野球

特集:東京六大学 2020真夏の春リーグ

明治大学エース入江大生 「MEIJIの11番」受け継ぐプロ注目の右腕

明治大学の入江大生は勝ち星に恵まれなかったが、計12回を投げ防御率1.50だった(撮影・すべて朝日新聞社)

真夏に行われた約4カ月遅れの東京六大学野球の春季リーグ戦。昨春大学日本一に輝いた明治大学は5位に沈んだが、背番号11を背負ったエースの入江大生(4年、作新学院)は秋につながる投球を見せた。

背番号に恥じない気迫、立ち姿だった

明治大のエース番号「11」にふさわしい投球をしてくれた――。8月14日の法政大学戦に敗れた後、田中武宏監督はそう言って入江をねぎらった。炎天下の人工芝のグラウンドで136球を投げて、9回を10奪三振の1失点。チームは延長12回タイブレークの末、優勝する法大に敗れたが、その気迫、その立ち姿は田中監督を納得させるものがあった。

今年1月より「猪軍団」を率いる田中監督は選手時代、明大野球部の基盤を作った島岡吉郎元監督の薫陶(くんとう)を受けた。監督就任前はコーチを9年、その前は臨時コーチを11年務めている。MEIJIの野球に長く携わり、歴代の背番号11を見てきた。その重さをよく知っている。「MEIJIの11番」はかくあるべしと……。

実は半年前、田中監督と入江の間にはこんな会話があった。「入江、『11』を付けたいか?」「はい」(ちなみに入江は3年生の時、背番号18)「そっか。今年から副主将だから、副将番号の『20』はどうだ?」「いや、勘弁してください」――。田中監督は冗談めかしてはいたが、そこには本音もあった。入江は3年秋までリーグ戦通算2勝。今年のプロ野球ドラフト候補でもある身長187cm右腕に大きな期待はしていたが、この実績ではまだふさわしくないと感じていたのだ。

昨年「11」を背負った伊勢大夢(横浜DeNA)が卒業し、空き番にはなっていた。ただ「11」は空いているから……というものではない。伊勢以前を振り返っても、リーグ通算30勝の野村祐輔(広島東洋)や、リーグ通算20勝の山﨑福也(オリックス)といったそうそうたる投手に委ねられている。重い番号であるゆえ、該当者なしというシーズンもある。

ストレートに球速表示以上の力が

立場は人を変えるという。入江は最上級生になり、副主将になり、何よりも背番号11を付けたことで、精神的にも一本立ちしたようだ。顔つきも変わった。昨年までは森下暢仁(広島東洋)や伊勢がおり、「どこか2人に頼っていたところがあった」と明かしていたが、試合後のコメントもMEIJIのエースそのものだった。入江は一語一語噛みしめながらこう話した。

「先発を任された以上、絶対にチームを勝たせたかった。先制点を許してしまったのは……味方が1点しか取れないなら、1点も与えない。背番号11を付けたエースとして、そういうピッチングをしなければいけなかった。自分の1球の甘さを感じています」

チームは開幕から3連敗しており、法大戦は絶対に負けられない試合だった。入江はそれが痛いほどによくわかっていた。2戦目の立教大学戦、3戦目の慶應義塾大学戦では抑えを担った11番は、この試合がシーズン初先発。田中監督は「1試合総当たりの短期決戦なので、入江をできるだけ多く使いたかった」と託した。

ここまでの2試合では2回が最長だったが、回を重ねてもボールの勢いは変わらなかった。初回に151kmを計測したストレートは九回も147 kmをマーク。田中監督は暑さによる消耗を考慮し、100球くらいでの交代を考えていたが、「入江の目力が全く衰えなかった」。気迫がボールに乗り移ったのだろう。この試合のストレートは、見る者に球速表示以上の力を感じさせた。入江が目標とするところの、来るとわかっていても打てないストレートそのものだった。

作新学院が優勝した第98回全国高校野球選手権準々決勝で3試合連続本塁打を放った入江

打席でもベンチでもチームを鼓舞

この試合、入江は打席でも闘志を見せた。

もともと打撃には定評がある。第98回全国高校野球選手権(2016年)を制した作新学院高3年の夏は、中軸を打って2回戦から準々決勝まで3試合連続本塁打を記録した。準々決勝での先制本塁打は早稲田大学のエースで主将になった早川隆久(木更津総合高)からの一発だった。一塁手兼控え投手だったことから、投手では同期でエースの今井達也(埼玉西武)の陰に隠れたかたちになったが、プロのスカウトからも打撃を注目されていた。

法大戦の五回には先頭打者で二塁打を放ち、七回にも先頭で登場してセンター前にはじき返す。ともに野手顔負けの打撃だった。俺を還せ――。だが後続から快音が響くことはなく、入江はホームを踏めなかった。

マウンドを降りてからも、入江は「MEIJIの11番」だった。136球投げた疲れを微塵(みじん)も見せず、鬼気迫る表情で最前列から人一倍大きな声を出した。入江は「ベンチに下がった以上、みんなを鼓舞して、1球に入れる雰囲気作りをしたかった」。 「MEIJIの11番」としての立ち振る舞いである。歴代の11番がそうであった伝統はしかと入江に受け継がれていた。

真価が問われる秋のシーズン

明大は最終の東京大学戦に勝利し、春のシーズンを終えた。入江は東大戦では登板機会がなく、田中監督に監督初勝利のウイニングボールを手渡すことはできなかった。試合後の会見、田中監督は1勝4敗の5位と不本意だった「春」の収穫を聞かれると、真っ先に入江の法大戦での投球を挙げた。

「あの136球ですね。チーム全員がそう思っているかと。あの立ち姿は素晴らしかった。秋はいかなる相手にも、いかなる状況でも同じ姿を見せてほしい」

エース番号を背負い力投する入江大生。左そでには昨年復活したイノシシのワッペン

田中監督にとって入江は、高校時代から素材の良さに惚れ込んでいた投手だ。エースの座を争っていた同期の今井はプロ3年目の昨季7勝をマークしているが、「彼以上のポテンシャルがあると見ていました」。だからこそ、まだ「MEIJIの11番」として認めたわけではない。

「1試合いい投球しただけですからね。入江にはよく歴代の11番についての話をします。何か不甲斐ないことがあると『そんなんじゃ、野村が、山﨑が許さないぞ。歴代の11番が泣いているぞ』って叱るんです(笑)」

10試合勝率制で行われると発表された秋のリーグ戦は、9月19日開幕で準備を進めている。明大にとっては、春の無念を晴らすシーズンとなる。カギを握るのはむろん入江だ。名実ともに「MEIJIの11番」になった時、41度目のリーグ優勝という栄冠が訪れ、自らの未来も切り拓くことになるはずだ。

◆下の画像バナーよりギフティングサービス「Unlim」を通して寄付やシェアでエールを送ることができます。

◆下の画像バナーよりギフティングサービス「Unlim」を通して寄付やシェアでエールを送ることができます。

in Additionあわせて読みたい