陸上・駅伝

特集:第52回全日本大学駅伝

青山学院大学のスーパールーキー佐藤一世 大学駅伝デビューの区間賞は「最低限」

学生駅伝デビューながら堂々とした走りで区間賞を獲得した佐藤(撮影・朝日新聞社)

第52回全日本大学駅伝

11月1日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
5区区間賞 佐藤一世(青山学院大学)35分47秒☆区間新記録

またひとり、スーパールーキーが力を見せつけた。青山学院大学の佐藤一世(八千代松陰)は11月1日の全日本大学駅伝で5区(12.4km)を走り、区間新記録で区間賞。「最低限の走り」と話す彼からは手応えとさらなる高みを目指す意欲が感じられた。

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区間賞は「最低限」、欲を言えば先頭に立ちたかった

4区の岩見秀哉(4年、須磨学園)から4位で襷(たすき)を受け取った佐藤。先頭とは1分17秒の差があった。スピードに乗って前を追い、途中で前を行く順天堂大の石井一希(1年、八千代松陰)と並走。6.5kmすぎで石井を離してからは単独走となったが、勢いを落とすことなく前を追った。結果、昨年國學院大學の青木祐人(現・トヨタ自動車)がマークした36分06秒の区間記録を19秒縮める35分47秒の区間新記録。先頭の早稲田大学との差は10秒に縮まっていた。

佐藤は、先頭との差を縮めることが自分の役割だと走り出した。レース前は初めての学生駅伝ということでかなり緊張したが、走り出してからはレースに集中できていた。「積極的に行ったんですが、中盤から後半にかけてペースが落ちてしまったので、それが課題だったのかなとも思います。欲を言えば1位になりたかったです。区間賞を取れたので、最低限の走りだったかなと思います」。記録の更新についてはもともと狙っていたと言い、「達成できて素直に嬉しいです」と笑顔を見せた。

1年目にして「区間賞が最低限」と言ってしまうところに大物感が漂う。「競技に関しては、レースになったら先輩後輩関係ないと思います。唯一1年でなにかっていうのがあるとすれば、フレッシュな気持ちで走れたのが良かったのかなと思います」

シーズン前半はけがも、同学年の活躍をモチベーションに

佐藤は昨年12月の全国高校駅伝、各校のエースがひしめく1区(10km)で28分48秒のタイムで区間賞。これは2003年に当時佐久長聖高校の上野裕一郎(現・立教大学陸上競技部監督)がマークした日本選手歴代最高の28分54秒を16年ぶりに更新する快挙でもあった。

全国高校駅伝での佐藤の快走を覚えている駅伝ファンも多いだろう(撮影・藤井みさ)

青山学院大学に入学してからは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、授業はすべてオンラインで行われている。「通学に時間かけることがなかったので、その分を陸上に使えたと思う」と1年目を振り返る。練習時には寮からグラウンドまで5kmの距離を毎回往復。走る距離は自然と増えた。生活や練習量の変化もあり、6月に腸腰筋を痛めてしまい走れない時期が続いたという。「それもあって、高校の時より圧倒的にケアの量が増えたかなと思います。トレーナーだったりスタッフの方に、いろんなケアの仕方やストレッチの方法を教わったりしてます」

佐藤が走れない間、7月のホクレンディスタンスチャレンジや9月の日本インカレで同学年の三浦龍司(順天堂大1年、洛南)や吉居大和(中央大1年、仙台育英)がU20日本記録を更新したり、1年目から優勝するなど活躍した。「走ることができなくて見てるだけだったので、悔しいなと思う反面、自分を奮い立たせることができました。それがモチベーションにつながりました」

三浦くんたちに負けたくないという気持ちが? と問われると、「三浦くんも1区で区間新の走りをしているので、多少ビビってる部分もありますけど……次もし同じ区間になったら、勝ちます」と言い切った。

ライバル・石井一希との並走「運命なのかなって」

今回は八千代松陰高校の同級生でライバル、順天堂大ルーキーの石井一希との並走も話題となった。4.5kmで佐藤が追いついてから突き放すまでおよそ2km、2人はぴったりと並走した。高校時代のベストは佐藤が13分57秒58、石井が13分56秒61と常に切磋琢磨してきた。違う大学に進むと決まり、大学に入ったら一緒に走れるといいね、という話はしていたという。

今年2月のクロカン日本選手権、佐藤(右)と石井はU20男子の部で2、3位だった(撮影・藤井みさ)

「それがまさかデビュー戦、同じ区間で、本当に近くで襷をもらって、それ(一緒に走る)が叶うことができたので……感慨深いというか、なんかすごい嬉しいです」。実力もほぼ同じ、練習も一緒に取り組んできたライバルとのデビュー戦に「今回一緒に走れて、ほんとに運命なのかなって思います。楽しかったです」と笑顔を見せた。ちなみに石井は「負けられないと思ったけど、すごい力の差を見せつけられたなと思っている」とレース後に語った。中継所では「やっぱり速かったね」と石井が佐藤に話しかけたという。

「佐藤一世」の名前をもっと知ってもらいたい

次は箱根駅伝が待っている。今回初めての大学駅伝を走ってみて、「距離は2倍弱あるんですが、雰囲気だったりとかをつかめたので、箱根に向けていいイメージが作れたのではと思います」という。走りたい区間は「ここっていうのはないけど往路」だ。

主将・神林は私生活でも練習でも、佐藤の目指すべき存在だ(撮影・朝日新聞社)

主将の神林勇太(4年、九州学院)やエース・吉田圭太(4年、世羅)などの先輩を見て、「私生活から練習、すべて学ぶことが多いなと思う」と日々吸収し成長する佐藤。原晋監督も「駅伝力は二重丸」と太鼓判を押す彼は、「佐藤一世って言ったら陸上、って言われるぐらい、みんなに知ってもらえる選手になりたいです。いろんな大会で結果を残したりして、知名度を上げていきたい」と大きな目標を描く。これからの快進撃も楽しみだ。

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