失点はこれだけと及第点の投球はしたものの、またしても勝利を呼び込めなかった。
「残り2カードで巻き返したい」。青木監督が絞り出した言葉に、高田と鈴木の両腕がどう応えるか。リーグ最多の46度の優勝を誇る「名門」はむろんこのままでは終わらない。